内緒のプレゼント

「目的の為にはどんな手段でも使う・腹黒い・鬼畜・陰険…」
中嶋さんの事をそう言う人は多い。
でも、本当の中嶋さんの姿を知っている人は中嶋さんの分かりづらい優しさを知っている。


中嶋がBL学園を卒業して初めて会ったのは、卒業してから2週間経った頃だった。
場所は中嶋がこれから住むマンション。
中嶋は卒業後、実家には帰らずに都内のマンションに1人暮らしをする事になっていた。
「ここですか?」
「ああ。」
「随分とセキュリティーがしっかりとしているマンションですね。」
「お前が俺に会う場所だ。それなりの場所ではないと危ないだろう。」
「えっ?」
不思議そうな顔をする和希に、
「何を驚く事がある。鈴菱の後継者が通う事になる所なら当然セキュリティーもそれなりの所でないといけないだろう。」
「俺の為に?」
「さあな。」
中嶋はニヤッと笑いながら部屋のドアを開けた。
ドアの扉も2重ロックになっている。
一介の学生が住むには厳重すぎる位の住まいだった。

翌朝、学園に戻る和希を中嶋は車で送っていた。
久しぶりに会った為、一晩寝ずに中嶋に求められた和希は車の中で熟睡していた。
「和希、着いたぞ。」
中嶋に肩を揺さぶられ、目を開いた和希はまだ眠そうだった。
「大丈夫か?まだ眠そうだが。」
「はい。大丈夫です。英明の隣だと安心して眠れちゃって。」
「なら、良かった。寝不足で帰しては後でお前の秘書に何を言われるか分からないからな。」
「ぐっすりと眠れたから大丈夫です。でも、英明は寝てないけど大丈夫?」
「フッ…俺は和希と違って若いからな。一晩位寝なくても何ともない。」
「うっ…俺だって一晩位なら大丈夫です。」
「そうか?その割には随分と気持ち良さそうに寝ていたじゃないか。」
「それは疲れてたから…」
頬をほんのりと赤くさせて和希は拗ねた風に答えた後、
「それじゃ、俺はもう行きますね。」
そう言ってシートベルトを外した和希の腕を中嶋は掴んだ。
「ひであ…」
中嶋からのキスにそれ以上何も言えなかった。
最初は啄むように触れていたそれは徐々に深いものに変わってくる。
車の中にクチュクチュと音が響いていた。
中嶋の唇が離れると、そこには瞳を潤ませ、頬を紅潮させた和希の姿があった。
中嶋は後ろの座席から真っ赤な薔薇の花束を取り和希に差し出した。
驚いて目を見張る和希に、
「どうした?」
「どうしたって…それは俺の台詞です。こんなにもたくさんの薔薇の花をどうしたんですか?」
「和希に渡す為に買い求めたものだ。」
「俺にですか?」
「ああ。」
「どうして…」
「久しぶりに恋人に会ったんだ。これくらいしても構わないだろう。」
「でも…」
「好きな相手に花を贈るのは当たり前だ。和希には深紅の薔薇がよく似合うからこの色にしたんだ。」
「英明…ありがとうございます。」
和希は嬉しそうに花束を受け取ると車を降りた。
「気をつけて帰って下さいね。」
「ああ。」
中嶋はそれだけ言うと車を走らせた。
中嶋の車が見えなくなると和希は腕に抱えている薔薇の花束を見た。
「まさか、英明から花束をもらうだなんて思わなかった。」
そう言うとソッと薔薇の花に口づけをした。
「ありがとう、英明。愛してるよ。」
そう囁いた後、サーバー棟に入って行った。





『内緒の花束』の番外編です。
トノサマの「俺様がわざわざ花なんて贈らなくても、花を定期的に贈ってくれる相手がいるのだから俺は渡さないぜ」の台詞はこの場面を見ているからです。
しかも、中嶋さんは和希を送ってくる時に毎回キスをしてから薔薇の花束を渡しています。
和希は気付いていませんが、中嶋さんはきっとトノサマの存在に気が付いていてわざと見せつけるようにしているのかもしれませんね(笑)
             2010年11月1日