Reward

もうすぐ今年も終わるなぁ…
和希はそう思いながら窓の外を見た。
今日は1日とても良い天気で、今夜も綺麗な星空だ。
今、和希は毎年恒例の仕事関係のパーティーでホテルにいる。
毎年これで1年の締めをするのかと思うと正直ウンザリとするが、鈴菱として生きていく為には仕方が無い事と諦めている。
けれども…
初めて心から愛する人ができた今年は、年内最後の日に一緒にいられなくて内心寂しい思いをしている。
けれども、愛する人は20日後に迫っているセンター試験の勉強で忙しいはずだから会えるわけがない。
それでも、来年の4日には遅くなったが2人で初詣に行こうと約束している。
会えないのもそれまでの我慢だと和希は自分に言い聞かせていた。


「和希様。」
「何だ、石塚。」
「少しお疲れですか?お顔の色がすぐれませんが。」
「そうか?少し飲みすぎたからかもしれないな。」
そう言った和希に石塚は頷きながら、
「そうですね。今日はかなりお飲みになられてましたから。」
「仕方が無いだろう?飲まなきゃやっていられないからな。」
不貞腐れて答える和希に、石塚は微笑みながら、
「やはり、先程からのお話が堪えている様ですね。」
「ああ。嫌になるよ。」
「仕方ありませんよ。和希様は鈴菱グループの跡取りなのですから。それにそういうお話が来てもおかしくないお歳ですからね。」
「…いつまでも結婚しないのは拙いって事か…」
ため息を付きながら、和希は答えた。


自分だって解ってはいる。
鈴菱グループの後継者として、結婚して跡取りを残さなくてはならない事くらい…
けれども、好きになった相手は同姓でしかも年下。
他の事はある程度は譲れてもこの想いだけは譲れなかった。
浮ついている想いではない。
出来たら一生共に歩いていきたいと思っている。
ただ、相手はまだ未来もある高校生だ。
今から縛ってしまうのは嫌なので、もしも別れを切り出された時は気持ちよく別れたいと思ってはいる。
そんな日は一生来なければいいと思ってはいるが…


そんな和希の思いを察したのか石塚は優しく微笑みながら、
「私などがこんな事を申し上げるのは大変恐縮ですが一言言っても構いませんか?」
「何だ?」
「今の時代でも政略結婚がある事は存じております。けれども、形だけで冷え切った家庭に生まれてきた子は幸せなのでしょうか?」
「石塚?」
「私は幸せとは思えません。どうしても跡取りが必要なら養子を取る事も可能だと思います。」
「石塚…」
「差し出がましい事を申し上げてしまって申し訳ありません。」
「いや…嬉しいよ、石塚。」
和希は微笑みながら、
「そうだよな。石塚の言う通りだ。俺はあの人が好きだからあの人の側にずっといたいんだ。それがどんなに我侭な事だとしても、どうしてもこれだけは譲れない想いなんだ。」
「和希様がやりたいようになさればいいと思います。私も岡田もその為には努力は惜しみません。」
「ありがとう、石塚。」
嬉しそうに微笑む和希に石塚も微笑んだ。
男同士の恋愛など、ましては理事長と生徒の恋など普通なら許されるべきではない。
けれども、そんな事は気にも留めずに和希を応援してくれる秘書の2人に和希は深く感謝をしていた。


「和希様、これをどうぞ。」
そう言って石塚が和希に渡したのはこのホテルのルームキーだった。
「石塚?」
「ここは私と岡田で上手くやっておきますので、和希様はそのお部屋に行って下さい。中嶋君が待ってますよ。」
「えっ?えっ?英明が来てるの?どうして?」
動揺している和希に石塚は優しく微笑みなから、
「はい。和希様とご一緒に年越しをしたいと申されまして私達で勝手にお部屋をご用意させてもらいました。今年も後1時間もありませんが、大切な方と有意義にお過ごし下さい。」
「…」
唖然として動けなくなった和希の手に石塚はルームキーを握らせる。
「どうぞ素敵な時を過ごしてきて下さいね。明日は8時にお部屋にお迎えに伺います。どうぞ良いお年をお迎え下さい。」
石塚の声に和希は破顔で応えた。
「ありがとう、石塚。」
そう言うと和希は急いで会場を後にする。
和希の後姿を嬉しそうに見送っていた石塚に岡田は声をかけた。
「石塚さん、和希様とても嬉しそうでしたね。」
「ああ。あんな良いお顔を拝見できて良かったよ。」
「本当ですね。中嶋君に会えるのがあれほど嬉しい事なんですね。」
「当たり前だろう?好きな人に逢うんだから。」
「う〜ん。俺はまだそこまで惚れ込んだ相手に出会った事がないからな。和希様が羨ましいな。」
「岡田にもその内そういう相手ができるさ。さあ、和希様の穴埋めは大変だぞ。気を引き締めてしっかりやれよ。」
「はい。石塚さん。」
石塚と岡田は和希が嬉しそうに出て行った扉を見つめていた。





今年最後の小説は大晦日のお話です。
中和なんですが、1回も中嶋さんは登場しませんでした(笑)
いつも頑張っている和希に秘書達からのプレゼントです。
この後、和希は部屋で待っている中嶋さんと素敵なひと時を過ごすのでしょうね。
幸せなひと時を過ごして下さいね、和希、中嶋さん。
今年も1年お世話になりました。
皆様にとって来年が素敵な1年になるように願ってます。
どうぞ、良いお年をお迎え下さい。
             2008/12/31