〜微熱〜《石塚×和希》 (2007年8月に載せていた拍手ssです)

「和希様。」
「うん?後少し。」
理事長室で書類を読んでいる和希に石塚はきつい口調で呼びかける。
書類から目を離さない和希に業を煮やした石塚は、和希の手から書類を取り上げた。
「あ!何するんだ石塚、返せ!!」
「いいえ、返しません。今日の仕事はもう終わりです。」
「なんで石塚が勝手に決めるんだよ!俺はもう少し仕事をする!」
ぷうっと頬を膨らませて和希は抗議する。
しかし今日の石塚は怯まない。
「今日はもう終わりです。和希様、貴方は熱があるんですよ。今日は寮にお帰りになられてお休み下さい。」
「熱ったって37.5度じゃないか。こんなの微熱だから平気だ。」
「いけません。まったく子供みたいに駄々をこねないで下さい。」
「なっ…子供みたいって。」
「これ以上熱が上がったら明日の仕事に差し支えます。…良い子だから聞き分けて下さい。ねっ、和希。」
「うっ…」
「いいですね。」
「それじゃ、俺の言う事聞いてくれる?そうしたら仕事を止めて帰るから。」
「ふぅ…」
石塚はため息を付く。自分の恋人は頑固で素直じゃない。ただし、ベットの中ではもの凄く素直で可愛いが。さて、今回はどんな注文をつけてくるんだろう。
「何ですか?私にできる事なら、お受けしますが。」
「今夜は一緒にいて欲しいんだ。」
「はい?」
「一人じゃ心細いから、祐輔に側にいて貰いたいんだ。…ダメ?…」
「解りました。今夜は和希のマンションに泊まりますよ。ただし、何もしませんよ。いいですね。」
和希は破顔する。
「解った。大人しくするから。だから一晩中側にいてくれる?祐輔。」
「はい、はい。本当に甘えん坊ですね、和希は。それでは帰りますよ。」
「うん!」
そう言うと和希は石塚の腕に自分の腕を絡ませる。
そんな和希を石塚は愛おしく見つめ、二人は理事長室を後にした。




〜膝枕〜《松岡×和希》 (2007年9月に載せていた拍手ssです。)

「綺麗だな。」
お互いを求め合った後、松岡の腕を枕にして松岡の髪を触っていた和希が言った。
「何が綺麗なんだ?和希。」
「迅さんの髪ですよ。長いのによく手入れされているからとても綺麗だと思って。」
「そうか?」
「ええ。」
「高校時代にも同じ事を親友に言われたな。“お前の髪は綺麗だ”って。」
「ふ〜ん」
松岡の高校時代…それはここベルリバティスクールの事である。
「どんな高校生だったんですか?」
「どんなって。極普通だったよ。ああ…学生会副会長をしていたな。親友の吉住が学生会会長をしていたんだ。」
「初めて聞いた。」
「まだ、話た事がなかったか?」
「はい。そう言えば、俺迅さんの高校時代の話、聞いた事なかったですね。副会長かぁ。中嶋さんみたいだったんですか?」
「まさか。彼程優秀じゃなかったさ。吉住も丹羽君みたいに逃げなかったし…そういえば、昼寝は好きだったな。よく中庭の木の下で昼寝をしている吉住の隣で読書をしたもんだ。」
「膝枕…してあげたんですか?」
「まさか。あいつとは親友だ。なんだ和希やいているのか?」
「なっ…そ…そんな事ありません!」
「可愛いな、和希は。」
頬を膨らませて答える和希を、ニヤニヤしながら松岡は見る。
「もう、何なんですか?迅さんは。」
「膝枕、そんなにして欲しいのかい?」
「そんな事、誰も言ってません。」
「解った。明日の昼休みに中庭へ来なさい。お昼を用意しておくから、食べ終わったら膝枕をしてしてあげよう。」
「だから…」
「明日は晴天らしいね。」
「はぁ〜。解りました。明日楽しみにしてますね。」
「ああ、約束だ。」
そう言って松岡は和希の額に約束のキスをした。




〜旅行〜《河本×和希》  (2007年10月に載せていた拍手ssです)

「旅行ですか?」 「そう、今度の3連休に1泊2日だけどね。」
ここ理事長室で、ソファーに向かえ合わせで座っていた和希は河本にそう言われ唖然とする。
「河本さん、急に言われましても私にも都合というものがあるのですが。」
「大丈夫。だいぶ前に君の秘書に連絡を入れて、その日は仕事がない様に頼んでおいたからね。」
「随分と手際がよろしいんですね。」
「お褒めに預かり光栄だね。」
ニコッと笑う河本に和希は苦笑いをする。
「今回は岩井君も一緒なんだよ。」
「岩井君も?」
「ああ、岩井君に紅葉を見せてあげたくてね。いわば、スケッチ旅行かな?」
「それなら私が行く必要はないと思いますが。」
コーヒーのカップを手の取りながら和希は言う。
「君にはモデルになって貰いたいんだ。紅葉と一緒にね。」
「モデルですか?どうして私が?」
「この間伊藤君と一緒にいる所を描いて貰っただろう?」
「ああ…そう言えば…」

“遠藤、その…君を描きたいのだが、いいだろうか?”
“俺ですか?”
“ああ。”
“どうしてですか?”
“伊藤といると遠藤は凄くいい顔をするんだ。その笑顔を描きたいんだ。もちろん伊藤と一緒にいる所を描くつもりだ。伊藤は構わないと言ってくれたが、遠藤はどうだろうか?”
“啓太も一緒ならいいですよ。”
“本当か?”
“はい、よろしくお願いします。”

「岩井君は伊藤君と一緒にいる時の私の笑顔が好きだと言ったはずです。でも、今回は伊藤君は行かないのでしょう?でしたら、私が行く意味は無いと思いますが。」
「おや?君は伊藤君の前だけにしかいい顔ができないのかい?」
「河本さん?」
「ハァ〜、恋人にそんな風に言われるなんて私は悲しいよ、和希。」
「ゲホッゲホッ…」
口に含んでいたコーヒーを無理矢理飲み込んだ和希は蒸せて咳き込んだ。
ニヤニヤ笑う河本に和希は涙目で睨む。
「こ…こういう時に言う台詞ですか?河本さん。」
理事長の顔から本当の和希の顔を覗かせる。
理事長兼研究所所長の“鈴菱和希”、BL学園の生徒の“遠藤和希”。
どちらも同じ和希だが、恋人の河本義孝の前にだけ見せる本当の和希の顔。
河本は他の誰にも見せないこの顔がたまらなく好きだった。
鈴菱という重荷を下ろした和希は本当に可愛いと思う。
よく笑い、よく怒る。そして河本にしか見せないアノ時の顔と甘い声。
全てを愛おしく想う。
河本の柔らかい視線に気付いた和希はため息を一つ付く。
「解りました。旅行には行きます。ただし今回は岩井さんも一緒なんでしょう?俺に変な事しないで下さいね。」
「おや?スケッチ旅行なんだよ。岩井君はスケッチに忙しいだろう?老舗のいい旅館なんだ。離れだし、露天風呂付きなんだよ。」
「何か企んでますか?義孝さん。」
「いや、別に。ただ偶には露天風呂でやるのもいいと思ってね。温泉につかった和希はさぞや色っぽいだろと思っただけだ。」
「な…何考えているんですか?」
「岩井君には悪いが、スケッチに専念して貰って、先に二人でチェックインしよう。」
「義孝さん…」
「んっ?何だい?和希。」
「全く貴方って人は。俺をモデルとして連れて行くと言ったのにこれじゃ、意味がないじゃないですか。まぁ、そんな貴方に惚れたのだから仕方ないか…楽しみにしていますよ、旅行。」
嬉しそうに笑う和希。
「それじゃ、私はそろそろ失礼するよ。」
立ち上がる河本に和希は驚く。
「えっ?もう帰るのですか?」
「旅行に行く為に仕事のスケジュールを詰めたそうだ。用件は手短にと君の秘書に言われているんだよ。」
和希は苦笑いをする。
河本を見送る為に理事長室のドアまで来た和希に河本は甘いキスを一つ落とす。
そんな河本に和希は破顔で答えた。




〜優しい想い〜《中嶋×和希》  (2007年11月に載せていた拍手ssです)

出会ったのも、好きになったのも、俺の方が彼よりも先だった。
けれど…貴方が好きになったのは俺ではなく、彼だった。
想いを告げる前に終わってしまった恋。
貴方と彼が一緒にいる所を見るのが辛くて、いつもサーバー棟に遅くまでいる毎日だった。
そんな毎日に疲れて、心と体がオーバーヒート寸前の俺を救ってくれた人が中嶋さんだった。
中嶋さんらしい気遣いで疲れ切っていた俺の心の中に安らぎを与えてくれた。
でも…素直になれなかった俺は最初は中嶋さんにきつくあたっていた…

「どうして俺が辛いなんて思うんですか?中嶋さん。」
「どの面下げて物を言っている。今にも泣きそうな顔をして。」
「なっ…俺はそんな顔をしていません。失礼な事を言わないで下さい。」
「そうか?彼奴ら二人が仲良くしている所が見たくなくて、食堂にも来れない奴が何を言う。」
「うっ…どうしてそれを…」
「簡単な事だ。俺はいつもお前を見ているからな。」
「はぁ?中嶋さん、貴方、今何て言ったんですか?」
「いつもお前を見ていると言ったんだ。もう耳が遠くなったのか?理事長殿は。」
「そんな歳じゃありません!」
「そうか?ならそう言う事にしてやろう。」
「そう言う事にしてやろうって…もう…」
思わず笑いが零れる。
そんな和希を見て、中嶋は微笑む。
「できるじゃないか。」
「えっ?」
「今笑ったじゃないか。」
和希はハッと気付く。
「中嶋さん…」
中嶋はそっと和希に近づくと、壊れ物を扱う様に優しく抱きしめる。
「お前は何も考えずにそうやって笑ってろ。その笑顔の為なら俺は何だってしてやる。」
「中嶋さん…」
和希の目から涙が溢れる。
我慢してた分涙は止まる事を知らない様に、流れ続ける。
「…うっ…」
「辛かったら泣けばいい。俺の胸をいつでも貸してやる。」
「うっ…ヒック…」
中嶋の広い胸で思いっきり泣いた和希は泣き疲れてそのまま寝てしまった。
眠ってしまった和希の涙を拭いながら、中嶋は和希の額にそっとキスを落とす。
「好きだ、遠藤。今はまだ奴を忘れろとは言わない。だが、直ぐに奴の事なぞ忘れさせてやる。覚悟をしとけよ。」

その言葉通り、中嶋は少しずつ和希の心に入り込み、いつの間にか和希の心の中は中嶋への想いでいっぱいになっていた。
「中嶋さん。」
「何だ?遠藤。」
「お誕生日おめでとうございます。何か欲しい物はありませんか?」
「お前がくれるのか?」
「はい、いつも中嶋さんにはお世話になってますから。」
「お前の心が欲しいと言ったらどうする?遠藤。」
中嶋の言葉に顔を真っ赤にして俯く和希。
暫くすると、和希は真っ直ぐに中嶋を見詰めて言った。
「俺の心はもう既に中嶋さんの物ですよ…中嶋さん、貴方が好きです。」
「フッ…」
中嶋は嬉しそうに微笑む。
「なら…もう他には何もいらない。」
「中嶋さん…」
中嶋の手が和希の顎に触れる。
「そうだな。どうしてもと言うならキスでも貰おうか?」
そう言って、触れるだけのキスをする中嶋。
クスッと和希は笑う。
「中嶋さんらしくないキスですね。いいんですよ、遠慮しなくても。」
中嶋はニヤッと笑う。
「いいのか?俺との初めてのキスが濃くても。」
「構いませんよ。中嶋さんなら。それに今日は中嶋さんの誕生日なんですから。」
「フッ、腰が抜けても責任は取らないぞ。」
「…っん…中…嶋さ……ん…」
中嶋の言葉通り、あまりに濃厚なキスに和希は腰を抜かして動けなくなり、中嶋に抱き抱えられながら、学生会室から寮まで帰る羽目になってしまった。




〜クリスマスは貴方と共に〜《好きなお相手×和希》  (2007年12月に載せていた拍手ssです)

「クリスマスの予定ですか?」
クリスマスの予定を聞かれ、和希は考える。
「確かいつも通りに仕事が入っていたと思いますが。」
スケジュールを思い出しながら答える和希にさらに尋ねる。
「夜ですか?そんなに遅くはならないとは思いますが。どうしてですか?」
不思議そうに尋ねる和希。
「えっ?今までのクリスマスですか?この数年は仕事かな?別にクリスマスだからって特別な事はしないし。」
和希がそう答えると、貴方は少し悲しそうな顔をする。
和希と恋人になって初めて迎えるクリスマス。
恋人と2人で過ごしたいと願うのは我が侭なのだろうか…そう思えてくる。
そんな貴方の様子に気付いた和希は、
「実は俺、クリスマスにいい思い出がないんです。両親は仕事が忙しかったからクリスマスに家にいた事がなかったんです。どんなに美味しそうなごちそうもやケーキ、魅力的なプレゼントがあっても、1人きりでは美味しくもなければ楽しくもないんです。」
そう言う和希を貴方は優しく抱きしめる。
その温もりを感じながら、その胸にそっと顔を埋め、
「だから俺、クリスマスって嫌いなんです。」
そう言った後に、
「でも…今年のクリスマスは俺1人じゃないんですよね。貴方が側にいてくれるんですよね?」
確認する様にギュッと抱きつく和希。
「クリスマスには和希の側にずっといるから。クリスマスがどんなに素敵かって教えてやるから。」
そう囁く貴方の言葉に、和希は思わず涙を零した。




〜大切な朝に〜《篠宮×和希》  (2008年1月に載せていた拍手ssです)

“コンコン” まだ朝も早い時間に和希は篠宮の部屋のドアをソッと叩いた。
暫くするとドアが開き、篠宮が驚いた顔をしていた。
「和希?」
「おはようございます、紘司さん。早い時間にすみません。」
「いや、それは構わないが…こんな時間に何かあったのか?」
「いえ、たいした事ではないのですが…部屋に入ってもいいですか?」
和希に言われて、篠宮は慌てて部屋の中に和希を入れた。
「すみません。そろそろ出かける時間でしょう?」
「ああ、だがまだ大丈夫だ。これから皆と食堂で朝ご飯を食べてから一緒に出かける予定だ。それよりどうしたんだ?」
心配そうに聞く篠宮に和希は、
「これを渡したかったんです。」
そう言って和希が差し出した物は、“お守り”と“巾着袋に入った使い捨てカイロ”だった。
「和希、これは…」
「今日はセンター試験でしょう?だから良い点数が取れる様にと思って。それから寒いと困るので使い捨てカイロ、良かったら使って下さいね。」
そう言って和希は篠宮の手にお守りとカイロを握らせた。
「それじゃ俺はこれで。紘司さん、頑張ってきて下さいね。」
部屋を出て行こうとする和希の腕を篠宮は掴む。
「紘司さん?」
「俺にお礼も言わせないで、お前は帰るのか?」
「えっ?だって、もう時間でしょ?」
「少しくらい遅れたって構わない。急いで食べればいい事だ。」
嬉しそうにお守りを見た篠宮はその神社の名前に驚く。
「和希?このお守りはどこで買ったんだ?」
「紘司さんの家ですよ。どこのお守りにしようか結構悩んだんですけど、やっぱり小さい時から紘司さんを見守ってくれている神様の方が効き目があるかなあと思って、そこで買ってきたんです。」
「一対いつ広島まで行って来たんだ?」
「この間の出張の帰りにちょっと寄り道したんですよ。素敵な所ですね。俺、凄く気に入りました。」
「全くお前ときたら…忙しいのに無理をするなとあれほど言っただろう。」
「…迷惑でしたか?俺…喜んで貰えると思ったのに…」
俯いた和希に篠宮は慌てて言った。
「違う!迷惑なんかじゃない!俺はただ…和希の身体が心配なんだ。」
「俺の?」
目に涙を浮かべる和希を頬をそっと篠宮は撫でながら、
「お前はすぐ無理をするからな。出張の帰りだなんて疲れてるのに、わざわざ寄って買って来てくれるんだから。でも凄く嬉しいよ。ありがとう、和希。」
「俺こそ。俺の身体の心配までして貰ってありがとうございます。」
ニコッと和希は笑うとつられて篠宮も笑った。
「この巾着袋は和希のお手製か?」
「はい。」
「くまが付いていて、可愛いな。これを持っているといつでも和希と一緒にいる様だ。」
そう言うと篠宮は和希に触れるだけのキスをする。
「紘司さん…」
「ありがとう、和希。」
「頑張って来て下さいね。」
「ああ。和希の為にも頑張ってくるから。」
「はい。」
朝日の中、微笑み合う和希と篠宮だった。