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「ねえ、和希。王様とけんかした?」
「えっ…」
休み時間、和希は啓太にそう聞かれ困った顔をした。
「どうしてそんな事を聞くんだ?啓太。」
「う…ん。最近王様なんか元気なくてさ。仕事も上の空って感じなんだ。」
「ふ〜ん。でもさぁ、王様の仕事が上の空ってよくある事だろう?それに王様って学生会室で仕事をしている時ってあんまり元気がないじゃないか。啓太の気のせいだよ、きっと。」
明るく言う和希に啓太は少しだけ納得がいかない顔をした。
「和希の言う通りかもしれないけど、何かこういつもの王様と違うんだよな。」
「そうなのか?中嶋さんは何て言ってるんだ?」
「中嶋さん?」
「ああ、そうだよ。王様の親友なんだから誰よりも王様の様子に気付くだろう。何か言ってたのか?」
「う…ん…」
歯切れの悪い啓太を和希は不思議そうに見詰めた。
「何か言ってたんだろう?」
「和希怒らない?」
「ああ。」
「あのね…中嶋さん、和希のせいだって怒ってるんだ。」
「俺のせい?」
和希はムッとして答えた。
慌てる啓太。
「もう、だから怒らないでって言ったじゃないか。」
「いや…怒ってないよ。で、何で俺のせいなんだ?」
「その理由は俺にも言わないから、こうして和希に聞いてるんじゃないか。」
啓太は少し膨れて言った。
「特には思い当たらないな。何か思い出したら啓太に必ず話すからな。」
「うん。」
丁度その時、チャイムがなったので和希と啓太はそれぞれの席についた。


和希は啓太に解らないように、ソッとため息をついた。
啓太には王様の機嫌が悪い理由は解らないと言ったが実は思い当たる節がある。
間違いなくあの事だと和希は思った。
全く哲也は…悪いのは哲也じゃないか。
なのに、まるで俺が悪いみたいに言われるなんて心外だ。
もうそろそろ許してあげようと思ったけど、まだ暫くはこのままでいよう。
少しは反省しろよ…と和希は心の中で哲也に向って囁いた。
それは、数日前の事だった。
丹羽の部屋で朝を迎えた和希は、シャワーを浴びようと風呂場に行った途端に大声を出した。
「哲也!これなんだよ!」
「ああ…何だよ和希…」
寝ていた所を呼び出されて、丹羽は欠伸をしながら風呂場に来た。
そこには、機嫌の悪い和希がいた。
「哲也。昨夜あれだけ言ったのになんでこんなに痕がついてるんだよ。」
「えっ…」
丹羽の目が一気に覚める。
和希の身体には昨夜というか今朝まで丹羽が愛し続けた痕があちらこちらに残っている。
白く綺麗な肌にその赤い痕は花びらのようにあちらこちらについている。
和希は丹羽をキッと睨む。
「今日は体育の授業がプールだからあれほど痕をつけないでくれって頼んだじゃないか!」
「悪い。つい…」
「ついじゃありませんよ。俺、ただでさえあまり授業に出れないのに。これじゃ、今日の体育の授業見学じゃないですか。」
「だから、悪かったって。」
「悪いじゃ済まされませんよ。」
「だってよう。和希が色っぽいからいけないんじゃねえか…」
ボソッと呟いた丹羽の一言を和希は聞き漏らさなかった。
「へえ〜。悪いのは俺ですか?俺が色っぽいのがいけないんですね。」
「いや…」
丹羽は焦った。
和希がこうなると機嫌を直すのが大変になる。
慌てて謝ろうとしたが、既に遅かった。
機嫌を損ねた和希はシャワーも浴びずにさっさと服に着替えると、丹羽の部屋を出て行こうとしていた。
慌てる丹羽は急いで和希の腕を掴むが和希はそれをはらう。
「俺、夏休みになるまで哲也と2人きりにはなりませんから。」
「えっ…」
「哲也は俺を見るとシタくなるんでしょう?なら暫く2人きりでは会わないようにした方がいいと思うから。」
「なんでだよ…」
丹羽は悲しそうな目で和希を見るが、和希は冷たく丹羽を見ていた。
「夏休みが来るまで待ってて下さいね。」
「なんで夏休みなんだよ。」
「体育の授業のプールがある間は哲也には会わないから。」
「どうしてだよ。今回の事は俺が全面的に悪かった。今度から気をつけるからそんな惨い事言うなよ。」
「哲也は信用おけないから駄目です。それより俺もう部屋に戻りますね。そろそろ戻らないと学校に間に合いませんからね。」
和希はニッコリを笑って言うが目は笑ってはいなかった。


哲也にしては頑張った方だと和希は思っていた。
今日は夏休み前最後の体育の授業だから、今夜哲也の部屋に行こうと思ってたのに…
2週間もよく我慢したねって褒めてあげようと思ったのに…
ご褒美に今夜は哲也の好きにしていいよって言ってあげるつもりだったのに…
和希はため息をつく。
もう知らない。
後数日、夏休みが来るまで我慢したらいいさ。
和希は悪戯っぽく笑いながら、窓の外を見ていた。



珍しく強気に出た和希の話でした。
王様は夢中になってしまうと約束を忘れてしまうんですね。
それは和希も一緒だと思うんですが。
単なる痴話げんかの話でした。
そして1番迷惑を被った中嶋さん、お疲れ様でした。
              2008年7月14日