心を込めて
「どうしよう…」
和希は七条の部屋の前でウロウロとしていた。
今日は和希の恋人、七条臣の17歳の誕生日だった。
誕生日プレゼントをどうしようかと散々悩んだ和希は、七条が好きなお菓子を贈ろうと考えた。
そのお菓子は手作りで…と決めていた。
折角の誕生日なのだから、世界に1つしかないものをあげたいと和希が考えたからだ。
だが…
初めて作ったマドレーヌはおせいじにも美味しそうとはいえないできだった。
こんな事なら有名店のケーキでも取り寄せればよかったと和希は悔やんでいた。
他に何も用意してなかったので、とりあえずマドレーヌを袋に入れ、綺麗なリボンでラッピングをしてきたのだが、どうしてもこれを渡すのは気がひけてさっきから七条の部屋をノックできない和希だった。
「どうしよう…」
再び同じ言葉を言う和希。
「遠藤君?さっきから何をしてるんですか?」
「わー!!」
いきなり開いた七条の部屋のドアから七条が顔を出す。
驚いた和希に七条は寂しそうな顔をする。
「遠藤君…恋人の顔を見てそんな風に驚くなんて酷いですね。」
「えっ?いや…これは突然で驚いただけであって…何も七条さんに驚いたわけじゃなくて…」
七条はしどろもどろになる和希を微笑みながら部屋の中に招き入れた。
和希はいつものように卓上テーブルの前に座らされた。
「随分と遅かったんですね。急ぎの仕事が来たのかと不安になりましたよ。」
「ごめんなさい…」
和希は誕生日プレゼントが入った袋を後ろに隠しながら答えた。
が、鋭い七条に隠せるわけもなく、
「遠藤君?今隠した物は何ですか?」
「えっと…何でもないです。」
口ではそう言うが様子がおかしいのは明らかだった。
七条は和希の頬をそっと撫でると、
「隠し事は好まないと僕は以前言いましたよね。」
「…」
「遠藤君?」
目を反らした和希を七条は優しく問いただす。
「僕は何も怒っているのではないのですよ。ただ隠し事が嫌なんです。」
「七条さん…」
和希は不安そうな瞳で七条を見つめる。
七条はそっと自分の唇を和希の唇に触れさせると、
「何をそんなに不安がっているのですか?僕では貴方の不安を取り除けないのですか?」
和希は首を横に振る。
七条は嬉しそうに微笑むと、
「なら、その隠した物を僕に見せてくれますか?」
「…はい…」
和希は袋を七条に差し出すと、真っ赤な顔で言った。
「七条さん、お誕生日おめでとうございます。」
七条は驚いた顔をした。
「僕の誕生日を覚えてくれてたんですか?遠藤君。」
「当たり前じゃないですか。大切な恋人の誕生日を忘れるほど俺は馬鹿じゃありませんよ。ただ…隠したのは誕生日プレゼントが上手くできなかったのでどうしようかと悩んでいたんです。」
「上手くできなかった?」
七条は包みを開けながらその意味を悟った。
袋の中には少し色の濃いマドレーヌが入っていた。
おそらく加熱させすぎたと思われるそのマドレーヌを七条はジッと見つめた後、口に含む。
少しパサついてはいるが甘い味が口の中に広がった。
七条は嬉しそうに笑いながら、
「美味しいです。」
「美味しいですか?」
不安そうな顔をした和希を、七条はギュッと抱き締めながら言った。
「こんな美味しいマドレーヌを食べたのは生まれて初めてです。」
「そんな…大げさですよ、七条さん。」
「そんな事はありません。こんなに愛のこもった美味しいものは生まれて初めて食べました。」
「七条さん…」
「ありがとう、遠藤君。」
「俺の方こそ、ありがとうございます。七条さん、本当にお誕生日おめでとうございます。これからもよろしくお願いします。」
「それは僕の台詞ですよ、遠藤君。いつまでも僕の側にいて微笑んでいて下さいね。」
「はい。」
和希は七条の腕の中で最高の笑顔でそう言った。
1日遅れてしまいましたが、七条さん、お誕生日おめでとうございます!!!
七条さんの17歳のお誕生日プレゼントは和希の手作りのマドレーヌでした。
和希、頑張って作ったかいがありましたね。
いつまでも幸せな時が続くように願ってます。
2008年9月8日