Rain'y

窓の外は一昨日からの雨が降り続いていた。
蒸し暑いこの季節の雨は、梅雨時とはいえ、少し鬱陶しい。
だが、ここ学生会室だけは違っていた。
ブリザードが吹き荒れていた。
原因は学生会副会長中嶋にあった。
丹羽は中嶋に気付かれないようにそっとため息をつく。
そして、心の中で願った。
遠藤、早く学生会室に来てくれと…


それは2時間程前の遡る。
丹羽は中嶋に連行され、学生会室に向う途中に和希と啓太に会った。
「こんにちは、王様、中嶋さん。」
元気よく啓太は声をかけてきた。
その隣で和希は軽く会釈する。
「おう、啓太に遠藤。どこ行くんだ?ヒマなら学生会に来いよ。」
「ごめんなさい、王様。俺、これから和希と一緒に会計室に行くんです。」
「会計室?」
ピクッと中嶋の顔が引きつった。
だが、そんな中嶋の様子など気にしないかのように和希は中嶋に言った。
「七条さんが美味しいお菓子を取り寄せてくれたので、お茶に誘ってくれたんです。頂いたら学生会の手伝いに行くので、行ってきてもいいですか?中嶋さん。」
中嶋にニコッと笑いながら言う和希に、
「構わないが、今日は仕事はいいのか?最近忙しそうにしていた筈だが?」
「はい。今日はサーバー棟に行かなくてもいいので、ゆっくりできるんです。」
「そうか。なら楽しんでこい。」
「はい。ありがとうございます、中嶋さん。」
そう返事をすると和希は啓太と嬉しそうに話をしながら会計室に向って行った。


よく遠藤をあの七条がいる会計室に行かせてやる気になったものだ。
ヒデも丸くなったな…などと考えていた自分が甘かったと気付いたのはすぐの事だった。
「何をしている、丹羽。さっさと学生会室に来い。仕事は山程あるんだ。」 その冷たい言い方に丹羽は一瞬ぞっとした。
切れてる…明らかにそう言って間違いない中嶋の態度に丹羽は黙って従うしか道が無かった。


それから2時間が経っていた。
まだ和希は学生会室には来ていなかった。
明らかにイライラしている中嶋の後姿を見ながら、そんなにイラつくなら最初から遠藤を会計室なんかに行かせるなよ…と思っていたがそんな事は口が裂けても言えない丹羽だった。
だいたい今日で3日も雨が降っている。
雨が降ると逃げる所が無くなってしまうので、大抵中嶋に捕まって学生会の仕事をしている丹羽だったが、さすがに3日も続けては身体がもたなかった。
そろそろ限界だが、今ここで逃げ出したら後で中嶋に何をされるか本当に解らない。
いくら丹羽でもそこまで気付かない奴ではなかった。
その時、学生会室のドアがノックされ、和希が入って来た。


「失礼します、遠藤です。」
そう言って入って来た和希は真っ直ぐに中嶋の側に行った。
「中嶋さん、遅くなってごめんなさい。」
「いや、構わない。それよりも楽しかったか?」
「はい!七条さんが取り寄せたお菓子、ムースだったんですが凄く美味しかったです。もう暑くなってきたので冷たいお菓子の季節なんですね。それと久しぶりに啓太ともゆっくり話ができて嬉しかったです。」
嬉しそうに会計室での出来事を話す和希に、中嶋は優しい笑みで聞いていた。
そんな中嶋に和希も笑顔で答えていた。


何なんだよ、さっきまでの空気は…
明らかに遠藤が会計室に行ったのが気に入らなくて機嫌が悪かったくせに、遠藤がここに来た途端そんな事はどうでもいいように態度をかえるだなんて。
丹羽は呆れてものが言えず、2人の、いや正確には和希が1人で喋っているのだがその様子を何気もなしに見ていた。
が…次の一言で丹羽は唖然としてしまった。
「久しぶりにゆっくりできる日なのに、長い間会計室に行っててごめんなさい。」
「構わないさ。和希だって偶には伊藤とゆっくりとした時間を過ごしたいだろう?」
「それはそうだけど…でも俺は中嶋さんともゆっくりと一緒にいたい。」
「なら、残りの時間は俺にくれるか?」
「残りの時間?」
「ああ、今日はもうサーバー棟に行かなくてもいいんだろう?なら、明日の朝まではずっと俺と一緒にいてくれるか?」
中嶋のその言葉を聞いた和希は顔を真っ赤にさせて、
「うん…もちろん…俺もずっと中嶋さんといたい…」
そう言って中嶋を見詰める和希。


おいおい…ここには俺がいるんだぜ?
いちゃつくなら誰もいない所でやってくれ…そう丹羽が思った時、見たくもない光景が丹羽の目に飛び込んできた。
中嶋が和希の顎に手をかけ、キスをした。
最初から舌を入れる深いキスに見ていた丹羽は思わず呆然としてしまう。
すると、中嶋が片手で丹羽に外に出ろといっている。
それに気付いた丹羽はそっと学生会室から出て行く。
扉を閉めた丹羽は頭を掻きながら、
「まったくよう。学生会室をなんだと思ってるんだよ。いちゃつく所じゃないっていうんだよ。まあ、今日はもう仕事をしなくてもいいからいいとするか。」
そう言いながら寮に向って歩き出す丹羽。
その頃和希はパタンと静かに閉まった扉の音には気付かなかった。
そもそもここに丹羽がいた事すら気付かなかった和希だったのだから。




梅雨時のひとコマでした。
中嶋さんは和希が会計室に行く事に対して快く思っていません。
(会計室には七条さんがいますからね(笑))
でも、和希が嬉しそうに啓太と行きたいと言うので送り出します。
そして、イラつく思いは王様へと向うのでした。
いつも王様が真面目に仕事をしていればこうはならないのでしょうが。
和希、学生会室には偶には王様もいるんだからね。
誰がいるかよく確認してから中嶋さんと仲良くして下さいね。
                     2008年6月23日