今年もよろしくね
「和希様、お疲れ様でした。」
「石塚こそ、お疲れ様。遅くまで済まなかったな。」
「いいえ、これも大切な仕事ですから。」
「でも、毎年の事とはいえ、疲れるな。偶にはのんびりとした年越しをしてみたいものだ。」
ため息を付きながら言う和希に石塚は微笑みながら、
「仕方がありませんよ。この年越しパーティーは恒例の催しですから。鈴菱が参加しなければ大変な事になりますよ。」
「でも、父だって参加しているんだ。何も俺まで参加する必要はないと思うんだけどな。」
「和希様は鈴菱グループの後継者なのですから、参加なさらなければ大変な事になります。」
「だけどな…」
渋るように言う和希は先程までのパーティーでの出来事を思い出していた。
鈴菱グループの後継者である和希が未だに独身なのを、周りの人々がほっとくわけがなかった。
『今度我が家に遊びに来てくれませんか?』
『うちの娘が鈴菱さんにお会いしたいと言っているのですが。』
『いいお嬢さんを知っているのですが、今度お会いして頂けませんか?』
和希に言い寄ってくる人々が持ってくるお見合い話。
最初は笑顔で断っていたが、段々とその笑顔が引きつってくるのが和希自身でも分かっていた。
あまり断るので、『どなたか心に決めた方でもいらっしゃるのですか?』と言われてしまった。
いる事はいるが、人には言えない関係である。
別に不倫をしているという訳ではないが、まさか自校の生徒でしかも男性とは口が裂けても言えない和希だった。
思い出しただけでもため息が漏れてしまった。
そんな和希に、
「和希様は魅力的な方ですから、皆様はほっとく事ができないのでしょうね。」
「石塚〜」
和希は恨めしそうな目で石塚を見る。
石塚は和希の恋人が丹羽だと知っていて暖かい目で見守ってくれている。
「頑張って断り続けて下さいね。下手にお見合いの話を受けたらそのままゴールインという事にもなりかねませんからね。」
「石塚、サラッと怖い事を言わないで欲しいな。」
「そうなったら困るのは和希様だけでなく丹羽君もですからね。丹羽君にどうして止めなかったんだと怒鳴られるのは私としては困りますので。」
「はいはい。」
和希は参ったと言う顔をした。
どうあっても石塚には勝てそうもない。
丹羽に告白されて困っていた時も石塚のアドバイスがなければ、今の幸せはなかったと言っても過言ではない。
今だって、和希には内緒で石塚と丹羽はよく連絡を取っているようだ。
「そろそろ帰りましょうか?もうこのホテルに残っている人は少ないと思いますので。」
「ああ、そうだな。」
パーティーが終わっても和希はすぐには帰らずに、少し時間をずらしてから帰るようにしている。
パーティー会場を出た後、先程の話の続きをしたがる人々と駐車場に行くまでの間に会うのを避ける為だった。
そして駐車場に行った和希はそこで予定外の人と会う事になった。
「よう、和希。お疲れさん。」
「哲也?…どうして…?」
「そろそろパーティーも終わる頃かと思ってな。迎えに来たんだ。」
「迎えに来たって…いつ終わるかも分からないのに来たんですか。」
「まあ、大体の時間は分かってたしな。」
「でも、はっきりとじゃない。こんなに寒いのに、外で待っていたら風邪を引くじゃありませんか。」
「俺はそんな柔じゃねえよ。」
「無理はいけません。」
そう言って和希は丹羽の腕に触れるとかなり冷たかった。
「ほら、こんなに冷たくなってる。受験生なのにこんな事をしては駄目です。」
「平気だって。」
そう言った後、丹羽はクシュンとくしゃみをした。
「ほら、言っているそばからくしゃみをして。寒いなら寒いって言ってくれればいいのに。」
「だってよう。本当に寒くなんかないぜ。待っている間も和希の事を思っていたら寒さなんて感じないしな。」
「まったく、素直じゃないんだから。素直に寒いって言ったら抱き締めてあげるようと思ったのになぁ…」
強がりを言う丹羽を見て和希はボソッとそう言ったが、その言葉を丹羽が聞き逃す筈がなかった。
普段は自分から滅多に丹羽に触れない和希が抱き締めてあげると言ったのだから。
「か…和希?今何て言った?抱き締めてくれるって言ったのか?」
「さあ、俺そんな事言いましたっけ?」
視線をずらして言う和希の顔を丹羽は覗き込んで更に聞いてきた。
「俺はちゃんと聞いたぞ。素直に言えば和希から抱き締めてくれるんだな。ホントは寒かったんだ。だから暖めてくれ。」
「何ですか、その言い方。」
「だってよう、素直に言えば抱き締めてくれるんだろう?」
「だからって…」
文句を言おうとした和希だったが、期待に満ちた顔をして和希を見る丹羽を見てしまったらもう何も言えなくなった。
丹羽には甘い和希だから…
和希はギュッと丹羽を抱き締めると、
「寒い中、迎えに来てくれてありがとうございます。」
「和希に会いたかったからな。」
「うん。俺も凄く哲也に会いたかった。来てくれて嬉しかった。」
「俺こそ嬉しいぜ。あけましておめでとう、和希。」
「あけましておめでとうございます、哲也。今年もよろしくお願いしますね。」
「ああ、俺こそよろしくな。」
今年初のssはパーティーを終えた和希を迎えに来た丹羽の話でした。
『素直に寒いって言ったら抱き締めてあげる』…この言葉を和希に言わせたくて書いた話です。
和希から『抱き締めてあげる』と言われたら最高のお年玉だと思います(笑)
今日から新しい年が始まりました。
今年もよろしくお願いします。
2010/1/1