Pocky Game

「おや、遠藤君良い所でお会いしましたね。」
廊下を一人で歩いていた和希は、曲がり角で偶然に七条にあった。
「七条さん。」
七条はにこにこ笑いながら、
「丁度遠藤君にお会いしたかったんですよ。」
「俺にですか?」
「はい。貴方に是非渡したい物があるんです。お時間がありましたら、これから会計室に来て頂けませんか?」
「えっ?」
和希は一瞬考えた。あの七条さんが俺に渡したい物…?何だか嫌な予感がするのは気のせいか?
七条は、そんな和希の顔をのぞき込む。
「何かお急ぎのご用でもありますか?それなら仕方ありませんが。」
しおらしく言う七条に和希は苦笑いをしながら答えた。
「大丈夫ですよ、七条さん。」
七条は嬉しそうに笑った。
「そうですか。それではご一緒に参りましょうか。美味しい紅茶をお入れしますね。」
「はい。ありがとうございます。」
和希はそう言うと七条と共に会計室に向かった。


会計室に入ると、そこにはいつもどうりに、西園寺がいた。
「ただいま戻りました、郁。」
「ああ、何だ、遠藤も一緒か?」
「ええ。ちょうどそこで遠藤君にお会いしましてね。あれを差し上げようと思って来て頂いたんです。」
「あれをか?」
西園寺はもの凄く嫌な顔をする。
そんな西園寺を見て、七条は少し困った感じに笑った。
「いいじゃないですか?郁は嫌かもしれませんが、あの方はきっと大喜びなさると思いますが。」
「確かにあいつなら、大喜びするだろうな。」
そう言うとチラッと和希を見る。
「ただし、遠藤がそんな事をするとは私には思えんがな。」
「郁。恋は盲目って言うじゃないですか。遠藤君もあの人の為なら喜んですると僕は思いますよ。」
今まで黙って話を聞いていた和希が遠慮気味に声を掛ける。
「あの…さっきから何の話をしているんですか?俺が何かをするんですか?それにあの人って誰の事ですか?」
不思議そうな顔をする和希に、七条はにこやかに笑うと、
「その話はお茶を飲みながらお話しましょう。さあ、遠藤君はソファーに座って待ってて下さいね。今お茶を持って来ますからね。」
七条にそう言われた和希は、不安な顔をしながらソファーに座る。
チラッと西園寺を見るが、何事も無かった様にしている。
「お待たせしました。遠藤君。郁、こちらで飲みますか?」
「いや、私はここで良い。」
西園寺の答えを聞くと七条は紅茶を西園寺の側に置くと和希の所に戻ってくる。
「さあ、どうぞ。」
「あっ、はい。頂きます。」
和希は七条が入れた紅茶を一口飲む。
甘い香りがする。
「美味しい。」
和希がそう言うと七条は嬉しそうに微笑む。
「ありがとうございます。ちょうどいいアッサムが手に入ったんですよ。そうそう、この間美味しいチョコレートティーを買ったんです。今度伊藤君と一緒に飲みに来て頂けますか?」
「チョコレートティーですか?楽しみだな。俺甘い香りと味が好きですよ。」
「そうですか?それは嬉しいです。郁はお気に召さないんですよ。」
「当たり前だ。」
西園寺は嫌そうに言った。
そんな西園寺を見て、和希はクスッと笑う。
「確かに、西園寺さんの好みではありませんよね。啓太なら大喜びしそうですが。そうだ!七条さん俺に渡したい物って何ですか?」
「ああ。これですよ。」
そう言って七条が和希に渡した物はポッキーの箱だった。
「これって、ポッキーですよね?」
「はい、そうですよ。」
不思議そうな顔をする和希に七条は微笑む。
「どうして…?」
「おや?遠藤君はご存じありませんか?今日はポッキーの日なんですよ。」
「はい?」
「ポッキーの日です。これで会長とポッキーゲームでもして下さいね。」
「あの…ポッキーゲームって何ですか?」
「ご存じありませんか?」
「はい。」
「そうですか…それでは僕が特別にお教えしましょう。」
七条はそう言うと、和希の耳元で何かを囁く。
その背中には黒い羽と尾があった。
和希の顔がみるみる赤くなる。
「む…無理ですよ、七条さん。俺そんな事できませんから。」
「何を言ってるんですか?そんな事を言ったら会長が可愛そうですよ。」
「で…でも…」
涙目になる和希。
「会長に貴方の愛情を誤解されますよ。それでもいいんですか?まあ、僕には関係ない事ですが。」
和希は暫く俯いていたが、顔を上げて言った。
「俺、何とかやってみます。」
「そうですか。頑張って下さいね、遠藤君。」
「はい。それじゃこれで失礼します。」
そう言って、頭をさげると和希は会計室から出て行った。
後に残った西園寺は深くため息を付いた。
「臣、お前遠藤に何を言ったんだ?」
「何をって、ポッキーゲームを教えてあげただけですよ。いやだなあ。何を考えているんですか?」
「ただのポッキーゲームなら遠藤があそこまで動揺しないだろう。まあいい。私には関係ない事だ。」
「そうですよ、郁。」
ニコッと笑いながら七条は心の中でほくそ笑んだ。
『今夜は素敵な夜になりますよ、会長。楽しみに待ってて下さいね。』


その晩、点呼が終わった10時過ぎ、和希は丹羽の部屋の前に立っていた。
何度もドアを叩こうとしては、その手を引っ込めてはまた叩こうとする。
「はあ〜」
和希はため息を付く。
先程、七条から教えて貰ったポッキーゲーム。
本当にしてあげると丹羽は喜ぶのだろうか?…和希はまだ悩んでいた。
「でも…哲也が喜ぶんだったらしてあげた方が良いんだろうな。」
和希はまたため息を付くが、いつも丹羽に色々と我慢させているので、七条が言う通り丹羽が喜ぶなら多少恥ずかしくてもやってあげたいと思った。
和希は思いきって、ドアをノックする。
「誰だ?」
丹羽の声に和希はドキッとするが、勇気を出して答えた。
「遠藤です。」
「和希?」
勢いよくドアが開き、嬉しそうな顔をした丹羽がそこにはいた。
「どうしたんだ?和希。こんな時間に。」
和希は微笑んで答えた。
「哲也に会いたくなって来ちゃいました。迷惑でしたか?」
丹羽は一瞬驚くが、直ぐにいつもの笑顔になる。
「ば〜か。迷惑な訳ないだろう。和希だったら毎晩来てくれて構わないぜ。」
「毎晩って言うのはちょっと。」
「とにかく、中入れよ。こんな所で立ち話も変だからな。」
「はい。お邪魔します。」
和希は丹羽の部屋に入ると、徐に言った。
「哲也…これ食べる?」
「はあ?」
いきなり差し出されたポッキーの箱に丹羽は唖然とする。
「何で、ポッキーなんだ?」
顔を真っ赤に染めて和希は俯きながらボソッと言う。
「だって、今日はポッキーの日なんだろう?だから俺…哲也と…その…」
「その?何が言いたいんだ?」
「俺とポッキーゲームをして下さい!お願いします、哲也!!」
「か…和希?」
いきなり、大声で言う和希を丹羽は唖然と見詰める。
和希は直ぐに答えてくれない丹羽に対して、不安を感じた。
和希は丹羽を愛しているけれども、丹羽の方はそれ程では無いのか?
和希は悲しくなって、涙が出そうになる。
そんな時丹羽が言った。
「ほら、いつまで下を向いてるんだ?それじゃ、ポッキーゲームできないじゃねえか。」
丹羽の声に、和希は顔を上げる。
そこにはポッキーの箱を開けて、ポッキーを1本取り出した丹羽がいた。
「哲也…」
「ほら、さっさとくわえろよ。和希がしたいって言ったんだろう?」
和希は丹羽に抱きつくと、
「ありがとう、哲也。」
「ああ?まだ何にもしてねえぞ?早くしようぜ。」
「はい!」
和希は嬉しそうに答える。
そして二人で端から食べていくポッキーはドンドン短くなっていき、お互いの唇が触れた。
その時、丹羽は呆然とした。
唇が触れ合った瞬間、和希は丹羽の口の中に舌を入れてきたからだ。
普段なら恥ずかしがって絶対にしないその行為。
暫くして唇を離した時、またしても耳を疑う言葉を丹羽は聞く事となった。
「哲也…ポッキー美味しかった?…美味しかったなら…今度は…俺を…食べて…くれる…?」
真っ赤になりながら、下からのぞき込む様に言う和希。
それは完全に丹羽を誘っている。
こんなチャンスはもう2度とないかもしれない。
丹羽はゴクッと喉を鳴らすと、
「いいのか…?」
何も言わない代わりにコクッと頷く和希。
丹羽は和希を抱きしめると食い入るようなキスをする。
「今夜は寝させないからな。」








突発的に書いた話です。
シュウからのメールで知った“ポッキーの日”。
いったい七条さんは和希に何を教えたんですか?
正しいポッキーゲームで無い事は確かですが…
またもや、下書き無しに仕上げた作品です。
七条さんの思惑どうりに、「素敵な夜」になりましたね、王様。
そして和希君お疲れ様でした。良く頑張りましたね。
二人にとって素晴らしい夜になりますように、お祈りしています。