the parting of the seasons

「そう言えば、そろそろ節分だね、和希。」
「節分?」
「そう豆をまいて“鬼は外、福は内”ってする行事の事。」
嬉しそうに話す啓太に、嬉しそうに啓太を見詰める和希。
ここは資料室なんだぞ、仕事は山程あるんだぞ、そんな楽しそうな話なんてここでするなよと丹羽は心の中で思った。
「ああ、知ってるよ。やった事はないけどな。」
「和希、やった事ないんだ。なら俺の部屋で一緒にやろうよ。地方によって豆まきってやり方が違うらしいけど、俺のやり方でいいならやろうよ。」
「教えてくれるのか啓太。嬉しいよ。」
嬉しそうに答える和希に、丹羽が待ったを掛けた。
「和希、待て!」
「何ですか王様。折角啓太と話してるのに。」
啓太との話を中断され、面白くなさそうに答える和希。
「豆まきなら俺とやろうぜ。」
「何言ってるんですか、王様?いくらセンター試験が終わって結果が出たからっていっても、大学からの合格通知は未だ来てないし、2次でこれから受ける大学だってあるのに、そんな暇がある訳ないじゃないですか?」
「お前なぁ…偶には息抜きぐらいさせろよ。」
「息抜きなら今してるでしょう?」
「ああ?これのどこが息抜きだって言うんだよ。学生会の仕事がよう。」
和希のあまりの言い方に、丹羽は不貞腐れて答える。
「だって仕方ないでしょう?王様が会長だった時に散々さぼった結果でしょう?お蔭で新学生会はスタートしているのに、中嶋さんを始め、啓太や俺まで手伝ってるんですよ。」
「うっ…それを言われると…」
「解ったなら豆まきをしたいだなんて、駄々をこねないでさっさと仕事を片付けて入試の勉強をして下さいね。学生会の仕事のせいで大学落ちたなんてシャレにもなりませんからね。」
「はい…」


ショボンとする丹羽を見て、啓太は中嶋にそっと話し掛ける。
「今日の和希って結構きつい事言うんですね。」
「まあ、正論だがな。」
「けど…王様かなり落ち込んでないですか?」
「いつもの事だろう。相変わらず遠藤の尻に引かれているだらしが無い奴だ。あいつが主導権を握る時はベットの上だけだな。」
「ベ…ベットの上って…中嶋さん、それって…」
「言葉の通りだ。何だ、啓太したくなったのか?顔が真っ赤だぞ?」
「なっ…違いますよ。俺はそんな…」
「フッ…素直じゃないな。最近忙しくて構ってやれなかったから寂しいんだろう?」
そう言うと中嶋は和希に向かって、
「遠藤!俺と啓太の手伝いは今日はここまでだ。後はお前が頑張ってくれ。」
「えっ?唐突に何ですか?」
「急用を思い出してな。行くぞ啓太。」
そう言って啓太を引っぱって、資料室から出て行こうとする中嶋。
啓太は慌てて和希の方に振り向くと、
「ごめんね、和希。後は頼むね。また明日手伝うから。」
「えっ、えっ、啓太〜、俺1人でこの量を手伝えって言うのか?」
「ごめんね。」
謝る啓太に中嶋が口を挟む。
「優秀な理事長にならこなせない量じゃないだろう?」
ニヤリと中嶋は笑うとドアは静かに閉まった。
残された和希と丹羽は呆然としていたが、最初に口を開いたのは和希の方だった。
「あーあ。哲也のせいで、中嶋さんと啓太が帰っちゃたじゃないですか?」
王様から哲也へと呼び方が変わった事で機嫌を良くした丹羽は、
「仕方ねえよ。帰っちまった奴は。しょうがないから片付けるか。」
「そうですね。俺も今日はもうサーバー棟に行かなくていいので、少しでも多く片付けましょうね。」
「えっ?今日はもう仕事ねえのか?」
「はい。この所忙しかったから、今日は午前中だけ仕事をして、後は休みにしてもらいました。」
「何だよ。それなら早くそう言えよ。じゃあ今夜は俺の部屋に来れるな。朝まで離さねえから覚悟しろよ。」
「なっ…朝までって、何考えてるんですか?」
和希の叫び声も気にしないで、本気で仕事に取り掛かっている丹羽を見て、和希はため息を付くと自分も近くの書類に手を伸ばし片付け始めた。


そして節分の日のPM9:00
“コンコン”
丹羽の部屋をノックする音がする。
“ガチャ”
ドアが開き中から丹羽は出てくると、微笑んで立っている和希を部屋の中へと入れた。
「遅くなってごめんなさい。」
「大丈夫だぜ。それよりも啓太との豆まきはもう終わったのか?」
「はい。これから、中嶋さんの部屋へ行って豆まきをするって張り切ってましたよ。中嶋さんの邪気を祓うんだって言ってましたから。」
「ヒデの邪気をねえ。ヒデその者が邪気だから意味がないんじゃねえか?」
「酷い事言うんですね。仮にも親友でしょう?」
「あー、いいんだよ。あいつには、いつもボロクソに言われてるからよ。」
和希はクスクス笑いながら、
「それは、哲也の日頃の行いが悪いからでしょう?それよりも俺も啓太から豆を分けてもらったんです。これから一緒に豆まきをしませんか?」
「おっ、いいな。」
和希が差し出した升の中の豆を丹羽は手に取った。



「あー、すっきりしたぜ。」
満足そうにベットに寝転ぶ丹羽。
「もう、哲也ってば、大声出し過ぎだよ。あれじゃ、他の部屋にも丸聞こえだよ。恥ずかしいな。」
「そうか?こういうものは大声でやらないと意味が無いだろう?」
「もう…」
呆れ顔の和希を楽しそうに見詰めていた丹羽は、ある事を思い出してガバッと起き上がった。
「そうだ、和希。お前もう豆を食べたか?」
「えっ?豆ってこの豆の事?まだだけども、どうして?」
「なら、食うおぜ。昔から歳の数だけ食べると、病気にならずに長生きするって言うんだぜ。」
「へえ…面白いですね。」
「だろう?で、和希、お前幾つだ?」
「えっ?」
「えっじゃねえよ。歳だよ。お前今幾つなんだ?」
「えっ…え〜と…」
恋人の丹羽にも隠している和希の本当の歳。
このチャンスに聞き出そうとしている丹羽。
いくら大好きな相手でも言う気はない和希。
「哲也、俺自分で取って食べるからいいよ。」
「遠慮するなよ。」
「遠慮なんてしてません。貸して下さいよ、その升。」
「駄目だ。俺が歳の数だけ渡すんだ。」
升を持っている手を高く上げると、それを取ろうと和希が背伸びをするがなかなか取れず、バランスを崩した和希は丹羽にもたれ掛かってしまい、二人して床に倒れこんでしまった。
「痛っ…」
「痛え〜」
同時に言った後、和希は丹羽を軽く睨むと、
「もう、哲也の意地悪!哲也のせいで部屋中豆だらけになっちゃったじゃないですか。」
「俺が悪いのかよ。和希が隠すからいけないんだろう?」
「うっ…」
「安心しろ。豆はまだある。」
「えっ?」
驚く和希を無視して、丹羽は机の中から封の切ってない節分用の豆の袋を取り出した。
「和希と一緒に食べようと思って買っといたんだ。さあ、幾つか言ってもらおうか?」
「うっ…16歳です。」
「はぁ?お前何言ってるんだ?」
「俺は高校1年生なので16歳です。豆16粒下さいね。」
ニッコリと笑う和希に、不機嫌そうな顔をする丹羽。
「嘘つくな!お前が16のはずないだろう!この若作りの理事長が!」
「なっ…何ですか?その若作りって…どうせ俺は童顔ですよ。」
「そんなに怒るなよ。さあ機嫌直して本当の歳を言えよ。」
「だから、16歳なんです。それとも哲也、俺の言う事を信じてくれないの?」
ウルッとした瞳で言われて、丹羽は少し戸惑う。
和希のこの瞳に丹羽は弱い。
和希はそっと丹羽の腕に自分の手を絡ませる。
「ねえ、哲也。俺16歳だろう?」
「ああ、和希は16で間違いねえ。」
「ありがとう。解ってくれて、俺嬉しいよ。」
チュッと音をたてて、丹羽の頬にキスをする和希。
「それじゃ、長生きできるように願って豆を食べようか?」
「おう。俺が18粒で、和希が16粒でな。」


こんな終わり方で失礼しました。
もうすぐ節分ですので節分の話を書いてみました。
本当の歳を隠している和希です。
別に王様は和希は何歳でも気にする人ではないと思うんですが、和希は歳の事を物凄く気にしています。
色仕掛けで誤魔化した和希ですが、まんまとその罠にはまる王様も王様です。
でも、二人が幸せならそれが1番いいのでしょうね。    2008/1/28