美味しいのは君だけだよ

「遠藤、啓太、これ一緒に食べよう。」
そう言って成瀬は和希の目の前にイチゴのタルトを差し出す。
啓太と一緒に食堂で楽しく話しをしながら夕食を食べていた和希は目の前に差し出されたイチゴのタルトを黙ってジッと見つめていた。
「わー!美味しそうですね。これって成瀬さんが作ったんですか?」
嬉しそうに言う啓太に成瀬も笑顔で答える。
「うん。最近疲れる事が多いだろう?疲れた時って甘いものが欲しくなるからね。何を作ろうかとお店を見ていたらイチゴが特売だったんだ。それも大粒で艶がいいイチゴが。で、このイチゴを使って作るんならイチゴのタルトかなって思ったんだ。確か、啓太はイチゴが好きだったよね。」
「はい。大好きです。」
「良かった。啓太の嬉しそうな顔が見られて作ったかいがあったよ。」
嬉しそうに頷く啓太に満足する成瀬。
でも、視線をすぐに和希に戻すと何も言わない和希に声をかけた。
「遠藤は、イチゴのタルトが嫌いなの?」
和希の顔を覗き込むように顔を近づけた成瀬に和希は驚きながら、
「な…成瀬さん…顔…近づけ過ぎです…」
「そう?僕は可愛い遠藤の顔がまじかで見られて幸せだけどな。」
ニコニコしながら言う成瀬に和希は頬を膨らませる。
「可愛いって…それっていつも成瀬さんが啓太に言っている台詞でしょう。言う相手を間違えないで下さい。」
「僕は間違えてないよ。もちろん啓太は可愛いよ。でも、遠藤はもっと可愛いよ。」
「なっ…」
真っ赤な顔をする和希。
そんな顔をするともっと言いたくなってしまう成瀬だった。
「本当だよ、遠藤。何度でも言うよ、君は可愛いって。」

困って視線を泳がせている和希に成瀬はとどめを指す。
「本当はね、疲れているから遠藤が食べたかったんだ。」
「…あんた、自分が何を言っているんだか分かってるんですか!」
「もちろん。」
にこやかに言う成瀬に和希は思わず言ってしまった。
「そんな事を言うのは王様だけで結構です!」
「かっ和希っ!何言ってんのっ」
啓太が顔を真っ赤にさせて言う。
「へっ?…」
啓太の顔を見た和希はわれに返り、啓太よりも顔を赤くさせる。
そんな和希と啓太を見ながら、
「遠藤って結構大胆な事を平気な顔をして言うんだね。驚いたな。うん、驚くって言えば、会長ってそんな事を遠藤に言うんだね。意外だな。」
興味深々に言う成瀬に真っ赤な顔をしながら和希は叫ぶ。
「…っ!!うるさいっ!あんたが悪い!あんたのせいだ!!」
「か…和希…声、大きいよ。」
啓太が何とか和希を落ち着かせようと必死になっていた。
啓太になだめられて少し落ち着きを取り戻してきた和希は更に追い討ちをかけられる事になる。

「俺も甘いものは苦手だが、お前は別だ」
いつの間にか側に来ていた中嶋はするりと和希の細腰を引き寄せ耳元に囁きかけた。
「なっ…中嶋さんっ」
啓太と成瀬の目の前で和希に口付けする中嶋。
それは触れるだけの優しいキスだったけれども、和希は目を開けたまま硬直していた。
「あーーーーっ!!!」
「うるさいぞ、成瀬。」
「ずるいっ!!副会長、ずるいっ!僕も遠藤を食べたいっ!!」
「フッ…お前にはまだ早い。」
「そんな事ありません。遠藤、僕も遠藤を食べてもいいよね。」
「だ…ダメです!!」
そう叫んだのは和希ではなく啓太だった。
「中嶋さんも成瀬さんも和希を食べちゃダメです!和希を食べてもいいのは俺だけです!」
「え〜、いつからそんな事になったんだい、啓太。」
「前からです。和希は俺のものなんです。」
「俺のもの?遠藤はお前の親友だろう?親友が食べるとは思えんがな。」
「うっ…確かに和希は俺の親友だけど…親友なら軽い触れ合いくらいはいいんです。なあ、和希。」

啓太が振り向いた先にはわなわなと肩を震わせている和希の姿があった。
「和希?」
「遠藤?」
不思議そうな顔をして声をかける啓太と成瀬。
面白そうに笑いながら、事の成り行きを見ている中嶋。
そんな3人に向かって和希は叫んだ。
「俺は食べ物じゃありませんっ!!」
「食べ物だろう。ただし俺専用のな。」
聞き慣れた愛しい声と共に抱きしめられる和希。
「お…王様?」
「ったくよう…俺がちょっと目を離すとこれだからな。」
丹羽はため息を付きながら和希を両腕に持ち上げた。
そう…お姫様抱っこだ。
和希は顔を真っ赤にさせ、降りようと暴れるが丹羽の力に敵うわけがなかった。
「暴れるな。落ちたら怪我をするだろう?」
「なら、降ろして下さい。」
「嫌だ。」
「もう…こんな人前で何を考えているんですか!」
「何をって和希の事だけを考えてるに決まってるだろう。」
ニヤッと笑いながら、
「それよりも和希。中嶋に唇を許しただろう。」
「…っ…見てたんですか?」
「ああ。」
「なら、助けてくれたっていいじゃないですか!」
「あれくらい避けられなくてどうするんだ。今夜は覚悟するんだな。」
「覚悟って…」

嬉しそうに笑う丹羽を見て和希は大人しくなる。
丹羽は本来は優しいが暴走すると手がつけられない所がある。
この様子だと今夜は眠る事はできそうにない。
それどころか一晩中、丹羽が満足するまで付き合わなくてはならない。
それだけは勘弁してもらいたい。
丹羽の体力についていける人物などそうそういない。
それは和希とて例外ではない。
丹羽の本気に付き合わされたら翌日どころがよくて酷ければ3日間起き上がれる事ができなくなってしまう。
「お…王様…俺が1番好きなのは王様ですからね。」
引きつった笑顔で言う和希に丹羽は嬉しそうに笑う。
「おお。俺もだ。でもな、それとこれとは話が別だ。啓太の事は、まあ目をつぶろう。和希がどれだけ啓太を大事にしているか知ってるからな。だが、いつも成瀬から食べ物をもらって食べてるし、ヒデには身体を触れさせている上にキスまで許す始末だ。」
「そ…それは…俺が悪いんですか。成瀬さんは啓太と一緒にって好意でお菓子やお弁当を作ってくれているだけだし、中嶋さんのは単なるスキンシップですよ。そりゃ、さっきのキスはちょっと冗談にしてもよくありませんでしたけど。」
真顔で言う和希の顔を見て、丹羽はため息を漏らす。
和希にとっては中嶋も成瀬もただの可愛い生徒にしか思えないのだから。
だが、丹羽は知っている。
中嶋も成瀬も、そして他にもたくさんの奴が和希を自分のものにしようと狙っている事に…
「まったく、無自覚なのも程ほどにしろよな。少しは自分が狙われているって事に気が付けよ。」
「狙われてるって…もう、王様、俺いつも言ってるでしょう?それは王様の欲目だって。」
プウッと頬を膨らます和希に心底困った丹羽でした。

3月18日にさくらさまから『和希を食べちゃう妄想話で王和前提の和希総受け話』をコメントで頂きました。
とても素敵なお話で是非この話を元に小説を書きたいとお願いをしました。
そうしたら「どうぞvv」と優しいお言葉を頂き、誕生したのがこの話です。
天然無自覚和希を守る為に今日も頑張る王様でしたww
さくらさまに限り、お持ち帰りO.K.です。
さくらさま、本当にありがとうございました!
            2011年4月25日
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