New Year's Day
お正月と言っても仕事はある。
デスクワークではなく、新年の挨拶まわりや集まりだが、これも大切な仕事の1つだ。
でもさすがにこの歳で独身というのは目立つらしく、新年そうそう言い寄ってくる人々の対応に正直疲れ切っていた。
そして今日は1月3日…やっと和希は丹羽に会える。
「よう、坊ちゃんじゃねえか?こんな所で何をしているんだ?」
「竜也さん?竜也さんこそどうしてここに?」
丹羽との待ち合わせにコーヒー店で、本を読みながら待っていた和希は突然に竜也に声を掛けられて驚いていた。
「俺は仕事帰りだ。」
「ご苦労様です。俺はここで待ち合わせなんです。それよりも、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。」
「ああ、おめでとう。今年もよろしくな。」
クシャと和希の髪の毛を撫でる。
その大きな手は丹羽と変わりなく、和希は思わず微笑んでしまう。
「もう、竜也さんてば、いつまでも子供扱いしないで下さいよ。」
「坊ちゃんはまだ子供だろう?そういう格好をしていると本当に高校生に見えるぞ。」
「これでも童顔を気にしてるんですよ?」
「そうか?俺は可愛くていいと思うぞ。」
「竜也さん、からかわないで下さいよ。」
「何だよ、あれ…」
丹羽は入り口で不機嫌に立っていた。
年が明けてやっと和希に会える…そう思って今日という日を楽しみに待っていたのに、待ち合わせ場所に来てみれば、そこには和希と竜也がいて、しかも楽しそうに話し込んでいる。
悔しいが和希は竜也といると、本当にいい顔をする。
留学中ずっと護衛に竜也が側にいたせいか、丹羽といる時よりも心を許している所がある。
丹羽は前々からそれが気に入らなかった。
そんな丹羽に竜也が気が付いた。
「おっ、哲也じゃないか?」
「王様?」
竜也から視線をずらし、和希は丹羽に向かって微笑み掛ける。
「なんだ、坊ちゃんの待ち合わせの相手って哲也だったのか?」
「はい。俺がまだ初詣に行ってないって言ったら、王様が連れて行ってくれるって。それと神田の町も色々案内してくれるって言ってくれたんですよ。」
「ふ〜ん。こいつとまめに連絡を取り合ってるのか?」
ニヤッと笑う竜也に和希は慌てて答える。
「ち…違いますよ、竜也さん。その…そう!生徒会の仕事の事で聞きたい事があったんです。俺、生徒会の手伝いをしているから。」
「こんな正月にか?ご苦労な事だな。」
二人の仲は親父には秘密にしているから、本当の事が言えないのは解っているが、さっきから何なんだ、和希と親父は…丹羽は思った。
俺を無視して話し合っている二人にだんだん腹が立ってくる。
新年そうそうふたりのじゃれ合っている姿を見に俺はここにいるんじゃない。
大体和希も和希だ。
俺が、恋人がすぐ側にいるのに他の男に何無防備にべたべたと触らせてやがるんだ。
しかも笑顔まで振りまいて…
端から見れば、仲の良い親子にしか見えないのに、丹羽の目にはそう映らない。
その時、
「もう、竜也さんてば止めて下さいよ。」
和希のその言葉が耳に入った瞬間に、丹羽の中で何かがブチッとキレた音がした。
ツカツカと和希の前に立つとその腕を掴み立たせる。
「お…王様?」
「行くぞ!和希!」
「おいおい、どこに行くつもりだ?」
「初詣に決まってるだろう。ぐずぐずしていると、暗くなってくるだろう。」
「そうだな。なら俺も一緒に行くか。」
「なっ…何言ってるんだよ、親父。」
「王様、竜也さんと三人で行きましょう。」
「なっ…和希、お前何言って…」
和希は丹羽の側に来ると小声で、
「王様が大声を出すから、さっきから皆がこっちを見ているんですよ。もう恥ずかしいから早くここを出ましょう。」
そう言うと、竜也の方を振り返り、
「どこの神社に連れてってくれるんですか?俺楽しみだな。」
「この近くの地元の神社でいいか?小さいけど落ち着いたふいんきだぜ。」
「はい。お願いします。王様も行きましょう。」
「ああ…」
笑顔の和希のにそう言われて、丹羽は渋々後をついて行った。
面白くない…本当にそう思う。
さっきから俺の前を歩く二人、和希と親父を見て丹羽はそう心の中で呟く。
仕事の話で盛り上がる二人の会話に丹羽が入れる訳もなく、つくづく学生でいる自分がイヤになる。
自分が学生じゃなかったら和希もあんな風に仕事の話をしてくれるのだろうか…いや、経験豊富な親父相手だから和希もあんな風に楽しそうに話してるんだ。
でも…本当だったら今頃は俺がああして和希と話していて、あいつの笑顔を俺が見ているはずだった。
そんな事を考えていると、
「王様ってば、聞こえてますか?」
ふと気付くと、和希の顔が目の前にある。
綺麗なその顔を間近で見てドキッとする。
「どうしたんですか?ボゥ〜として。」
「い…いや、それよりも何だ?」
「何って、王様はお参りしないんですか?」
いつの間にか神社に着いていて、既に境内の中にいる。
和希はもう親父とお参りを済ませたんだろう…丹羽は心の中でため息を一つ付く。
「ああ、今する…」
「俺も一緒にお参りしていいですか?」
「えっ?お前もう親父とすませたんだろう?」
「竜也さんとですか?まさか。だって俺、王様と初詣したいって行ったじゃないですか?王様とお参りしたいんですけど、ダメですか?」
少し寂しそうな顔をして和希は言う。
「ばかだな、一緒にしたいに決まってるだろう。」
パァーと明るい笑顔になった和希と一緒に丹羽はお参りする。
「なぁ和希、何を願ったんだ?」
「内緒です。」
「秘密かよ。」
「だって言ったら願いが叶わなくなっちゃうかもしれないでしょう?だから内緒です。」
「そうか、なら仕方ねえな。」
丹羽は笑って答えた。
「さてと、これからどこに行くか和希。」
「坊ちゃん、ウチに来ねえか?」
「竜也さん?」
「久しぶりにゆっくり飲もうぜ。」
「えっ…え〜と…」
困った顔をした和希を見たとたん、今までの我慢の限界が来た。
丹羽は和希をグイッと引っ張ると、自分の胸に和希を抱きしめながら言った。
「いい加減にしろよな親父。和希が困っているのが解らねえのかよ。和希は俺に会いたくてここに来たんだよ。親父はさっさと家に帰ってお袋に酌でもして貰って酒でも飲んでろよ。俺はこれから和希と二人で新年を祝うんだから、これ以上邪魔するな!!」
「お…王様…」
和希は泣きそうになる。
竜也にはまだ丹羽と付き合っている事は言ってないのだ。
お世話になっている竜也に「貴方の大切な一人息子と付き合っています」などと、そんな事は言えない。
そんな事を言ったらどんなにか竜也がショックを受けるだろうか?
自分の息子が男と付き合っているだなんて知ったら、いくら竜也でもいい顔は出来ないだろう。
言えない…和希はずっとそう思っていた。
どんなに苦しくても、言えない事があるんだと和希は思っている。
「解った、解った。」
竜也はそう言いながら和希の頭をポンッと軽く叩く。
「坊ちゃん、悪いがこいつのお守りを頼むな。」
「えっ…?」
驚く和希に竜也は優しく微笑む。
「俺はもう帰るから、後は二人で楽しくやりな。」
そして丹羽に向かって、
「どうせ今夜は帰って来ないんだろう?上手く言っといてやるからな。」
「お…親父!」
何か言いたげな丹羽と顔を真っ赤にした和希に手を振りながら竜也は帰って行く。
残った和希は不安そうに丹羽に聞く。
「竜也さん、何か気付いたかな…」
「さあな、どうでもいいだろう、そんな事。」
「それよりもこれからどうするの?哲也。」
今年初めて和希から名前で呼ばれて、丹羽は嬉しそうに笑って答える。
「そうだな。まずは夕食だな。肉を一杯食って、それから和希を頂くか。」
「なっ…ばか、哲也。こんな所で言うなよ。」
「いいだろう?それとも和希はイヤか?」
和希は困った顔をしながら、周りを見回し誰もいない事を確認すると、丹羽の頬にソッとキスをした。
「イヤな訳ないだろう?俺お腹空いちゃったから早く夕ご飯食べよう。」
「よし!焼き肉食いに行くぞ!!」
ふわりと笑う和希の手を丹羽は握りながら二人は歩き出した。
2008年初小説です。1月1日に無事にUPできて嬉しいです。
この年賀小説ですが、期間限定でフリー配布してます。
2008年1月31日23時59分までです。
よろしかったら、お持ち帰り下さい。
今年も楽しく王和の話を書いていきたいです。
皆様にとって素敵な一年になります様に願ってます。
今年もよろしくお願いします。