Many Happy

明後日は中嶋さんの誕生日だ。
和希は何をプレゼントしようかと悩んだのだがいいのが浮かばない。
第一物に執着がない中嶋さんだ。
何をあげても、受け取った後その辺に置き忘れてしまいそうで怖い。
埃にまみれているのを見たら、さすがの俺も落ち込みそうだ。
かと言って、中嶋さんに直接聞くのも躊躇われる。
そんな風に思って過ごしていたら中嶋さんの誕生日が明後日になってしまったのだった。


仕方ないと思った和希は丹羽に相談してみた。
中嶋の親友の丹羽なら何か良い案を出してくれるのではないかと思ったからだ。
「王様。王様は中嶋さんの誕生日に何かお祝いをしてあげた事があるんですか?」
「ヒデの誕生日か?毎年俺の部屋で皆でお祝いしているぜ。今年は遠藤も来るだろう?啓太にはもう誘ってるんだ。」
「はあ…」
「楽しいぜ。皆で騒いでお祝いするのはよう。」
また、いつもの飲み会…いや王様の好きな宴会か…
和希はそう思ってそっとため息をついた。
そうなると、中嶋さんの誕生日は2人でお祝いはできないのか。
和希はちょっとだけ寂しい気分になる。
仕方が無いじゃないか…王様と中嶋さんは親友で長い付き合いがあるのだから。
いくら恋人といったって、普段ろくに一緒にいられない俺に比べれば王様の方がずっと中嶋さんの側にいるのだから。
そんな風に考えていると和希はだんだんと落ち込んできた。


理事長職と学生をこなしている和希に自由になる時間は少ない。
幾ら優秀な秘書がいても最終的な事は全て和希にまわってくる。
だから仕方が無いと言い訳している自分が嫌になってくる。
そんな自分を忙しいのだから無理はするなと言っていつも優しく支えてくれる中嶋さん。
つい甘えてしまっているけれども、それじゃ駄目なんだと自分に言い聞かせると和希は毛糸を手に取った。
中嶋さんに似合いそうなダークブルーの毛糸。
これで何か作ろう。
今からだとマフラーしかできないけれども、心を込めて作って渡そう。
和希はそう思って編み始めた。


翌日の深夜、和希は中嶋の部屋の前に立っていた。
今日は接待で遅くなってしまい、和希は制服に着替える時間が惜しくてスーツ姿のまま寮に戻って来てしまった。
篠宮さんに見つかったら2時間のお説教コースだな…と和希は思いながら中嶋の部屋まで来た。
運良く誰にも会わずに来れたのはラッキーだった。
時計を見ると23時50分。
丁度いい頃かなと思い和希はそっと中嶋の部屋をノックする。
「中嶋さん、起きてますか?」
小声で和希は声をかけると、すぐにドアが開いた。
「和希?こんな時間にどうした?しかもその格好で…」
和希はニコッと笑うと、
「中嶋さんに会いたくて来ちゃいました。迷惑でしたか?」
「迷惑なわけ無いじゃないか。とにかく中に入れ。」


中嶋にそう言われ、和希は中嶋の部屋に入るといつもの定位置のベットの側に座った。
中嶋は和希に向って、
「仕事帰りか?随分飲んできたんだな。」
「はい。今日は取引先との接待だったので。」
「そうか。今コーヒーを入れるから待ってろ。」
そう言うとミニキッチンで和希と自分の分のコーヒーを入れ、和希に手渡した。
「ありがとうございます。」
和希は微笑んで答えた。
丁度いい暖かさのコーヒーは疲れた和希の心と身体に安らぎを与えてくれる。


その時和希の携帯のアラームがなった。
中嶋はいつもはバブルにしているのに音がなるように設定してあるのを不思議に思ったその時、
「中嶋さん、お誕生日おめでとうございます。」
和希はふわりと微笑みながらそう言うと、驚いた顔をしている中嶋にプレゼントを差し出した。
何も言わずに動かない中嶋に和希は苦笑いをしながら、
「中嶋さんのお誕生日を1番最初にお祝いしたかったんです。今日の夜は王様が中嶋さんのお誕生日会をするって張り切っていたので、お祝いをするなら日付が変わった時が1番いいかなと思ったんです。仕事が上手く切り上げられて良かったです。これでも時間を気にしながら接待をしてたんですよ。」
そう言う和希を中嶋はジッと見ているだけだった。
和希は寂しそうな目をしながら、
「もしかして迷惑でしたか?ごめんなさい。俺…もう部屋に帰ります…」
そう言うとプレゼントを持ったまま、和希は立ち上がると中嶋の部屋を出て行こうとしてその腕を中嶋に捕まれた。


「中嶋さん?」
涙が零れ落ちそうな瞳で中嶋を見つめた和希に中嶋はいきなりキスをする。
舌を滑り込ませてお互いに絡み合わせる。
最初は驚いていた和希だったが中嶋の巧みなキスの上手さに心地よさを感じ、中嶋に全てを任せていた。
塞いでいた唇を離した中嶋は和希を優しく抱き締める。
「すまない。まさかこんな素敵なお祝いをされるだなんて思わなかったんだ。」
「中嶋さん?」
「ありがとう、和希。今までの中で最高の誕生日だ。」
「…喜んで…もらえたんですか…?…」
「ああ。もちろんだ。嬉しくて反応が遅くなってしまってすまない。」
和希は顔を上げて中嶋の顔をみると、破顔で答える。
「良かったです。俺…もしかして迷惑を掛けたんじゃないかと思ったんです。」
「そんな事あるわけないだろう。」


中嶋は和希の身体を離すと手をスッと和希の前に出した。
和希は何の事だか解らずに困った顔をした。
そんな和希を中嶋は微笑みながら、
「俺にプレゼントをくれるんだろう?」
和希は慌ててプレゼントの包みを中嶋の前に差し出した。
中嶋は嬉しそうに受け取ると、包装紙を開け中のマフラーを取り出した。
「いい色のマフラーだな。和希が編んでくれたのか?」
「はい。俺にはこんな事しかできませんから。」
「大切にするからな。」
中嶋は嬉しそうに微笑んで大事そうにマフラーを持っていた。
「で…プレゼントはこれだけか?」
「えっ?…」


和希は困った顔をした。
もしかして中嶋さんはお誕生日ケーキが欲しかったのだろうか?
甘いものが好きではないので特に用意はしてこなかった。
和希は申し訳ない顔をして言った。
「ごめんなさい。俺、ケーキを用意しませんでした。」
「ケーキ?そんなものは俺はいらない。」
「えっ?それじゃ、何が足りないのですか?」
不思議そうな顔をする和希に中嶋はニヤッと笑いながら、
「今日は俺の誕生日なんだろう?おれが1番欲しい物をもらっていいんだよな。」
「はあ…で、中嶋さんが1番欲しいものって何ですか?」
ボケた質問をした和希に中嶋は意地の悪い顔で答えた。
「和希に決まっているだろう?今日はいつも以上にサービスをしてくれるんだろうな。」
「えっ?えっ?」

和希の返事など聞かないで中嶋はベットに和希を押し倒す。
驚いた顔をしている和希の額にそっとキスをすると、
「ふっ…スーツ姿のせいか理事長としている気分になるな。」
「なっ…何言ってるんですか?」
「年上の理事長なら、さぞやテクニックがあるのだろうな。」
「そんなわけあるはず無いじゃないですか?“遠藤”でも“理事長”でも同じ俺なんですから。」
「そうか?」
「そうです!」
そう叫んだ和希だったが、今日は中嶋の誕生日なのでできるだけ中嶋の望む通りにしてあげよと思ってしまった。
「中嶋君が望むなら、今日は君の望む通りにしてあげよう。今日は年に1度の君の誕生日なのだからね。理事長からの誕生日プレゼントを特別に中嶋君だけに渡すよ。」
和希はそう言った後、中嶋にそっと触れるだけのキスをする。
誕生日の夜はまだ始まったばかりだった。




2日早いですが、中嶋さんお誕生日おめでとうございます。
忙しい和希ですが、1番最初にお誕生日のお祝いをしてあげられて良かったですね。
どんな夜になったかは皆さまで楽しく想像して下さいね(笑)
                  2008年11月17日