餅つき大会
「えっ?餅つき?」
驚いた顔をして和希は丹羽を見つめた。
そんな和希を丹羽は愛しそうに見つめながら、
「おう!楽しそうでいいだろう!」
「はぁ…」
「何だ?張り合いがないなぁ。」
ぼやく丹羽に和希は苦笑いをする。
張り合いがないと言われても餅つきの知識は知っていても、実際に餅つきをした事も見た事もない。
だから、楽しみだろうと言われてもよく分からないのである。
「冬休みだけど、補習や部活動で残っている連中も多いだろう。明後日の9時から始める予定なんだ。で、お汁粉とお雑煮にその餅を入れて食べるんだ。つきたての餅は旨いぞ。」
「つきたてのお餅でお汁粉とお雑煮ですか?美味しそうですね。でも、ごめんなさい。明後日は…仕事があるんです。」
申し訳なさそうに言う和希の髪を丹羽はグシャとさせながら、
「分かってるよ。最近忙しいんだろう。毎晩寮に帰って来るのが午前様のは知っている。だから、少し顔を出すだけでいいんだ。食べ始めるのは12時過ぎだから昼の休憩時間にちょっと食いに来いよな。」
「それなら、何とか行けるかな。」
「楽しみに待ってるぜ。」
「はい。でも、期待しないで下さいね。いつ急ぎの仕事が入るか分からないですからね。」
念を押す和希に丹羽は分かったから時間が取れたなら来いと笑って言った。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「やっぱり、和希来なかったですね…」
丹羽や中嶋達と餅つきの後片付けをしていた啓太は丹羽を見ながら申し訳なさそうに言った。
「なんて顔をしているんだ、啓太。和希は忙しかったら来れないと最初から言っていたんだ。だから気にするな。」
「でも、俺が王様に言ったから王様は餅つき大会をしたんでしょ?俺が余計な事を言わなかったら…」
「啓太。お前のせいじゃない。お祭り好きな丹羽が単に騒ぎたかっただけだ。」
「中嶋さん…」
「ヒデの言う通りだ。学生会の仕事で疲れてたからぱぁ〜と騒ぎたかったんだ。俺としたら返って気分転換をさせてもらって嬉しかったぜ。ありがとうな、啓太。」
「そんな事ないです。でも、そう言ってもらえると嬉しいです。俺こそ楽しかったです。ありがとうございました。」
啓太は嬉しそうに笑うと丹羽に頭を下げた。
この餅つき大会は実は啓太の話を聞いて丹羽が始めたのだった。
啓太から和希は今まで普通の暮れも正月も知らないと聞いたからだ。
何か1つでも正月らしい事を体験させてやりたいと思った丹羽が思い付いたのが餅つき大会だった。
だが、結局和希は来なかったのだ。
何かあったのかと気になって何度となく携帯をチェックした丹羽だったが何もなかった。
忙しい時は連絡出来ない事は珍しくはない。
分かってはいても、寂しさを隠しきれない丹羽だった。
片付けが終わっても丹羽は1人その場に残って座っていた。
隣にはお盆が置いてあり、ラップをかけたお椀が2つあった。
1つはお汁粉で、もう1つはお雑煮だ。
篠宮がもしも和希が来たらレンジで温めて食べてもらえばいいと言って用意してくれたのものだった。
「餅つきを見た和希の顔が見たかったなぁ…」
丹羽はそっと呟いた。
学生生活を送る和希には知らない事がたくさんあった。
でも、和希は初めて知った事でも顔には出さないでいた。
丹羽はそんな和希に嬉しいことがあったり驚いた事があったら表情に表していいと教えた。
最初は途惑っていた和希だったが、徐々に表情が豊かになっていった。
丹羽の顔を見て『凄いですね』と言う和希は本当に嬉しそうだった。
だから…
今回の餅つきもきっと誰よりも1番喜ぶだろうと思っていた。
「いつまでもここにいても和希が来るわけでもないし…もう戻るか。」
丹羽が立ち上がった時、
「王様!!」
丹羽は後ろを振り返った。
そこには丹羽に向かって走ってくる和希の姿があった。
和希は丹羽の側に来ると息を整えながら、
「よかった。まだいてくれて。」
「和希…」
「遅くなってごめんなさい、王様。餅つき大会に間に合う予定だったんですが、研究所の方でトラブルがあったんです。メールも送れない状態でごめんなさい。」
丹羽は和希の頬をそっと触れる。
思いっきり走って来たのだろう。
額にはうっすらと汗をかいている。
「馬鹿だな。こんなに汗をかいて風邪を引いたら困るだろう。」
「だって、せっかくの餅つき大会だったから来たかったんです。でも、結局は間に合いませんでしたけどね。」
寂しそうに笑う和希に丹羽はお盆を差し出す。
「これは?」
「餅つき大会の餅で作ったお汁粉とお雑煮だ。寮に帰ってレンジで温めて食べようぜ。」
「今ここで食べます。」
「だって、もう冷めてるぜ。暖かい方が上手いぜ。」
「でも…今がいいんです。餅つき大会をしたここで、王様に餅つき大会の話を聞きながら食べたいんです。」
「そうか。ならそうするか。」
「はい。」
その場に座って丹羽の話を聞きながら和希は楽しいひとときを過ごしたのでした。
王様の話を聞いていたら餅つき大会に参加した気分になった和希でした。
つきたてのお餅はとても美味しいですよね。
お餅の食べ方をどうしようか迷ったのですが、王様ならちょっと変わった食べ方をするかな?と思ってお汁粉とお雑煮にしました。
普通はからみ餅とかあんこ餅、きなこ餅だと思います。
2009/12/28