懐かしい思い出

※この話は子供の頃に和希と中嶋さんが出会っていたという設定になっています※







眠っている和希の髪の毛にそっと触れる。
先程までの情事のせいで汗で湿っているが柔らかなその髪を優しく中嶋は撫でる。
「お前は覚えてもいないのだろうな…けれども、俺にとっては今も鮮明にあの日のお前の姿が目に浮かぶんだ…」
そう呟きながら、中嶋は和希の髪を撫で続けていた。
それは10年以上も前の出来事だった……
初めて2人が出会った日の事をおそらく和希は覚えてないだろうと中嶋は思っていた。

        ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

「ねえ、君。皆と一緒に遊ばないの?」
1人椅子に座っていた中嶋は声を掛けた人物を見た。
自分より幾つか年上のその少年は淡い茶色の髪をして優しい瞳で中嶋を見ていた。
今日は大手の病院や製薬会社など医療関係の集まりだった。
普段は大人だけで行うこの集まりだったが、今回は季節が12月という事もあり、クリスマスを兼ねた家族同伴可能のパーティーとして行われていた。
その為、子供用の遊びスペースが用意されていたのだった。
幼い中嶋も父に連れられてここに来たのだが、普段1人でいる事になれている上に年齢よりも大人っぽい考えをもっている為にお子様相手に作られたその遊びスペースで中嶋は遊ぶ気にはなれないでいた。
「1人で行きづらかったら、僕と一緒に遊ばないか?」
何も答えない中嶋にその少年はもう1度言った。
「1人がいいからここにいるんだ。ほっといてくれ。」
中嶋はその少年を見ないで言った。
そう言えばきっとすぐに自分の側から離れると思ったからだ。
世の中には親切をしたがる奴は大勢いる。
それは大人に限った事ではなく、子供も同じだった。
中嶋はそういう性格の人が嫌いだった。

そんな中嶋にその少年は隣に座りながら言った。
「もしかしてつまらない?実は僕もそうなんだ。もし、良かったら僕と少しの間、話をしてくれないかな?」
中嶋の隣に座ったその少年を見ると、その少年は嬉しそうに笑った。
「やっと、僕の事を見てくれたね。」
中嶋は驚いた顔をした。
今までこんなに綺麗に微笑む人物を見た事がなかったからだ。
慌てて視線を反らしながら、
「俺の話は子供には難しいぞ。」
「君だって子供だろう?それに話してくれないと難しいかどうかも分からないじゃないか。」
「なら、分かるかどうか話してやる。」
中嶋は自分が興味がある専門的な話をした。
いくらその少年が自分よりも多少年上でもこの話にはついて来れないと考えたからだ。
だが、その読みは外れてしまった。
中嶋が話すどの話にもその少年の知識の方が上回っていたからだ。
いつの間にか中嶋はその少年との話に夢中になっていた。

「和希様、お話中失礼します。お父様がお呼びになっています。」
「分かった。今行く。」
その少年はそう言って立ち上がると中嶋に向かって、
「今日はありがとう。とても楽しかったよ。」
そう言うと迎えに来た人と一緒に人混みの中に消えて行った。
その少年が消えるまでその姿を見ていた中嶋はそっと呟いた。
「和希って呼ばれていたな…」
他人に対して興味を持たない中嶋が興味を示した人物だった。
けれども、もう2度と会う事もない人物など月日と共に忘れるだろうと思っていた中嶋だったが、和希に対する想いは消える事はなかった。
中嶋本人は意識していなかったが、それは中嶋にとっての初恋だった。

月日は流れ、中嶋はBL学園3年生の入学式の日にあの日に会った和希と呼ばれていた少年にそっくりな人物に出会う事になる。
その新入生の名前は遠藤和希。
あの時、呼ばれていた少年と同じ和希と言う名前だった。
けれどもあの時の和希と呼ばれていた少年は確かに中嶋よりも年上だった。
他人のそら似か…
そう思いながらもいつも和希を目で追っていた中嶋が和希に恋をするのにはそう時間が掛からなかった。
そして知ることになった和希の正体。
もしかしてあの時の少年なのだろうか?
そう思いながら当時の記録を調べた中嶋はあの時の少年の名が鈴菱和希だと知った。
長年忘れられなかった相手に恋をしてしまった運命を感じながら中嶋は和希に告白して付き合う事になった。

        ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

中嶋は自分も布団に入ると和希を抱き締めながら、
「あれが俺の初恋だったかもしれないな…」
そう呟くと目をソッと閉じて眠りの世界に入っていった。

あのパーティーの日…
和希は話し掛けた少年の名前が中嶋英明だと知っていた。
小さいながら豊富な知識を持つ中嶋に興味を持った和希はあの日の事を忘れずにいたのだった。
そして3年前、入学者リストの中にその名前を見つけた時は嬉しかった。
あの時の小さな少年がこんなに立派に成長してしかも自分の学園に通うようになるとは思わなかったからだ。
おそらくあの時の些細な会話など覚えていないだろうと和希は思っていた。
けれども、和希の心の中には啓太と同じくらいに大切な思い出として残っていたのだった。
2年間、理事長として中嶋を見つめていた和希は中嶋に恋をしていたがこの想いを打ち明けるつもりはなかった。
遠藤和希として学園に通い、啓太と共に学生会の仕事を手伝い、中嶋と親しくなれて嬉しかった。
が…
和希の正体が理事長だとばれた数日後に和希は中嶋に告白された。
最初は拒んだが、中嶋の本気に勝てる訳はなく和希は中嶋と付き合うようになった。
あの時の事はきっと覚えてないだろうと思いつつも、いつか思い出してくれればいいのに…
和希はいつも心の片隅でそう思っていた。

数年後…
中嶋と同居していた和希は中嶋の古いアルバムにあの時の写真が写っているのを見つけ、ずっとお互いがその時の事を大切な思い出として覚えていた事を知る事になる。



中嶋さんお誕生日月間の最後の話は和希と中嶋さんが子供時代に出会っていたという話でした。
中嶋さんはきっと可愛げのない子供だったと思います。
でも、そんな中嶋さんが可愛いと当時の和希は思ったんじゃないかと想像しています。
                          2009/11/30