〜誕生日プレゼント〜《竜也+和希(留学中のお話です)》  (2008年8月に載せていた拍手ssです)

和希が留学中、護衛についてくれた人物…それが丹羽竜也だった。
竜也は和希が特殊な環境で育った事を知ると、せめて留学中だけでもと和希に普通の生活を教えてくれた。
その1つが誕生日だった。
仕事が忙しい両親なので、和希は誕生日に誰かに祝ってもらった事がなかった。
和希が知っている誕生日は鈴菱主催の誕生日会だけだった。
そんな和希に普通の誕生日を教えてくれたのが竜也だった。
何気なく零した『今日は俺の誕生日なんだ』の一言にケーキと誕生日プレゼントを買ってくれ、初めて誕生日のお祝いの歌『ハッピバースディー』を歌ってくれた竜也。
ささやかな誕生日のお祝いだったが、それは和希の人生の中では宝物になった。
そして、もうじき竜也の誕生日がこようとしていた…

和希は竜也の為に何か誕生日プレゼントを渡したかったが、何がいいかよく解らなかった。
本人を驚かそうと思っていたので、竜也には聞けない。
その上、竜也は和希の護衛が仕事なのでどこに行くのも一緒だった。
これでは外で買い物に行ったら、何を買ったかばれてしまう。
困った和希は考えた。
どうすればいいのだろうかと…
散々迷った結果、和希は得意の編み物で何かを作ろうと決めた。

いつもは夕食を食べると、竜也と一緒にゆっくりと過ごす和希が最近すぐに自室にこもってしまう。
竜也は不思議に思って聞くが、『学校の課題が忙しくて』そう言って和希は誤魔化していた。
そして迎えた竜也の誕生日。
学校の帰り、珍しく買い物をしたいという和希に付き合った竜也は和希がケーキを買うのをジッと見ていた。
食べ物を買うなんて、ましてケーキを買うなんて初めての事に少々竜也は戸惑ったが、和希のまだまだ子供なんだと微笑ましく見ていた。

その晩、夕食の後和希が竜也に声をかけた。
「竜也さん、一緒にケーキを食べませんか?」
「ケーキ?ああ…さっき坊ちゃんが買ったケーキか?」
「はい。竜也さんと一緒に食べたくて買ったんです。竜也さん甘いものがあまり好きではないって知ってるけれども、お店の人に1番甘くないケーキを教えてもらって買ったんです。一緒に食べてくれますか?」
「ああ、坊ちゃんがそこまで言うならな。ただし、少しだけだぞ。」
「はい。」
嬉しそうに和希は微笑むと、冷蔵庫の中からケーキの箱を取り出して竜也の前に置いた。
「竜也さん、開けて下さい。」
「俺がか?」
「はい。」
「どうしてだ?折角坊ちゃんが買ったのに。」
「いいんです。竜也さんに開けてもらいたいんです。さあ、開けて下さい。」
和希に薦められて竜也が箱を開けると…
そこには小さいながらも丸い形のケーキに『HAPPY BIRTHDAY RYUYA』と書かれたプレートがおいてあった。
「坊ちゃん…これは…」
嬉しそうに笑いながら和希は言った。
「お誕生日おめでとうございます、竜也さん。いつも俺を守ってくれてありがとうございます。これ、俺からの誕生日プレゼントです。受け取って下さい。」
和希はリボンに包まれたセーターを竜也に渡すと、
「手作りセーターなんて渡したら、竜也さん奥さんに怒られちゃいますか?」
「馬鹿。そんな些細な事を気にする奴じゃないさ。冬になったらありがたく使わせてもらうからな。ありがとな。」
「いいえ。これからもよろしくお願いしますね。」
「ああ。」
竜也はそう言うと和希の頭をガシガシといつものように撫でた。






〜側にあるぬくもり〜《七条×和希》   (2008年9月に載せていた拍手ssです)

和希がふと目を覚ますと、すぐ側には愛しい恋人七条の顔があった。
気持ちよく眠っている七条を起こさないようにそっと身体を動かしてみたが、七条は和希を逃がさないかのようにさらにギュッと和希を抱き締めた。
眠っているのに、無意識にしてしまう七条の動きに和希は思わず微笑んでしまった。
まさか七条とこんな関係…恋人になるなんて和希は思いもしなかった。

2年前の初めての出会いは最悪と言っていいくらいだった。
西園寺を庇って和希を睨みつける七条。
どう考えても好意など持たれる要素は1つもなかった。
和希もそれが解っていたので、七条には距離を置いて接していたつもりだった。
だが、西園寺はそんな和希に好意を持ってくれた。
特に学生として入学してきてからは、今まで以上に気を使ってくれた。
そんな西園寺に合わせてくれたのだろうか?
七条の和希に対する接し方が少しずつではあるがかわってきていた。

学校の廊下で、寮や食堂で会った時、七条は必ず和希に声をかけてくれるようになった。
「いい紅茶が入ったので後で会計室に来ませんか?」「通販で美味しいケーキが届いたので伊藤君と一緒に食べに来てはくれませんか?」「顔色が悪いようですが無理をなさってるのでは?」など…
七条は和希に様々な話をしてくれた。
そんな七条に和希が好意を抱くのには時間は掛からなかった。
だが、自分は理事長なのだからと必ず一線を引く和希にある日七条は言った。

「そんなに肩に力を入れてばかりいて、貴方は疲れないのですか?」
と…
和希にとってその言葉を驚きだった。
「なぜ?七条さんは俺の事が嫌いなのにどうしてそんな事を言うのですか?」
「僕が貴方を嫌いだと、どうしてそう思われるのですか?」
「だって…俺は七条さんが入学する時にあんな酷い事をしたんですよ。嫌われて当然です。」
「そうですね。あの時はなんて嫌な大人だと思いました。けれども、貴方という人物を知るにつれ、その考えは変わってきました。」
「変わってきた?」
「はい。最初は郁が貴方を気に入っていたので仕方なく貴方と接していました。でも…貴方を見ているうちに僕の心に何かが生まれてきました。」

和希はじっと七条を見つめながら話を聞いていた。
七条は和希の頬に手を添えると、微笑んで言った。
「遠藤君、僕は貴方にいつの間にか恋をしてしまいました。貴方が好きです。僕と付き合って下さい。」
和希は驚いて何も言えずに、ただ七条を見つめているだけだった。
そんな和希に七条は触れるだけの優しいキスをする。
和希の目から一筋の涙が零れる。
そして和希は一言言った。
「本当に俺なんかでいいんですか?俺は汚い大人なんですよ?」
「ええ。鈴菱グループの為にはどんな汚い事でもできる方です。けれども本当の貴方はとても繊細で優しい方だ。僕はそんな貴方の力になりたい。貴方が疲れた時側にいて癒してあげたい。その笑顔が曇らないようにしてあげたい。」
「七条さん…」
「それとも、僕では貴方の力にはなれませんか?」
和希は首を振る。
「後悔しても知りませんよ?」
七条は笑いながら、
「貴方を恋人にできない方がよっぽど後悔しますよ。」
七条の微笑みに和希も微笑む。
「俺も七条さんが好きです。俺からもお願いします。俺と付き合って下さい。」

その時の様子を思い出して和希は微笑む。
あの時、七条の手を取って本当に良かったと…
和希は七条の胸に顔を埋めるとそっと囁いた。
「臣、愛してます。これからも俺を貴方の側に置いて下さいね。」





〜展示会〜《河本×和希》    (2008年10月に載せていた拍手ssです)

「こんにちは、河本さん。」
「やあ、岩井君よく来たね。おや?遠藤君も一緒なのかい?」
河本の画廊で先日岩井が描いた絵が何点か展示をしているので、岩井は和希と一緒に見に来ていた。
入り口のところで岩井と和希は河本に会ったので挨拶をしたのだが、なぜか和希は岩井の後ろに隠れるようにしていた。
「…こんにちは…」
和希は少し俯きながら挨拶をする。
不思議に思った河本は岩井の顔を見ると、困った顔をして笑っていた。
「どうしたんだい?遠藤君は?具合でも悪いのかい?」
「…」
答えない和希の代わりに岩井が答えた。
「違う。遠藤は恥かしいそうだ。」
「恥ずかしい?」
「ああ。俺が描いた絵に自分が描かれているのが恥ずかしいと言ってここに来るのも渋ったんだ。」
「ほう…遠藤君は恥ずかしがりやさんなんだな。モデルの時はあんなに大胆なのにね。」
「河本さん!誤解するような言い方はよして下さい。」
「何が誤解なのかな?モデルの君はとても大胆で輝いているのに。」
「そんな事ありません。」
「そんな事はないと思うけどな。遠藤はとても綺麗だった。」
「もう、岩井さんまで…」
和希がそこまで言った時、画廊を見てきた客がこちらを見て、
「ねえ、あの子じゃない?あの絵の子。」
「本当だ。実物も可愛いじゃない。」
そんな声が聞こえてきて和希はいたたまれなくなり、真っ赤な顔になってしまった。
そんな和希を河本は愛しそうに見つめる。
本当は絵になんて残したくない。
自分だけのものとして誰の目にも触れさせたくないと思ってしまう。
その反面で、こんなに綺麗な自分の恋人をキャンパスに残せるのも素晴らしい事だとも思っている。
書き手が岩井君なら和希の美しさを存分に引き出してくれるだろう。
実際、こうして絵にした和希はとても綺麗なのだから。
「遠藤、大丈夫か?無理なら帰ろうか?」
「大丈夫です。もう少ししたら見に行きますので先に行っててくれますか?」
「ああ、それは構わないが。本当に平気なのか?」
「はい。もう少しだけ心の準備をしたら行きます。」
「そうか。」
そう言って岩井は奥の方へ歩いて行くのを見送った河本は和希の側に寄ると、
「大丈夫かい?和希。」
「あっ…はい。でも…やっぱり恥ずかしいです。」
「恥ずかしいか。今の和希の顔は誘っている時の顔に似ているね。」
「なっ…何言ってるんですか?」
真っ赤な顔で口をパクパクする和希が可愛くて河本は思わず笑ってしまった。
そんな河本を和希は軽く睨む。
河本は和希の耳の元でそっと囁いた。
「後でゆっくりと抱いてあげるから今は我慢するんだよ。」
そこには更に真っ赤な顔をした和希がいた。





〜寒い朝には〜《石塚×和希》    (2008年11月に載せていた拍手ssです)

「寒っ…」
目が覚めた和希はまずそう呟いた。
11月に入り、少しは寒くなってはいたが、まだそれ程ではなかった。
でも、今朝の冷え込みは酷くて、和希は寒くて目が覚めてしまったのだ。
枕元の時計を見るとまだ朝の4時。
起きるにしては早いのでもう少し寝ようと思い、クローゼットから掛け布団を出してそれを掛けてからもう1度布団に入った。
「温かい…」
そう言った和希だが、ふと人肌が恋しくなった。
いつだって側にいて抱き締めて欲しい人は今ここにはいない。
こんな時は側にいて欲しいのに…
「裕輔…会いたい…」
和希の目から一筋の涙が零れていた。
毎日会っているけど、あくまでも上司と部下の関係。
なかなか恋人としての時間は作れない。
プライベートと仕事との区別をしっかりする恋人はなかな恋人の顔にはなってくれないのだ。
毎日ほんの少しの時間でもいいから恋人として過ごせたらどんなにいいだろう…
和希はいつもそう思っていた。
その時、ふと和希は思いついた。
ニコッと笑うと、暖かい布団にギュッと包まりながら和希はまた眠りの世界に旅立っていった。

「和希様、今日はこの書類にサインを頂ければ終了です。」
「解った。」
理事長室で和希は石塚から受け取った書類をチェックする。
その書類には何の問題もなく、和希はサインを入れた。
その書類を石塚に渡すと、石塚は微笑みながら言った。
「お疲れ様です、和希様。今コーヒーをお持ちしますね。」
「いや、いらない。」
「よろしいんですか?」
「ああ。」
「そうですか。では私はこれで失礼します。」
そう言って頭を下げて理事長室を出て行こうとする石塚に和希は声を掛ける。
「石塚、お前はまだ仕事があるのか?」
「はい、もう少し残って仕事をしますが、それが何か?」
和希は理事長の顔から恋人の顔に変わると、
「今から裕輔と過ごしたいと思ったんだけど、無理?」
「和希様?」
「駄目?」
理事長席から石塚を見つめる和希。
そんな和希に石塚は、
「今日は平日ですよ?大丈夫なんですか?」
和希は嬉しそうに笑いながら、
「実は、今朝外泊届けを出してきたんだ。」
石塚は驚いた顔をした。
「やっぱり急には無理だった?ごめんなさい。俺自分の都合ばかり裕輔に押し付けちゃって。俺…もう寮に戻るからさっきの話は忘れて…」
急いで隣の仮眠室に入ろうとする和希を石塚は和希の腕を掴んで引き止めた。
腕を取られた和希は俯いたまま石塚を見ようとはしない。
不思議に思った石塚が和希の顔を覗き込むと和希の目からは涙が溢れていた。
「和希…」
石塚は和希の涙を手で拭うと優しく微笑んだ。
「相変わらずですね。人の話は最後まで聞かなくてはいけませんよ。」
「裕輔?」
「どうして和希は泣いていたんですか?」
「だって…」
「だって?」
「裕輔が迷惑そうな顔をしてたから…」
「私がですか?それは和希の勘違いですよ。私は嬉しかったんです。」
「えっ…?」
「和希が私と過ごす為にわざわざ外出届けを出してくれた事が嬉しかったんです。素敵なサプライズですね。」
「裕輔…俺…この後裕輔と一緒にいてもいいの?」
「もちろんです。こちらからもお願いしますね。」
「裕輔!」
和希は石塚の胸に飛び込むと石塚の背に手を回し、ギュッと抱き締めた。
そんな和希を石塚もきつく抱き締める。
「さあ、和希。制服に着替えてきて下さいね。私も急いで仕事を片付けてここにきますので、もう暫くこちらで待ってて下さいね。」
「うん。」
和希はそう言って名残惜しそうに石塚から離れる。
暖かいぬくもりが離れてしまい、少しだけ寂しい和希だったが、この後の時間を共に過ごす事ができる喜びに胸をときめかしていた。




〜りんご〜《松岡×和希》   (2008年12月に載せていた拍手ssです)

「わー!凄くたくさんのりんごですね。これ、どうしたんですか?迅さん。」
「ああ。学生時代の友人が送ってくれたんだ。食べるかい?和希。」
「いいんですか?俺りんご好きなんですよね。」
そう言って嬉しそうに笑う和希を松岡は微笑んで見つめた後、りんごを1つ取ると流しに向う。
「あっ、迅さん。俺りんごの皮を剥きますから。」
「えっ?和希に剥けるのかい?」
「随分と失礼な事を言いますね。俺にだってりんごの皮くらい剥けます。…そりゃ、上手くはできないかもしれないけど…」
最後の方は聞こえないくらい小さな声で言う和希の頬は少しだけ膨れていた。
まったく幾つになってもあの頃と同じ顔をする和希を松岡は嬉しそうに和希を見つめ、
「そうだね。1年は必修授業で家庭科があったね。調理自習ももう何回かしたんだよね。」
「はい。でも、あんまり包丁は使わしてもらえなかったんですよね。」
「どうしてだい?」
「う〜ん、どうしてかな?一緒の班の友達が『遠藤はやらなくてもいいからな』って言うんですよ。それでも俺がやろうとすると啓太が『駄目だよ、和希。手を怪我したらどうするんだよ。和希の手は和希1人だけのものじゃないんだよ』って言うんです。でもそれって変ですよね。それを言うなら皆そうなのに…」
不思議そうな顔をする和希に、松岡は笑いを堪えるのに苦労していた。
要は包丁を使った事がない和希を皆が気にしているって事だ。
鈴菱の後継者として育った和希は当然料理などした事はない。
つまり包丁など持った事などないのだ。
おそらく初めての調理実習で包丁を握った和希を見て皆はもう2度と和希に包丁を握らせまいと決心したのだろう。
その時の様子が目に浮かぶようだ。
だが、器用な和希な事だ。
きっと何回か練習すれば上手く使えるようになるだろう。
「じゃ、和希に皮を剥いてもらおうかな?」
「はい。」
嬉しそうに和希は答えた後、困った顔をして和希が聞いてきた。
「迅さん、皮むき器どこですか?」
「ピーラーの事かい?」
「はい。」
「そんなものはここにはないよ。」
「えっ…?それじゃどうやってりんごの皮を剥くんですか?」
「…」
しばしの沈黙の後、松岡は言った。
「和希は包丁は使わないのかい?」
「はい。」
「…」
「おかしいですか?」
「いや…」
和希ならありえると松岡は思った。
だがピーラーでりんごの皮を剥くのか…
いったい誰がそんな事を和希に教えたんだろう?
内心複雑な気持ちのまま松岡は、
「今度、買っておくからね。今日は私が包丁でりんごを抜くからそれでいいね。」
「はい。」
りんごを松岡に渡す和希を見て、明日にでもピーラーを買いに行こうと思った松岡でした。