〜変わらない想い〜《篠宮×和希》 (2008年2月に載せていた拍手ssです)

3年生になると、1月に少し登校しただけで、後は自由登校になる。
大学に向けての受験があるからだ。
それはもちろん俺の恋人…篠宮紘司にも当てはまる事だった。
センター試験の後、第一希望の大学に向けて猛勉強をし、無事に第一希望の大学に合格した。
それはとても嬉しかったけれども…俺の心には暗い影が差していた。
それは…不安というもの。
ここを出て、新しい世界に飛び立とうとしている貴方が眩しくて、もしかしたら外の世界へ行ったら俺の事なんて忘れてしまうんじゃないかという不安。
卒業してしまえば、今までの様に毎日あえなくなってしまう。
こんなにも自分は弱かったんだろうかと思うと、不思議な気分になってしまう。
今まで誰かに固執した事などなかったのに…
恋とは不思議なものだ、と和希は思っていた。 

「和希、今度の日曜日に2人で出かけないか?」
「えっ?」
「やっと受験も終わったし、偶には2人で出かけたいんだ。和希に見せたい所があってな。難しいか?」
「あっ、いえ。午後からなら大丈夫です。午後からでもいいですか?」
「ああ、十分だ。それでは、日曜日の午後1時に寮のロビーでいいか?」
「はい。でもどこに行くのですか、紘司さん?」
「それは…行ってからのお楽しみではいけないか?」
和希はクスッと笑うと、
「珍しいですね、紘司さんがそんな風に言うなんて。」
「変か?」
「いいえ。楽しみにしてますよ。」
「ああ、俺もだ、和希。」 

そして、待ちに待った日曜日。
学園島からバスに乗り、駅で電車に乗り換える。
1時間ぐらいした頃、ある駅に降りた。
そこから10分程歩いた所で和希が見たものは…
あたり一面の菜の花畑だった。
「わー…綺麗だ…」
目を輝かせながら菜の花畑を見詰める和希を嬉しそうに見詰める篠宮。
「凄いですね。よくこんな素敵な場所を知っていますね。」
「偶々見つけたんだ。和希なら気に入ると思ってな。丁度見ごろで良かった。」
「ええ、素敵です。ありがとうございます、紘司さん。」
本当に嬉しそうに笑って言う和希に、
「良かった。この頃和希が暗い顔をするので気になっていたんだ。」
「紘司さん…」
「何か心配事でもあるんじゃないか?俺でよければ相談にのるぞ?」
心配そうに和希を見る篠宮に和希はこの所思っていた事を正直に答えた。
「俺…不安だったんです。」
「不安?」
「はい。もうすぐ紘司さんは卒業して大学へ行ってしまうでしょう?離れたら、俺の事なんて忘れて他の人を好きになってしまうんじゃないかと思って…」
俯きながら和希は言った。
そんな和希の頭を篠宮は優しく撫でると、
「まったく、お前って奴は…そんな事で悩んでいたのか?そんな事ある訳ないだろう?俺は医者になる為に大学に行くんだ。それ以外の事には興味がない。」
「紘司さん…」
「俺が大学を卒業するまで、暫くはあまり会えないが、俺を待っててくれるか?」
「待っててもいいんですか?迷惑じゃありませんか?」
「そんな事はない。」
その言葉を聞いて、安心する和希の唇にそっとキスをする篠宮。
和希の目から涙が零れ落ちる。
「どんなに忙しくても、毎年2人でここでこの花を見よう。」
「はい、紘司さん。」
2人の約束を菜の花が優しく見守っていた




〜側にいて〜《石塚×和希》 (2008年3月に載せていた拍手ssです)

    「疲れた…」
そう言って理事長室のソファーに座った和希はネクタイを緩めた。
といっても、今の和希はいつものスーツではなく、ベルリバティスクールの制服を着ている。
「お疲れ様です、和希様。」
クスクスと笑いながら、石塚はテーブルの上にコーヒーを置く。
「いかがでしたか?初めて参加された卒業式は。」
石塚に尋ねられ、和希は嬉しそうに答えた。
「うん、楽しかったよ。だって、1年生として参加したんだから。王様なんて最後の挨拶なのに、相変わらずでさぁ…」
和希はその時の事を思い出して笑った。
卒業式だからと言ってもいつもと変わらない様子の3年生。
王様や中嶋さん、篠宮さんに岩井さん…もう今日でここから居なくなってしまうのに、そんな違和感など全くない。
「でも、啓太は大泣きだったな…やっぱり恋人の篠宮さんが居なくなるのが寂しいんだろうな。」
和希はふと、昔を思い出す。
「行かないで!お兄ちゃん!」
そう言って泣いていた啓太は今は別の人を想って泣いている。
カズ兄としては少し複雑な気分だ。
そんな事を考えていたら、いつの間にか隣に石塚が座っていた。
和希は驚いて、
「いつの間に隣にきたんだよ?」
「今ですよ。お気づきになられませんでしたか?もっとも今の和希様は誰か他の人を想っていたようですが。」
「石塚…」
和希は軽く石塚を睨む。
「俺は石塚が1番だぞ。そりゃ、さっきはちょっと啓太の事を考えていたけど。」
「解ってますよ。和希様の事ですから、昔の事を思い出されていたのでしょう?伊藤君が和希様の事を“カズ兄”と呼んでいらしていた頃のことを。」
和希は目を丸くして、
「どうして解ったんだ?」
そんな和希を石塚は優しく見詰めて言った。
「和希様の事が好きですからね。」
和希は顔を真っ赤にさせる。
「ば…馬鹿…何言うんだ。突然に…」
「好きだから、好きと申しあげたまでです。気に入りませんか?」
「気に入らないとかじゃなくて…」
和希は石塚の頬のそっとキスをする。
「好き…っていうなら“様”をつけないで。ううん、つけて欲しくない。」
「まったく…そんな顔で私を煽るんですか、和希?」
石塚の手が和希の顎を掴んで柔らかい唇が和希の唇に触れる。
「んっ…石塚…」
甘い声で答える和希に石塚は優しく語り掛ける。
「私は和希から卒業する気はありませんからね。」
「…俺もだ…俺から卒業しようなんて考えるなよ?いつまでも俺の側にいてくれるよな。」
「仰せのままに。」
クスリと笑いながら、石塚は和希をソファーに押し倒し、
「貴方が私を要らないというその日まで、私はこのまま貴方の側に居続けます。…和希、愛してます…」





  






〜桜咲く〜《松岡×和希》  (2008年4月に載せていた拍手ssです)

「ここから見る桜も乙なものですね、迅さん。」
和希はそう言いながら保健室の窓から嬉しそうに桜を眺めている。
そんな和希を松岡は少し怒った感じで答える。
「そうだね。私も毎年ここの窓から見る桜を楽しみにしているよ。それよりも遠藤和希君、私は君に聞きたい事があるんだけれどもね。」
「何ですか?迅さん。」
「どうして君がここにいるのかな?しかも遠藤和希という新入生として。」
「やだなぁ、迅さんってば怖い顔して…新入生が怯えて保健室に来られなくなりますよ?」
「君以外には優しく接する予定だがね。」
「え〜俺だけ違うんですか?それっていじめって言うんじゃないんですか?」
不服そうに言う和希はとても二十歳すぎには見えない。
いや、ベルリバティスクールの制服を着た時点でもう16歳と言っても誰も疑わないだろう。
そんな童顔をしたここの理事長である、遠藤和希こと鈴菱和希は恋人の松岡迅に不満そうに声を上げる。
「折角今まで以上に側にいられると思ったのになぁ。迅さん、冷たい!!」
頬を膨らませて抗議する和希に、とうとう松岡は笑い出す。
「だって和希がいけないんだろう?私に内緒で学生なんかになるから。」
「内緒にしておきたかったんです。驚いた迅さんの顔を見たかったんですよ?」
「意地の悪い子だね。そう言う子にはお仕置きが必要だね。」
にやっと笑う松岡に、和希は後ずさりをするが、間に合わない。
腕を掴まれてそのままベットに倒される。
「迅さん?」
困った風に言う和希。
そんな和希に、
「今日は優しくなんて抱いてあげないからね。覚悟をするんだね。」
「迅さん、俺痛いの嫌いなんですよね。それと鍵閉めてませんよね?誰か来たらどうするんですか?」
「服を脱ぐのは和希だけなんだから構わないだろう?」
ニヤッと笑う松岡に和希はため息をつく。
確かに驚いた顔の松岡が見たかったから、入学式当日まで黙っていた。
だからって鍵が開いている保健室でするか?
でも…偶にはこんなスリルも味わってみるのもいいかな?
和希は松岡の首に手をまわすと、
「優しくして下さいね。俺はこの学園に今日入学して来たばかりなんですから…」
「困った問題児が入学したもんだな。」
「いやですか?」
「いや…手のかかる子ほど可愛いって言うだろう?これから3年間、卒業するまでゆっくりと可愛がってあげるからね。」
「お手柔らかにお願いしますね。」
「さあ…それは和希しだいだな…」
濃厚なキスにうっとりしながら、和希は幸せそうに微笑んでいた。






  





〜お誕生日〜《子供時代の和希と啓太》  (2008年5月に載せていた拍手ssです)

「ねえ、お兄ちゃんのお誕生日はいつ?」
「誕生日?」
「そう、お兄ちゃんの生まれた日だよ。お兄ちゃんはいつなの?」
和希は優しく啓太の髪を撫でながら、
「6月9日だよ。啓太はいつなんだ?」
「僕?僕はね、5月5日だよ。」
「5月5日?こどもの日なんだ。」
「うん!お父さんもお母さんも素敵な日に生まれたね、って言ってくれるんだよ。」
嬉しそうに言う啓太。
「そうだね。俺もそう思うよ。」
啓太の顔がさらにパアーと明るくなる。
「本当?お兄ちゃん?」
「うん。本当だよ。」
「嬉しいな。あのね僕、今お兄ちゃんに言われたのが今まででの中で1番嬉しいと思ったんだ。」
和希は驚いた顔をしたがすぐに笑顔になる。
「ありがとう、啓太。啓太にそう言ってもらえて嬉しいよ。」
啓太は嬉しそうに笑った。
「あっ、そうだ。今度の僕のお誕生日会にはお兄ちゃんも来てね。」
「えっ…」
「次の5月までまだいっぱい時間があるけど、招待状を出すからきっと来てね。」
「啓太、俺はその頃はもう日本には…」
言いかけた言葉を和希は急いで言い直した。
「うん。待ってるからな。」
「うん!約束だよ、お兄ちゃん。」
「もちろん。」
「忘れちゃ駄目だからね。」
「ああ、啓太こそ招待状を送るのを忘れるなよ。」
「解った。ちゃんと覚えておくね。」
満足そうに笑う啓太に、和希は心の中で謝っていた。
“ごめんな、啓太。その約束は守れない。だって俺はもうすぐ日本からいなくなるから。でも忘れないよ。啓太の誕生日は側にいられなくても必ずどこかでお祝いしてるからな。”
和希の側で嬉しそうに今年の誕生日の話をしている啓太。
“いつか、どこかでまた出会う事ができたなら…その時はきっと二人っきりで啓太の誕生日のお祝いをしような” 
        そう心の中で思いながら啓太に笑いかける和希でした。




 〜傍にいて〜《西園寺×和希》  (2008年6月に載せていた拍手ssです)

シーツを身体にはおりながら和希は窓辺に立ち、窓の外の雨を見ていた。
シャワーを浴びて出てきた西園寺は窓辺に1人立っている和希に気付き、傍に来た。
「和希、何をそんなに熱心に見ている?」
「郁…」
窓の外を見ていた和希は西園寺に気付くとふわりと笑った。
「何か面白いものでもあるのか?」
そう言って西園寺も窓の外を見るが、雨が降っているだけで何も変わりなかった。
「初めて郁を意識した日もこんな雨の日だったなぁって思ってみてたんです。」
和希はそう言いながらそのまま窓の外を見ていた。


話は1年程前になる…
その日は朝から雨だった。
会計の仕事を終わらせて七条と寮に帰る途中で西園寺は異様な光景を見てしまった。
この雨の中、傘もささずにジッと立って空を見上げて濡れている人物を…
西園寺が突然立ち止まったので、不思議に思い七条も立ち止まり西園寺が見ている方を見て驚いて声を上げた。
「遠藤君?何をしているんですか?」
そう言いながら和希の傍に近寄る七条に西園寺はハッとして直ぐに後を追う。
「遠藤?こんな所で何をしている?」
西園寺は濡れた和希の肩を掴み和希に問いかけるが返事はない。
心配した西園寺は、
「遠藤、とにかく寮に帰るぞ。」
「そうですよ、遠藤君。このままでは風邪を引いてしまいます。郁、郁の部屋のお風呂にお湯を張ってもいいですか?とにかく遠藤君をあたためなくてはいけませんからね。」
「ああ、そうだな。頼む、臣。私は遠藤を連れて帰る。」
「はい。では鞄をお預かりして先に戻ってます。」
西園寺の鞄を受け取った七条は寮へと急いで戻って行く。
「さあ、遠藤。私達も帰ろう。」
そう言って和希に声をかけるが和希は動かない。
ため息を付きながら西園寺は和希の腕を掴むと無理矢理に歩かせた。
どれくらい雨に濡れていたんだろうか?
ひんやりと冷たい和希の腕に西園寺の胸は痛んだ。

寮の西園寺の部屋に入ると既に風呂にはお湯が張られ、バスタオルが用意されていた。
「それでは郁。後はお願いしていいですね?」
「臣…」
「折角のチャンスですから逃さないように…ね。」
ニッと笑いながら七条は部屋を後にした。
西園寺は顔を赤くさせながら全く臣の奴は…とブツブツ言っていた。
部屋に入っても様子が変わらない和希の服を西園寺は脱がせ、手を引っ張り湯船につけた。
何も喋らず、動かない人形のような和希を西園寺は綺麗にすると、ベットに座らせドライヤーで髪を乾かせながら言った。
「何があった?遠藤?」
「…」
「啓太の事か?今日啓太から丹羽と付き合うと報告を受けた。」
和希の身体がビクッと震える。
そんな和希を見て西園寺は、
「人の心は思い通りにはならない。悲しいかがな。」
その言葉で和希の目から涙が零れた。
「啓太が…好きだ…」
「そうか…」
「ずっと…10年間…啓太だけを…思ってきた…」
「そうか…」
「でも…啓太は…俺を…選ばなかった…」
「そうだな…憎いか?丹羽が。」
和希は首を振る。
「王様はいい人です。きっと啓太を誰よりも幸せにしてくれる…でも…俺の想いはどうなうのだろう…これからどうやって生きていけばいい?…啓太のいない世界で…」
零れ落ちる涙を西園寺はその手で拭いながら、
「私では駄目か?」
「西園寺さん?」
「私はお前程ではないが、2年も遠藤だけを見てきた。」
「でも…俺は…啓太の事が…」
「今すぐに啓太を忘れろとは言わない。ただ、傷が癒えるまででいい。私の傍にいて私だけを見ろ。そして啓太を忘れられてからでいい。
私との事を考えろ。」
「俺は…西園寺さんの想いに答えられないかもしれない…」
「それでもいい。傷を癒す間だけは私の傍にいろ。いいな。」
「はい…」
そう言って和希は西園寺の胸に顔を埋めると更に涙を流した。
その晩、西園寺はただ和希を抱き締めて一夜を過ごした。


「ああ…懐かしいな。あの頃の和希は壊れそうだったからな。」
「やだな…そう言う事言うんですか?」
「うん?そうだろう?」
和希は顔を赤くして答える。
「そうですけど…でも今考えると素敵な告白でしたね。」
嬉しそうに和希は言う。
そんな和希に西園寺は、
「そうか?ならもうい1回言おうか?」
和希は慌てて、
「いや、もういいです。あんな台詞恥ずかしくてもう2度と聞けません。」
それから恥ずかしそうに、
「あの時郁がいてくれたから今の俺がいるんです。愛してます郁。」
「私もだ、和希。」
西園寺は和希に深い口付けをしながら、和希を覆っているシーツを取ると和希に触れる。
「んっ…」
和希の口から漏れる甘い声。
「さあ、和希、もう1度私の為に可愛い声を奏でてもらおうか?」
そう言うとベットに和希を沈めた
 〜プールに入ろう〜《和希と海野先生とトノサマ》  (2008年7月に載せていた拍手ssです)

「はぁ〜、やっと終わった。」
ここ、生物室で放課後海野先生の実験を手伝っていた和希は伸びをしながら言った。
「遠藤君、お疲れ様。お蔭で助かったよ。今ココアを入れるから待っててね。」
「はい。海野先生の入れてくださるココアは凄く美味しいって話ですから、俺楽しみだな。」
「本当?僕の入れたココアが美味しいって評判になってるの?嬉しいな。」
ウキウキしながら、ビーカーでお湯を沸かす海野。
別に評判にはなっていないけれども、嬉しそうな海野の顔を見るとあえてそれを言わない和希だった。

和希はふと窓の外を見た。
今日はとてもいい天気だ。
「今日はいい天気ですね。もうじきプール開きだけど今日みたいに暑いともうプールに入りたくなりますね。」
「そうだね。僕もプールは好きなんだ。しょっちゅう入れる生徒が羨ましいよ。」
「海野先生は泳ぐの好きなんですか?意外だな。」
「あ〜、遠藤君今僕の事馬鹿にしたでしょ?僕だって得意じゃないけど泳げるんだよ。」
「馬鹿になんてしてませんよ。海野先生は肌が白くて綺麗だから日焼けしたらもったいないなって思っただけですよ。」
「肌が白いのは遠藤君だって一緒だよ。僕は先生だから仕方ないけど、生徒の遠藤君がそんなに白いのは問題だな。きちんと体育の授業には出てるの?」
拙い方向に話が進みそうなので和希は慌てて話題を返る。

「海野先生、ほら、お湯沸いてますよ。」
「あっ…本当だ。あちっ!」
「ほら、海野先生気をつけて下さいよ。」
そう言うと和希は海野先生の手を水道の水で冷やす。
「…ありがとう、遠藤君。」
「どういたしまして。それよりも落ち着いたらココア頼みますね。俺これでも楽しみにしてるんですよ。」
「うん!とびっきり美味しいココアを入れるから待っててね。」
そう言って海野はいそいそとココアを作る。
そんな姿が可愛いな…と和希は思ってしまう。
その時…

「ぶにゃ〜ん」
トノサマが生物室に帰ってきた。
「あれ?トノサマ。雨が降ってないのに何でそんなに濡れているんだ?」
和希は不思議に思ってトノサマに聞いてみた。
「うにゃー、にゃー」
トノサマは答えてくれるが、何を言っているか和希には解らない。
困った和希に海野は通訳してくれた。
「暑いから水浴びしてきたって言ってるよ。」
ココアが入ったコップを和希に渡しながら海野は言った。
「はあ…猫が水浴びですか?」
「ぶにゃ!!」
「猫だって暑いと水浴びくらいするんだって。」
「うにゃー、にゃーにゃー」
「そんなに驚いた顔をするなって。失礼だろうって。」
「はぁ…ごめんな、トノサマ。」
和希はそう言うとトノサマの身体を撫でる。
「でも、トノサマ。そのままだと風邪を引くぞ。ここはクーラーが効いてるからな。海野先生。タオルを貸してもらえますか?トノサマの身体をふきたいんです。」
「はい。これでいい?」
海野が差し出したタオルを使って和希はトノサマの身体を丁寧に拭く。
気持ちいいのか、トノサマは気持ち良さそうな顔をしていた。

拭き終わった和希にトノサマは、
「ぶにゃ、うにゃうにゃ。」
「お礼かい?トノサマ。」
「あれ?遠藤君トノサマの言っている事が解るの?」
「いいえ。でも今のは何となくそんな気がしたんですよ。」
「ふ〜ん。なら後半の意味は知らないよね。」
「後半?お礼の他に何か言ってたんですか?」
「うん。遠藤君は良いお嫁さんになれるよって。」
「お嫁さん?俺男なのに酷いですよ、それ。」
和希が少し怒った風に言うと、海野は慌てて、
「違うよ、今のはトノサマが言ったんだからね。」
「まったく、トノサマ。そう言う時は良いお婿さんになるって言えよ。解ったな。」
「にゃーにゃー」
「よし!いい子だ。」
そう言ってトノサマの頭を撫でる和希を見て海野は複雑な顔をしていた。
最後にトノサマが言った台詞に戸惑っていたからだ。
トノサマが言った台詞は…
『隠してたって俺は知ってるんだぞ。あんなかっこいい彼氏がいるんだからやっぱりお嫁さんだろう。』