Play Mate

「あっ!遠藤君、丁度良いところに来たね。」
生物室の窓から海野先生が和希に大きく手を振る。
「海野先生、どうしたんですか?」
「いいから、早く中に入って。話はそれからだからね。」
「はぁ…」
半ば強引に話をふられて仕方なく和希は生物室がある建物の中に入っていく。
“コンコン”
規則正しいノックをして和希が生物室に入れば、いつものごとく散らかった書類にビーカーに入った薬品。
本当に海野先生は…その頭脳は計りきれない程凄いのにどうしてこう無頓着なんだか。和希はそっとため息を付く。
そんな和希の気持ちを知らない海野先生は、入ってきた和希を見てニコニコしている。
「遠藤君最近忙しいの?ちっとも遊びに来てくれないから淋しかったよ。ねぇトノサマ。ほらトノサマも言ってるよ、淋しかったって。」
「そ…そうですか?」
「うん!でねぇ遠藤君。」
和希は嫌な予感がした。こういう時の予感って結構当たるんだよな。
「トノサマが久しぶりに遠藤君と遊びたいって言ってるんだよ。」
「…」
当たったな…和希は心の中で思った。
「良いよね、遠藤君。」
「い…いや、実は俺今から用事があって無理なんです。」
最近は研究所の仕事が忙しくて午後から研究所にいる事が多く、寮にはいつも門限ぎりぎりに帰っていた。今日は久しぶりに仕事がないので啓太と一緒に学生会の手伝いをする予定だった。
「え〜、そうなの?残念だな。トノサマ、遠藤君ダメなんだって。」
「ブミャ〜」
がっかりした海野先生とトノサマ。
俺が悪いのか…と和希は思ってしまう。
「せっかく遠藤君と遊べると思って楽しみにしていたのにね。残念だねトノサマ。」
「ブニャ〜ン」
二人(いや、正確には一人と一匹か)に言われ和希はため息をつく。
「いいですよ、海野先生。たいした用事じゃないので、キャンセルしてトノサマと遊びますよ。」
「え?いいの?遠藤君。」
「ええ、いいですよ。でも、遊ぶ前にメールを打たせて下さいね。相手に断りをいれなくちゃまずいですから。」
「うん!もちろん!良かったねトノサマ。」
「ブニャ〜ニャ〜ニャ〜」
そんな二人を見ながら、
『折角ゆっくり啓太と過ごせると思ったのになぁ。でも、こんな海野先生やトノサマ見ていたら断れないし、俺トノサマと遊ぶの好きだし…悪い啓太、許してくれ。王様ごめんなさい。今日の埋め合わせは必ずします。だから今日は俺の好きにさせて下さい。』
断りのメールを打ちながら和希は心の中でそう呟いた。


「王様、和希今日来れなくなったんですって。」
ここ、学生会室で啓太はメールを見ながら丹羽に話しかけた。
「えっ?急ぎの仕事でも入ったのか?」
「う〜ん、どうだろう?珍しく何も書いてないんですよね。仕事の時は大抵仕事って書いてくるんだけどな。」
「そっか…」
つまらなそうな顔をする丹羽。最近和希は忙しくてゆっくりと話すヒマもなかった。でも今日は仕事がないので学生会の手伝いをすると啓太から聞いていた。日直で少し遅くはなるらしかったが。実は丹羽はすごく楽しみにしていたのである。
「ちぇっ、つまらないな。なんかやる気失せたぜ。」
もっていたボールペンを机の上に投げると、丹羽はふてくされて言った。
そんな丹羽を見て啓太は慌ててフォローする。
「お…王様、和希きっと急ぎの仕事が入ったんですよ。すごく急ぎの仕事が。」
「そうか?」
「そうですよ。だって和希今日学生会室に行けるって嬉しそうに言ってたんですよ。」
「嬉しそうに?遠藤がか?」
「はい。それにすごく楽しみにしていたんですよ。」
「ふ〜ん、そうか。」
嬉しそうにニヤニヤする丹羽。良かった、これで王様も真面目に仕事をしてくれるだろうと啓太は心の中で思った。
が…啓太のそんな努力をあざけ笑うかのように、窓辺でコーヒーを飲んでいた中嶋の一言が学生会室に響いた。
「啓太、遠藤ならさっきからそこで遊んでいるぞ。」
「「え!」」
啓太と丹羽が同時に叫び窓辺へと寄る。確かに外に和希はトノサマといた。
「和希…トノサマと遊んでいるの?」
困った顔で啓太は呟くと隣の丹羽を見た。そこには面白くないという顔をしている丹羽がいた。
「よりにもよって、あの猫かよ。」
「ああ、さっきからトノサマと楽しそうに遊んでいるぞ、遠藤は。」
「俺といるよりあの猫と一緒にいる方がいいのかよ。」
「可哀相にな、哲ちゃん。遠藤はお前よりもトノサマの方が良いらしいな。」
「な…俺はあの猫よりも劣るっていうのか?」
「そうだろう?現にああして遠藤はトノサマと楽しそうに遊んでいるじゃないか?そういえば、お前と付き合う前はよくああして遊んでいる姿を見たな。」
「…ああ、そうだな。」
「王様、和希って動物がとても好きなんですよ。」
「啓太?」
「和希とトノサマってすごく仲良しなんです。よくああして一緒に遊んでたし。でもね王様、和希は王様と付き合うようになってから、あまりトノサマと一緒に遊んだり、抱っこをする事をしなくなったんです。どうしてだか分かりますか?」
「いや、何でだ?」
「王様が猫が苦手だって知ってるからですよ。トノサマが近づいて来ても“ごめんな、トノサマ。また今度一緒に遊ぼうな。”って言って自分の側にトノサマを近づけさせないんですよ。」
「どうしてそこまでするんだ?別に俺がいない所なら、何をしてもいいじゃねえか。」
「和希はね、潔癖なんですよ。トノサマと遊んだり抱いたりしたら、猫の毛が付いたり匂いが付くじゃないですか。王様が猫を嫌いなのにそのままじゃ会えないからって、トノサマと遊んだり抱いたりした時は王様に会う前にシャワーを浴びて制服を取り替えるんですよ。」
「バカか、遠藤は。普通そこまでしないだろう。」
呆れたように中嶋が言う。啓太も苦笑いをする。
「俺もそう思いますよ。だって和希ってば予備の制服を二着も持っているんですよ。」
「二着もか?」
「はい、王様。一着だとクリーニングに間に合わない日があるんですって。可愛いですよね、和希って。」
「ほう、面白い話だったな啓太。丹羽、良かったな、遠藤にそこまで愛されてて。」
丹羽は顔を赤くして何も言わずに自分の椅子に座ると、仕事を始めながら心の中で呟いた。
『しょうがねぇな。そこまであの猫と遊ぶのが好きなら、時々遊ばしてやるか。あの猫と遊んでいる時の遠藤、すげぇいい顔しているからな。俺以外の奴にあんな顔見せるのは許せねぇが、猫相手じゃ仕方ないしな。まあ、今日のところは俺も仕事が忙しいし、遠藤の好きにさせといてやるか。』





アニメ「学園ヘヴン」第一話“季節はずれの転校生”を見て思いついた話です。海野先生が和希に「トノサマと遊んでくれない?」と言っていたので、和希とトノサマって実は仲良しなのかなぁって思いました。
王和なのに二人の会話がなかったのが書いていて寂しかったですが、啓太が一生懸命和希の気持ちを語ってくれたのが気に入ってます。