Lie With

その日は何故か眠れなかった。
ベットから起き上がった和希は窓の外を眺める。
高層マンションの最上階にあるだけあって眺めはいい。
けれども、その夜景も今の和希には癒しにはならなかった。
こんな夜はあの陽だまりのような少年…啓太に会いたくなってしまう。
屈託のない笑顔で『カズ兄!』と呼んでもらいたい。
でも、日本から離れた異国でそれを望む事はできない。
第一あの幼かった啓太がまだ自分を覚えている可能性なんてほぼゼロに近い…
解っていても、心のどこかで期待している自分がいる。
そんな自分が嫌になった和希は首を横に振ると部屋を出て台所に向った。


「水でも飲んでもう少し寝よう。」
そう呟きながら、台所に行くとリビングから明かりが漏れていた。
恐る恐る和希はリビングを覗くとそこには竜也が1人お酒を飲みながら携帯で電話をしていた。
相手は竜也さんの自慢の息子さんだろうか?
砕けた感じで話すその口調に和希は何故か寂しさを感じた。
竜也さんは俺にいつも優しくしてくれる。
けれども、それは仕事だからだろう。
どんなに頑張ったって竜也さんの息子に敵うわけがない。
そんな事は解りきっていた。


けれども…
今までに和希にそんな風に扱ってきた人など今まで誰もいなかった。
仕事で忙しい両親は俺に関心がなかった。
俺の周りにいたのは教育係と家庭教師、それに身の回りを世話するメイドだけだった。
だから、あの日啓太の祖父の家に行った時は驚いた。
有り余る愛情を注いで啓太に接する祖父と祖母。
それを当たり前のように身に受けていた啓太。
とても羨ましかった。
そんな俺に竜也さんは自分の子のように俺を怒ったりしてくれた。
普通の家庭の子だったらそうだったのかな?といつも思っていた。
けれども…今、目の辺りにしている竜也さんは俺の知っている竜也さんじゃなかった。
和希は思った。
ああ…きっとこれが本当の親子なんだろうと…
いくら優しく接してくれていても俺は所詮仕事相手なのだから…


和希の目から涙がポロリと流れていた。
その時だった、リビングの扉が開き、
「坊ちゃん?こんな時間にどうしたんだ?」
驚いた顔をした竜也はすぐに和希の涙に気が付いた。
「うん?どうした?怖い夢でもみたのか?」
「違います…俺…そんな子供じゃない…」
そう言った和希の頭を竜也はポンッと叩くと、
「何だ?何拗ねてるんだ?」
「…拗ねてなんて…いない…」
「拗ねてるだろう?ったくいつまでたってもお子様なんだからな。さあ、子供はもう寝る時間だぞ。」
「…はい…」
俯きながら言う和希の手を竜也は取ると、
「その様子だとどうせ今夜は1人じゃ寝らねえだろう。一緒に添い寝してやるから俺の布団に来い。」
「えっ…」
驚いた顔をする和希に竜也はニヤッと笑って、
「ほら、早く来い。子守唄でも歌ってやるからな。」
「竜也さん。俺、そんな子供じゃありません。」
頬を膨らませながら答えた和希だったがその顔はどこか嬉しそうだった。




竜也さん遅くなりましたが、お誕生日おめでとうございます。
特にお誕生日の話にはしませんでした。
和希がアメリカに留学中の話です。
ここの和希は竜也さんに父親のような思いを寄せています。
竜也さんも和希を可愛い娘(あえて息子と言わない)として大切にしています。
けれども、鈍い和希はその事には気付いていません。
和希の初めての添い寝の相手は竜也さんなのですね(笑)
                 2008年8月21日