寒さの中の優しさ

「っ…寒い…」
和希は冷たい風に身体を縮ませた。
「寒いのか?」
「少しだけ…」
中嶋に声をかけられた和希は寒そうな顔をして答えた。
先程、仕事を終えて寮に帰る途中に学生会の仕事を終わらせて同じく寮に帰ろうとしている中嶋に和希は会ったので一緒に帰る途中だった。
11月も半ばに入いると日が落ちるのも早い。
加えて、昨日から急に冷え込んできていた。
時間も19時30分なので余計に寒さを感じる。
和希もそれほど寒がりではないのだが、さすがにそろそろコートを着たいと思っていた。

が…
今時の高校生男子は元気がいいのか誰もまだコートを着ていない。
学園の教師やサーバー棟の職員はコートを着て出勤していた。
昼間はまだしも朝晩は寒さが身に染みる。
けれども、周りが着ていないのに自分1人だけコートを着る事に抵抗を感じていた和希はマフラーだけを巻いていた。
確かにマフラーをするだけでもかなり寒さは防げるが、今日のように風が吹いているとさすがにマフラーだけでは寒さを防ぎきれなかった。

寒そうにしている和希に、
「寒いのならコートを着ればいい。」
「だって、まだ誰も着てないんだよ?俺だけ着るのって変だろう?」
「何を言っている。無理して風邪を引いたらどうするんだ。」
「英明…」
自分を心配してくれた中嶋に感動した和希だったが、すぐに後悔した。
「もう若くないのだから無理をして、体調を崩したらどうするんだ。歳なんだから、無理して若者に合わせる必要はない。」
「なっ…無理なんてしてない!それに俺はまだ若いんだぞ!」
キッと中嶋を睨む和希。
でも、寒くて頬が赤くなっている和希が睨んでも何の効果もなく、返って可愛く見えてしまうだけだった。
まるで子猫が威嚇している様子に中嶋は微笑むと、着ていたジャケットを脱ぎ和希の肩にかけた。

「英明?」
「風邪を引かれたら困るからな。これでもないよりはましだろう。」
「ありがとう。」
和希はそう言うと自分の首に巻いていたマフラーを外して中嶋の首にかけると、
「ジャケットの代わりにマフラーを巻いてていて。英明が風邪を引いたら困るから。」
「俺はそんなに柔ではないぞ。」
「分かってる。だけど…俺が心配なんだ。」
和希は一端言葉をきった後、
「英明が万が一寝込んだりしたら学生会の仕事が滞るだろう?そうしたら困るのは理事長の俺だからね。」

いたずらっ子のような笑みを浮かべながら言う和希に中嶋はニヤリと笑うと、
「いい度胸だな。今夜は眠れないと思えよ。」
「いつも英明の思い通りになるとは限らないんだからな。」
いつになく、強気な和希に中嶋は嬉しそうに笑うと、
「それでは、お手並み拝見といこうか。」
「うん。」
中嶋に勝つのは難しいかな?と思いながらも、たまには真剣勝負をしてみるのも面白いかも…と和希は思っていた。




毎日寒いですね。
高校生に負けないようにコートを着ないで頑張る和希ですが、やはり難しそうです(笑)
そんな和希を優しく見守る中嶋さん。
中嶋さんのジャケットはきっと心がこもっているので暖かったと思います。
皆様も寒い時には無理せずに暖かい服装でお出かけになられて下さいね。
               2009/11/23