白い食べ物

「美味しいお店ってここですか?」
「ああ。店はちょっと小汚いけど、味は結構いけるんだぜ。さあ、入ろうぜ。」
「あっ、はい。」
丹羽の後に続いて和希もそのこぢんまりとした店に入った。 
丹羽は小汚いと言ってたが、古いだけで綺麗に掃除されている。
とても大切に扱われている店だと一目で分かった。

古いテーブル席に座った和希は、
「ここのお勧めは何ですか?」
「そうだな、幾つかあるけど、今日は力うどんにしようぜ。」
「力うどんですか?力うどんって確か餅が入っているんですよね。」
「ああ。普通は焼き餅がのせれている場合が多いんだけど、この店は揚げ餅なんだ。」
「揚げ餅?」
「焼き餅と違って揚げ餅だとお腹にたまるから俺は好きなんだ。」
「哲也のお薦めなら俺も力うどんにしますね。」
ニコッと笑いながら和希は言った。

「お待たせしました。力うどん二人前です。」
そう言って運ばれてきたうどんを見て、
「わー、美味しそうですね。俺、揚げ餅が入った力うどんは初めてです。」
「そうか。ここのは上手いぞ。」
そう言って丹羽は食べ始める。
美味しそうに食べる丹羽を見ながら、
「頂きます。」
そう言って和希も一口食べる。
「このうどん…もちもちして美味しい。それにスープもダシがきいている。」
「だろう?」
「はい。哲也のお気に入りの理由が分かります。」
そう言って、またすぐに食べ始める和希。
美味しかったのだろう。
和希にしては珍しく早く食べ終わっていた。

店を後にした和希と丹羽は歩きながら、
「今日はごちそうしてくれてありがとうございました。」
「ごちそうって程のものでもないだろう?」
「いいえ。美味しいうどんが食べられて嬉しかったです。」
「気に入ってもらえて嬉しいぜ。」
「本当に美味しいうどんでしたね。また連れて来てくれますか?他のうどんも食べてみたいので。」
「ああ。いいぜ。」

そう言った後、
「なあ、和希。今日はホワイトデーだろう。」
「えっ?」
和希は驚いた顔をした後申し訳なさそうに、
「ごめんなさい。すっかり忘れていました。」
「気にするな。バレンタインには和希からチョコを貰ったからお返しに何にしようかと迷ったんだ。で、ホワイトデーだから白い食べ物を一緒に食べようと思ったんだ。」
「白い食べ物?」
「ああ。」
「だからうどんだったんですね。」

納得したように言う和希に、
「白いうどんに白い餅。まあ、スープは白くないけどな。」
スープは白くないと言う言葉に思わず笑ってしまう和希だった。
「素敵なホワイトデーのプレゼントですね。ありがとうございます。」
クスクス笑いながら言う和希の笑顔はとても綺麗だった。

丹羽はその笑顔にドキドキしながら、
「プレゼントは他にもあるんだぜ。」
「他にも?」
「そうだ。」
そう言って和希の耳元でそっとプレゼントの内容を囁くと和希の顔は真っ赤になった。
「ば…馬鹿な事を言わないで下さい…」
「馬鹿な事?俺は真剣なんだぜ。和希は嫌なのか?」
「…」

丹羽に覗き込まれるように見つめられ、耳まで真っ赤になった和希。
「どうなんだ?和希?」
「…意地悪…嫌だなんて言うわけないでしょう…」
丹羽は嬉しそうに笑うと、
「じゃあ、行くか。」
恥ずかしさに俯いてしまった和希の手を掴んで丹羽は歩き出したのだった。



もう終わってしまいましたが、ホワイトデーの話です。
メルマガの王様のメールを読んで思いついた話です。
王様が和希に何を言ったのかは皆さまで想像して下さいね。
きっとこれから素敵なホワイトデーの夜を過ごすと思います。
               2010年3月22日