Present

「誕生日プレゼント?」
和希は驚いて啓太に確認する。
「そう。7日は七条さんの誕生日だろう。俺、七条さんにはいつもお世話になってるから、何かプレゼントをしたいんだ。」
「それは解った、解ったけどまずいんじゃないか?七条さんに誕生日プレゼントを渡すだなんて、中嶋さんが知ったら啓太、お前大変な事になるぞ。」
「解ってるよ。」
少し頬を膨らませて答える啓太に、和希は言う。
「本当に解っているのか?間違いなく“お仕置き”されるぞ。それもスペシャルな物に決まってる。」
「和希。それ、どういう意味?」
「どういうって、そのままだよ。」
「酷いよ、和希。いくら中嶋さんでもそこまで酷い人じゃないよ…と言いたいけど、その通りなんだよな。」
啓太はため息を一つ落とす。
そんな啓太に和希は優しく微笑み諭す様に言う。
「今回は諦めろよ。その方が平和にすむ。」
和希をじっと見つめながら啓太は、
「だからさ、和希にお願いがあるんだ。」
「俺に?」
「うん!七条さんの誕生日プレゼント、俺と和希の二人からにしたいんだ。」
「俺と啓太二人からの?けど、それだけで中嶋さん納得するかな?」
「う〜ん、多分無理だと思うんだ。だからお願い和希!!!」
瞳をウルウルさせて啓太は和希を見る。
うっ…和希は言葉を失う。こんな風に見つめられたら、何でも叶えてあげたくたくなってしまう。
「ねっ、和希お願い!和希が七条さんに誕生日プレゼントを渡したいから俺を誘ったって事にして。」
「はぁ?」
和希は唖然とする。
「ど…どうして俺が…と言うか、そんな事をしたら俺中嶋さんに何されるか解らないじゃないか。いくら啓太の頼みでもそれだけは勘弁してくれ。」
首を振って和希は拒否する。
「……そうだよね。ごめん、和希。俺自分の事しか考えていなかった。今の話、忘れて。」
そう言うとションボリして、トボトボと教室に向かって歩き出した。
そんな啓太を見て和希は決心する。
「待てよ、啓太。その案で七条さんに誕生日プレゼントを渡そう。」
「えっ?だって…」
啓太は困惑した顔で和希を見る。
和希はニコッと笑い、
「大丈夫だ!俺にまかせとけ!ただし、七条さんの誕生日プレゼントは啓太と俺と王様の3人からって事にしよう。」
「でも…いいの?和希、そんな事して。」
「大丈夫。王様、俺のお願いなら何でも聞いてくれるからさ。啓太はいつもの様に笑ってくれればいいんだよ。」
「和希…」
「なっ。だから啓太、頼むからそんな顔しないでくれよ。お前のそんな悲しそうな顔を見るの、俺辛いからさ。」
「ありがとう、和希。でも本当に無理しなくてもいいからね。」
「ああ、解った。」



その日の夜、和希は丹羽の部屋に来ていた。
「ったく、何でそんな面倒な話を持ってくるんだ?」
「だって王様、啓太が可哀相でつい引き受けちゃったんですよ。」
申し訳なさそうに言う和希に丹羽はため息を吐く。
付き合う前から解っていたはずだ。
和希にとって啓太は特別な存在だって事を。
それを承知で丹羽は和希を愛した。
だからその和希が願うなら、その願いを叶えてあげたい。
しかし…今回はちょっと難しい。
頭をガシガシ掻きながら丹羽は言った。
「しょうがねぇな。」
「なら、何とかなりますか?王様。」
期待に満ちた目で丹羽を見る和希。
惚れた弱みだ。こうなりゃ、和希の為にひと肌でもふた肌でも脱いでやろう…丹羽はそう決心する。
「なぁ和希、七条の誕生日プレゼントは決まったのか?」
「はい。美味しいって評判のケーキを取り寄せて渡す事にしました。」
「ケーキかぁ。」
「ええ。七条さんって甘い物が好きでしょう。だから啓太と相談して決めたんです。」
丹羽は暫く考え込んでいたが、
「よし!そのケーキ、学生会とその手伝い2名からのプレゼントにしよう。」
「はあ?」
和希は唖然とする。
「何考えてるんですか?王様。学生会からって言うと中嶋さんも含まれるんですよ。」
「そうだな。」
「なにを冷静に“そうだな”って言ってるんですか?そんな事中嶋さんが承知する訳ないじゃないですか?」
「本当にそう思うか?和希。」
「思います!」
「甘いな、和希は。」
「なっ…」
和希はムッとした顔をする。
こういう顔は本当に可愛いと丹羽は思う。
「もうすぐ銀鈴祭だろう。」
「えっ?そうですけど。銀鈴祭とどう関係あるんですか?」
「俺が真面目に仕事をする。苦手な書類もきちんと片付ける。それを条件にヒデにを承知させる。」
「…王様…」
「な、いい案だろう?」
和希は泣きそうな顔をする。
「か…和希?」
「王様…俺の為に無理するんですか?」
丹羽は和希の頬にそっと触れる。
「無理なんてしてねえよ。ただ、お前の願いを叶えたいだけだ。」
「…王様…」
「和希、この間約束したろう。二人きりの時は何て俺の事を呼ぶだっけ?」
和希は躊躇しながら小さな声で言った。
「哲也。」
「そうだ。ならその呼び方で、もう一度俺に頼んでくれないか?」
和希は少し間を置いてから言った。
「哲也、お願いします。」
丹羽は破顔する。
「よし!任せとけ!」
和希は丹羽にギュッと抱きつく。
「ありがとう、哲也。」
「なぁ和希、もう一つ俺の願いを聞いてくれるか?」
「何ですか?俺に出来る事なら何でもしますよ。」
丹羽は嬉しそうに微笑むと、和希の耳元で何か言う。
言われた瞬間和希の顔は火を噴いた様に真っ赤になった。
そんな和希を見て丹羽は嬉しそうに微笑み、
「なっ、いいだろう?」
「む…無理です…お…俺…そんな事…できません…」
オロオロする和希。
「できるって、お前なら。俺だって明日から数週間苦手なデスクワークするんだぜ。その活力をお前から貰ったっていいだろう?」
「うっ…」
「いいよな、和希。」
「…解りました。努力します。」
嬉しさを隠し切れない丹羽。
「そうか、そうか。じゃ、早速するか。」
「えっ?今からですか?」
「そう、今からだ。」
「ま…待って下さい、王様。俺まだ覚悟ができていません。」
「王様?」
「あ…哲也。」
「大丈夫だって。」
丹羽はベットに座ると和希に手を差し伸べる。
その手を和希はオズオズと掴み、
「哲也、今夜は俺が全てするから…」
真っ赤な顔をしてそう言うと、丹羽にキスをした。
丹羽が和希の耳元で囁いた言葉、それは…
「その件引き受けるから、今度お前から俺にしてくれるよな。」




一日早いけれども。七条さん、お誕生日おめでとうございます。
啓太のお願いで七条さんのプレゼントを渡す為に王様にお願いする和希。
和希の願い事を王様が断る訳もなく、ホッとしたのもつかの間に王様から出された条件に顔面蒼白な和希。
愛があるから、頑張って乗り越えて下さいね、和希。
王様…今回一番美味しい思いをしているのって、貴方じゃないんですか?