休暇

中嶋が卒業して半年程経った。
季節は秋。
世間では今回の連休をシルバーウィークと呼んでいた。
しかし、普段学生をしている和希にとってはシルバーウィークは関係ないはずだった。
まとまった連休はたまった仕事を片付けるのにちょうどいい期間だった。
だが、優秀な秘書が和希の為に2日間の休暇を作ってくれていた。
それを知らなかったのは和希だけだった。
夏休みもろくに休暇を取らずに仕事をこなしていたのと、最近中嶋に会えなくて寂しそうにしている和希へのプレゼントに用意してくれた休暇だった。
しかも、温泉旅館付きで…
和希がそれを知ったのは休暇の前日の夜だった。

「これが、最後の書類です、和希様。」
「分かった。」
和希はいつもの様に書類に目を通すとサインをして、それを石塚に渡した。
「お疲れ様です。今日の仕事はこれで終わりです。」
「うん、石塚もお疲れ様。折角の休みなのに、毎日出勤させて悪いね。」
「いいえ、大した事はありません。それに明日から2日間はお休みですから。」
「えっ?石塚は明日は休みなのか?」
驚く和希に石塚は微笑みながら、
「はい。」
「そうか。いや、休日だから当たり前か。ゆっくり休んでくれ。」
「休むのは和希も一緒だろう?」
「ひ…英明?どうしてここに?」
突然に現れた中嶋に和希は動揺していた。
「どうしてここに?これから出かける為だ。」
「出かける?英明はどこにいくの?」
「俺と一緒に和希も出かけるんだ。」
「俺も?だって仕事が…」
「大丈夫ですよ、和希様。明日と明後日は休暇になっていますので、ゆっくりとお過ごし下さい。それから中嶋君、和希様の事をくれぐれもよろしくお願いします。」

石塚はそう言うと頭を下げて理事長室から出て行った。
後に残った和希は驚いた顔をしたままだった。
そんな和希に、
「いつまでそんな惚けた顔をしている。さあ、行くぞ。」
「えっ…行くってどこに?」
「今夜は俺のマンションだ。明日は温泉旅館に予約を入れてある。」
「温泉旅館に予約?英明にしては珍しいね。」
不思議そうに言う和希に中嶋はため息を付いて言った。
「お前の秘書が予約したんだ。『最近和希様はお疲れのようなので温泉に連れて行って癒してあげて下さい』と言っていた。」
「石塚がそんな事を?」
「ああ、さあ、早く帰るぞ。今夜は寝させない予定だからな。」

和希の顔が真っ赤になった。
「なっ…何?それ?」
「久しぶりだからな。和希が求めて寝る時間がないと思っているだけだ。」
ニヤリと笑いながら言う中嶋に和希は頬を膨らませて言った。
「そんな事、俺は言わないからな。」
「そうか?」
「そうだ。どちらかと言うと英明が寝させてくれないんだろう。」
「フッ…最中の和希はあまり記憶がないんだな。仕方ない。そう言う事にしといてやろう。」
「何だよ。俺は絶対にそんな事を言ってないからな。」
ムキになって言う和希の髪をクシャとさせながら、
「そういう事にしといてやると言っただろう。」
納得いかない顔をした和希だったが、久しぶりの中嶋との時間を大切にしたかった。
「英明、マンションに帰る前にどこかで食事をしていってもいい?お腹が減ってるんだ。」
「ああ、そのつもりだ。さあ、行くぞ。」
「うん!」
中嶋の腕に自分の腕を絡めながら和希は嬉しそうに微笑んだ。




久しぶりの中和です。
温泉に行ってきたよ…というメールを友人から頂いた時に思いついた話でした。
忙しい和希ですが、中嶋さんとゆっくりと休暇を過ごせたらいいなぁと思ってます。
                   2009/9/27