NAME
「丹羽さん…丹羽君…丹羽…」
う〜ん、何かが違う。
「哲也さん…哲也君…哲也…」
う〜ん。これもいまいち。
和希は悩んでいた。
最近、丹羽と一緒にいてある事に和希は気付いた。
和希が丹羽の事を「王様」と呼ぶと必ず丹羽は少し淋しそうな顔をするのだ。
二人きりの時などさらに淋しそうな顔をする。
まして…あの時なんて一瞬だが動きが止まる。
気付いてないふりをしているけれども、丹羽本人に自覚があるのだろうか?
理由は何となく解っている。
和希が丹羽の事を「王様」と呼んでいる事だろう。
丹羽の誕生日以来、丹羽は和希の事を「和希」と呼ぶ。
でも和希は丹羽の事を未だに「王様」と呼んでいる。
多分、それが丹羽には引っかかっているのだろう。
なら…どうして丹羽は言ってくれないんだろう。
たった一言「俺の事を名前で呼んでくれ。」と言えばいいのに。
和希本人が聞かなくてはならないんだろうか?
だからさっきから呼び方を考えているのだが、なぜかピンとこない。
もう、考える事に疲れてきた和希は、いっそうの事中嶋の様に「哲っちゃん」と呼ぼうかと真剣に思っていた。
その時、いきなり後ろから声が掛かる。
「和希、何してるんだお前、こんな所でボォ〜として。」
「お…王様?王様こそどうしてここに?」
「ちょうど通りかかったら和希の姿が見えたからさ。」
ほら、また…王様気付いていますか?今また淋しそうな顔をしたのを。
俺、辛いんですよ、貴方のそんな顔を見るの…
俺にどうして欲しいんですか?
俺一人に決めさせるんですか?
和希は丹羽にギュッと抱きつく。
突然の行為に丹羽はオロオロする。
「か…和希?どうしたんだ?」
和希は丹羽の胸に顔を埋めながらボソッと言った。
「…ですか?」
「え?今何て言ったんだ?よく聞こえなかった。」
「何て…呼べばいいんですか?」
「何の話だ?」
「な…名前…」
「名前?」
「王様じゃ嫌なんでしょう?俺、貴方の事何て呼べばいいんですか?」
「和希…」
多分恥ずかしさで一杯なんだろう。耳まで赤くしながら顔を埋めたままで和希は聞いてくる。
「早く答えて下さい。でないと、一生“王様”としか呼びませんよ。」
これが、恥ずかしがりやで意地っ張りの和希の丹羽への精一杯の愛情表現。
丹羽は嬉しさで胸が詰まる。
「そうだな…“哲也”がいい。」
「呼び捨てでいいんですか?“さん”とかはいらないんですか?」
「そんなものはいらない!」
「…解りました…」
そのまま黙ってしまった和希。
「なぁ和希、早速呼んでくれよ。」
「今…ですか?」
「ああ。」
「今はちょっと…」
「何でだ?」
「…恥ずかしいです…」
「誰もいないぜ?」
「…」
「和希?」
「…」
「ほら、早くしろよ。」
「…也…」
「えっ?よく聞こえないな。」
「…哲也…」
今にも消え入りそうな声で和希は言った。
丹羽は嬉しくてたまらずに和希をギュッと抱き締める。
「て…哲也…苦しい…」
丹羽は和希を抱く力を少しだけ緩めてから言った。
「もう一度言えよ。」
「哲也。」
丹羽は和希の髪にそっと唇を落とす。
「これからは、ずっとそう呼べよ。」
「二人きりの時だけです。」
「えっ?」
「人がいる時は今まで通り“王様”です。」
「え〜何でだよ。」
「何ででもです。」
「別にいいじゃねえかよ。」
「駄目です。公私混同はしません。嫌ならずっと“王様”です。」
「ちえっ。仕方ねえな。解った。二人きりの時だけだな。」
「はい。」
「なら、今は二人きりだ。俺の顔を見ながら言ってくれるよな、和希。」
和希はオズオズとしながら顔を上げて、丹羽と目を合わせると、破顔で言った。
「哲也。」
バカップルな和希と王様の話です。
名前…親しくなると呼び方が変わりますよね。
真剣に悩む和希が可愛いです。
そして嬉しさを隠そうとしない王様も好きです。
いつまでも仲良くお互いを名前で呼び合って下さいね。