An Official

「すみません、王様。俺明日から海外出張になっちゃいました。」
しょぼくれた顔で学生会室へ来た和希は申し訳なさそうに言った。
「そっか。まぁ、仕事じゃしょうがないじゃないか。」
「でも…この間の花火大会の日、夏休みに色々遊びに行こうって約束したじゃないですか。」
「仕方ないだろう、仕事なんだから。遠藤らしくないぞ。」
「だって…」
珍しくごねる和希の頭を丹羽は優しく撫でながら言う。
「どうしたんだ?本当に変だぞ。」
丹羽を見つめていた和希は視線をずらしボソッと言った。
「だって楽しみにしていたのに…」
思わず丹羽はにやけてしまった。
めったに我が儘なんて言わない和希がごねているのだ。
丹羽にしてみればこんなに嬉しい事はない。
「でもよぅ遠藤、花火大会には一緒に行っただろう?」
「それはそうですけど…俺花火大会の事はできれば忘れたいんです。」
「そりゃないだろう。せっかく一緒に行ったのに。」
「女装させられたんですよ。思い出したくもないですね。」
「似合ってたんだからいいじゃねえか。」
「そう言う問題じゃありません。」
「そうか?その割には啓太と二人で夜店ではしゃいでたじゃないか。」
「うっ…それは…だって夜店なんて2回目でしたから。」
「2回目?」
「はい。啓太に初めて会った夏に行った事があるんです。」
「そうか。」
「それよりも悪かったですね。子供みたいにはしゃいで。」
「いーや。可愛かったから許す。」
「なっ…可愛かったって…」
「啓太と二人でじゃれ合っている所なんて、物凄く可愛かったぜ。ヒデと二人で微笑ましいって話てたんだぜ。」
いや、本当は“何だ、あの二人は。子犬の様にじゃれ合って”と呆れて言ってたけれども、これは俺の秘密にしておこうと丹羽は思った。
「それにな…」
丹羽は和希の耳元でそっと呟く。
「花火が上がっている時、俺にキスのおねだりをしてくれただろう。嬉しかったぜ。」
「あ…あれは…その…」
耳まで赤く染めて和希はうろたえる。
そんな和希を嬉しそうに丹羽は見つめた。
「お…王様…その話もう終わりにしませんか?」
「そうだな。遠藤がキスをしてくれたら止めようかな。」
「うっ…俺から…ですか?」
「そう、お前から。」
「…」
「遠藤?」
「…」
「明日から海外出張なんだろう。」
「そうです。」
「何日間行ってるんだ?」
「10日間です。」
「ふ〜ん。10日間も俺を日本に置いて行くんだ。」
「好きで行くんじゃないんです。」
「解ってる。」
「俺、仕事で行くんです。」
「解ってる。」
「俺だって10日も王様に会えなくなるのは淋しいんです。」
「解ってる。」
「…」
「遠藤。」
和希は丹羽の唇にそっと触れるとすぐに離れた。
そんな和希の腰に丹羽は手を回し、ニヤッと笑う。
「まさかこれで終わりじゃないよな、遠藤。」
「え…ダメですか?」
「当たり前だろう。これから10日間も離れ離れになる恋人に対してこれじゃあんまりだろう。」
丹羽にそう言われ、和希は困った顔をした。
それでも今日の丹羽は引かなかった。
諦めた和希は再び丹羽にキスをする。
今度は触れるだけでは無く、深いキスを心を込めて丹羽に送った。
短い様で長い10日間の海外出張。
名残惜しそうに丹羽は唇を離すと和希に囁いた。
「俺はここで待っている。だから、気を付けて行って来いよ。」




べちこ様10000ヒットおめでとうございます。お祝いに小説を書いてみました。良かったら受け取って下さい。
今回は王様に甘える可愛い和希を書いてみようと思ったのですが、いかがでしょうか?(いつも意地っ張りで素直じゃない和希ばかり書いているので)
最後の王様の台詞が実はとても気に入っています。