〜お正月〜《篠宮×和希》
(2009年1月に載せていた拍手ssです)
「お正月はいつも忙しいんだ。」
年末年始の過ごし方を聞いた和希に篠宮はそう答えた。
「そういえば、篠宮さんのご実家って神社でしたね。」
「ああ。毎年暮れから正月にかけて大忙しだ。だから寮も早めにでなければならない。すまないな、和希。」
和希の髪を撫でながら篠宮は申し訳なさそうに言った。
「どうして篠宮さんがあやまるんですか?俺だっていつも仕事で忙しくてドタキャンなんてよくするのに。それよりも寒いですので風邪なんか引かない様に気をつけて下さいね。」
「ありがとう、和希。4日には寮に帰って来るからな。」
「はい。楽しみに待ってますね。」
その言葉通り、篠宮は冬休みに入るとすぐに実家に帰って行った。
和希は寂しかったが、冬休みは溜まった仕事を片付けなくてはならない。
干渉に浸っている時間は和希にはなかった。
けれども…
大切な人の誕生日は1月1日だ。
せめてほんの少しでもいいから会えないだろうか?
和希はスケジュールを眺めながら頭を悩ませていた。
「あ?あ。篠宮さんの家が近くなら良かったのにな。広島じゃ遠いいな…」
けれども、何とかして会いたいと思った和希はどうにかして時間を作れないのか考えていた。
「…忙しそうだな…」
無理を承知で石塚に頼んで何とか時間を作ってもらってここ篠宮の実家である神社まで来たのはいいけれども、忙しそうに働いている篠宮を見たら和希は声を掛けられなかった。
「仕方ない。時間もないし…あっ、すみません。」
和希は側を通った巫女さんに声をかけた。
「はい、どうかなさいましたか?」
「お忙しいところ申し訳ないのですが、これを篠宮先輩に渡してもらえませんか?」
和希が差し出した紙袋を受け取りながら、
「貴方、篠宮君の後輩の方?今、篠宮君を呼んできましょうか?」
「いいえ、お忙しそうですから結構です。中に手紙が入っているので解ると思いますのでよろしくお願いします。」
和希は頭を下げながらそう言うと急ぎ足で人ごみの中に紛れて行った。
「篠宮君、今そこで篠宮君の後輩の子からこれを預かってきたの。」
「後輩?」
「ええ。篠宮君くらいの身長で淡い茶髪の可愛い子だったわ。」
「えっ…」
篠宮は慌てて、
「どこに行ったか解りますか?」
「さあ?でも、出口の方に行ったから帰ったと思うけど。」
「すみません。ちょっと席を外します。」
「えっ…?篠宮君?」
走り去っていく篠宮を驚いた顔をして見ていた。
「和希!」
神社の側に止めてあったタクシーに乗り込もうとしていた和希を見つけた篠宮は大声を出した。
「えっ…?篠…宮…さん?」
驚く和希の側に篠宮は走って近づくと、和希の腕を掴む。
ゼイゼイと息をしながら、
「どう…して、ここに?」
「それは俺の台詞です。篠宮さんこそどうして俺の居場所が解ったんですか?」
「さっき和希が話をした子が出口に向ったと言ってたので車ならこのあたりに駐車すると思って来てみたんだ。」
「忙しいのに…」
「それは和希だって同じだろう?しかしどうして急にここに来たんだ?」
「今日は…」
和希がそこまで言った時、タクシーの中にいた石塚が声をかけた。
「和希様、申し訳ありませんが飛行機の時間が迫ってますのでお急ぎ下さい。」
「ああ、解った。すぐ終わらせる。」
そう言った後和希は篠宮に向ってふわりと微笑むとそっとその唇に自分の唇を重ねた。
いきなりキスをされた篠宮は呆然としていた。
「お誕生日おめでとうございます。どうしても今日篠宮さんに直接伝えたかったんです。紙袋の中身は誕生日プレゼントが入ってます。後で見て下さいね。じゃ、俺時間なんでこれで失礼します。」
さっと車に乗り込んだ和希を篠宮はボゥ?と見送っていた。
そして1月4日…
約束通りに寮に帰って来た篠宮は、和希が無理をして自分の誕生日のお祝いに来てくれた事が嬉しくて、珍しく暴走してしまい、和希は翌日起きられない事になってしまうのであった。
〜優しさに包まれて〜《西園寺×和希》
(2009年2月に載せていた拍手ssです)
「…んっ…」
「目が覚めたか、和希。」
「…西園寺さん?…」
ベッドの中で目覚めた和希はどうして自分がここにいるのか寝起きでボォ?としている頭で考えていた。
今、自分はベッドで寝ている。
そしてベッドの側では西園寺さんが椅子に座って本を読んでいる。
この部屋は…どうやら西園寺さんの部屋らしい。
西園寺さんの部屋…ベッドで寝ている自分…
和希は昨夜の事を思い出し、急いで起き上がったが身に何もまとってない姿に慌てて掛布団を引き寄せて身体を隠した。
そんな和希の様子を黙って見ていた西園寺はクスクスと笑いながら、
「まったく、朝から飽きない奴だな和希は。」
「さ…西園寺さん…」
和希は真っ赤な顔をした。
西園寺と和希が恋人として付き合い始めてから数ヶ月経っていた。
入学した頃から西園寺は和希に興味を持って見つめていた。
一方の和希はあくまでも一般生徒として、いや、特別に自分の正体を教えて色々と協力してもらっている生徒として西園寺と七条に接していた。
そして、恋は突然にやってくるもので、西園寺がBL学園に入学して初めて迎えた冬。
和希と出会ってちょうど1年目に西園寺は和希に愛の告白をする。
最初は断わっていた和希だったが、西園寺の熱い視線に勝てるわけもなく春が来る前に和希は西園寺の告白を受け止める事になる。
けれども…
時期的に理事長として多忙だったせいもあり、2人の関係はキスどまりだった。
それが、和希が情報漏洩問題の為学生をするようになると急速に2人の仲は縮まっていった。
そう…和希が身も心も西園寺に捧げるのに時間はそう掛からなかった。
西園寺が和希を抱くようになってからまだ数回しか経ってないが、和希は思ったよりも恥ずかしがりやで今だに明るい中で西園寺に身体を見られるのを嫌がっていた。
「今さら何を隠す事がある。さっきまで散々私に可愛がれていた身体だろう?」
「西園寺さん…そういう恥かしい事…言わないで下さい…」
そう言った和希はふと時計を見て慌てた。
「えっ?もうこんな時間なんですか?2時間目が始まってるじゃないですか?」
「ああ、そうだな。」
「そうだなって。俺は西園寺さんと違って出席日数がギリギリなんですから急いで授業に出なくっちゃ。」
掛け布団で身体を隠しながら和希は制服に着替えようと布団から出ようとしたが、西園寺に布団の上に押し倒された。
「西園寺さん?」
「今から行ってももう2時間目は終わりだ。それよりももう少しここで私と過ごさないか?」
「えっ?今日は午後からサーバー棟に行かなくちゃ行けないので、午前中しか授業に出られないんです。」
「そうか。なら午後までここにいるがいい。」
そう言うと西園寺は和希の身体を隠している掛け布団を取ると和希の身体に触れる。
数時間前まで西園寺に愛されていた身体はすぐに反応してしまう。
「…あっ…や…んっ…」
和希の甘い声に西園寺は満足したように微笑む。
その笑顔に観念した和希は、
「午後には動けるように手加減して下さいね。」
「さあな。お前の心がけしだいだ。」
そう言うと西園寺は和希に甘いキスをした。
〜やきもち〜《松岡×和希》 (2009年3月に載せていた拍手ssです)
「和希、お疲れ様。」
松岡はそう言うと和希に暖かい柚子茶が入った湯飲みを渡した。
和希は受け取りながらありがとうと言うが、どこか元気がない。
そんな和希の様子を松岡はジッと見つめながら、
「今日はかなりお疲れの様だね。1日忙しそうだったからね。」
「そんな事ありません。俺なんかよりも松岡先生の方がお忙しかったんじゃないですか?」
「おやおや…」
松岡は困った顔をして和希を見た。
いつもなら、2人きりの時は必ず『迅さん』と言うのに、今日は『松岡先生』。
和希が松岡の事をそう呼ぶ時は機嫌の悪い時に決まっている。
どんなに疲れていても、2人きりの時は甘える和希なのだから。
「で…和希は何がそんなにお気に召さないのかな?」
「うっ…別に…」
和希が視線を反らす。
「今日は丹羽君達3年生の卒業式だったのだろう?今年は生徒としてだけれども初めて卒業式に出られるってあんなに張り切っていたじゃないか。それなのに、どうして今はこんなにご機嫌斜めなのかな?」
「…そんな…事…ありま…せん…」
語尾を小さくしながら和希は言う。
本当は違う。
何かが気になるからそんな風に顔を曇らすのだ。
松岡はいつも和希には笑っていてもらいたいと思っている。
だから、和希の心を少しでも軽くしてあげたかった。
「和希。隠し事は好きじゃないんだ。」
「…っ…、隠し事なんて…」
「してるだろう?さあ、何もかも言ってしまえば楽になるから、言ってごらん。」
顎を上げられ、松岡の視線から逃れられなくなった和希は渋々と言った。
「だって…迅さん…」
「うん?」
「迅さん、卒業する3年生からいっぱい告白されてた。」
「ああ、そういえば、最後だからって好きですって言ってきてた子が何人かいたね。」
冷静に言う松岡に和希は頬を膨らませて、
「迅さんの事だからきっと嬉しそうにデレッとしてたんでしょ。」
「それはないよ。」
「そうですか?」
「信用してないな。ところでその話誰から聞いたんだい?和希は卒業式の後、来賓の方々と理事長として会っていたんだろう?」
「誰だっていいじゃないですか?」
拗ねて答える和希。
本当は啓太からのメールで知ったのだ。
松岡が卒業生に告白されていると。
それも1人や2人などというかわいい数ではなかった。
その場に和希がいたら、やきもきして困った事になっていただろう。
ツンと顔を反らしていいる和希が可愛らしくて松岡はそっとほくそ笑んだ。
和希の頬にソッとキスをすると、和希は驚いて松岡を見つめた。
「確かに何人かの生徒には告白されたけれども、皆丁寧にお断りしたよ。だって私にはこんな可愛いお姫様がいるんだからね。」
「なっ…お姫様って…」
「うん?和希は私のお姫様だろう?大切に優しく扱わないとすぐにご機嫌を損ねてしまう。けれどもとても可愛くて素直な私だけのお姫様だ。」
「迅さん…」
「好きだよ、和希。」
松岡はそう言うと今度は唇に触れるだけの優しいキスを落とす。
和希は頬をほんの少し赤らめながら、
「俺も…迅さんが…好き…大好きです…」
「嬉しいよ。これからも私の側にいてずっとそう言ってくれるかい?」
「迅さんがそう望んでくれるなら…」
「いつまでもずっとこうしていようね。」
松岡はそう言うと和希を優しくベットに押し倒しながら嬉しそうに微笑んだ。
〜初めての…〜《石塚×和希》 (2009年4月に載せていた拍手ssです)
サーバー棟の近くの桜の木の下に和希は1人立っていた。
ここの桜の木は目立たない所にあり、生徒はもちろん、サーバー棟や研究所に勤めている人でも知っている人は殆どいないだろう。
そんな桜の木を和希は数年前に偶々見つけたのであった。
誰も来ない場所にひっそりと植えられている桜は、当時ここに来て孤独と戦っていた和希にとっては心の安らぎの場所になった。
辛い事や悔しい事があった時はこの桜の木にいつも聞いてもらっていた。
そして忘れられない思い出となったあの日。
あの日も和希はここに来ていた…
いつものように桜の木の幹に触ってそっと話かけていた和希の耳に“ガサッ”という音が聞こえた。
和希は音がする方に振り向くと、そこには秘書の石塚がいた。
いつも、和希をフォローしてくれる石塚。
でも、それは父親から言われてやっているのだと和希は思っていた。
石塚は父親の大事な秘書の1人だった。
日本に帰って来てここの理事長と研究所の所長をする事になった和希の秘書になる為に父親の秘書から外れたと聞いていた。
父親が一目置くほど優秀で大切な存在の石塚。
どんな気持ちで父親の秘書から外れて和希の秘書になったのだろう。
石塚の気持ちを考えると和希は辛い気持ちになった。
和希の秘書をしている為に久我沼達に嫌みを言われなくてはならない。
嫌がらせだってされているのに、それを気にもとめないで和希に尽くしてくれている。
本来なら、父親の元でもっと充実した秘書生活を送れていたはずなのに…
自分の為にどれ程嫌な思いを抱えて仕事をしているのだろう。
そう思うと和希は石塚に対して申し訳ない思いでいっぱいだった。
「和希様?」
石塚は不思議そうに言った。
「どうしてこちらに?」
「それは私の台詞だろう?ここは滅多に人が来ないので、私のお気に入りの場所なんだ。」
和希がそう言うと石塚は驚いた顔をした。
「和希様もですか?私もここが気に入っていてよく1人で来るんです。」
「えっ?」
「でも、今までお会いした事はありませんでしたね。」
優しく微笑む石塚に和希は複雑な思いを抱いていた。
石塚も同じように辛い事を紛らわす為にここに来たのだろうか?
俺の側にいるのが嫌でここに気分転換に来てたのだろうか?
やはり父親の側に戻りたいのだろうか?
黙ってしまった和希に、
「和希様はここの桜の木がお好きですか?」
「ああ…」
「私も好きです。先代の理事長もお好きだったと伺ってます。」
「おじい様も?」
「はい。」
「和希様…」
「何?」
石塚はジッと和希を見た後、徐に言った。
「私は和希様の秘書です。」
「?」
何を今更?という目で和希は石塚を見た。
「ですので、もっと私を信頼して下さい。そしてもっと頼って下さい。」
「私は…」
「いつまでそうやって壁を作っていらっしゃるのですか?」
「石塚…」
「私は和希様が好きです。」
そう言って石塚は和希の側に来ると、そっと唇に触れた。
何があったか分からなかった和希。
「和希様にとってはご迷惑だと思ってます。けれども、こういう意味も含めて私は和希様が好きなんです。」
「えっと…」
和希は返答に困ってしまった。
石塚からの告白。
何がなんだか分からなかった。
そんな和希に石塚は寂しそうに笑った後、
「そんなに困った顔をしないで下さい。今のは桜の花が見せた幻ですから。」
そう言って去ろうとした石塚の腕を和希は掴んだ。
「和希様?」
驚く石塚に和希は、
「石塚は本当の俺の姿を知らない。理事長でない俺なんてきっとつまらないに決まってる…」
「そうでしょうか?私はそう思いません。」
「でも…」
「試してみますか?私との恋を。」
「石塚…」
「和希様も秘書としての私しか知りません。お互いをさらけ出してみますか?」
和希は嬉しそうに笑うと、
「そうだな。そうしてみようか。お互いが気に入ったなら恋人として付き合ってみよう。」
「かしこまりました。」
「でも、その前に…」
「その前に?」
「“和希様”は止めて“和希”って呼んで欲しい…」
頬を赤らめて言う和希に石塚は嬉しそうに言った。
「分かりました、和希。」
そう言った石塚に和希はふわりと笑った。
その笑顔は和希が日本に来てから初めて見せた綺麗な笑顔だった。
〜お昼寝〜《丹羽×和希+中嶋×啓太》 (2009年5月に載せていた拍手ssです)
暖かい日差しが指す午後の中庭。
今日は土曜日なので、授業は午前中のみだった。
お昼も過ぎたこの時間帯。
部活に励む生徒以外は個々で好きな事をしている時間である。
が…
普段仕事をサボってばかりいる丹羽にとっては土曜も日曜も関係がない。
中嶋に見つかれば、即学生会室に連行だった。
そして今日も上手く逃げたつもりだったのだが、中嶋に捕まった丹羽は渋々と中嶋と共に学生会室に向かって歩いていた。
「なぁヒデ、今日は良い天気だよな。」
「ああ。」
「暑い位だよな。」
「ああ。」
「こんな日に学生会室に籠もって仕事をするってもったいなくねえか?」
「ああ。」
「なら、今日は仕事しなくていいか?」
「何を勝手な事を言っている。貴様が普段真面目に仕事をしないからいけないのだろう。」
「でもよぅ…」
「ウダウダ言わずにさっさと来い。」
そう言い切って歩いていた中嶋の足が急に止まった。
「ヒデ?」
急に中嶋が立ち止まったので丹羽は不思議そうな顔で中嶋を見た。
が…
中嶋は眉間に皺を寄せて不機嫌そうにしている。
丹羽は焦った。
もしかしてさっきの会話で中嶋を本気で怒らせてしまったのだろうか?
しかし、今の会話はどう考えてもいつもの会話だ。
それ程中嶋の機嫌を損ねる訳がない。
なら、どうして…
丹羽がそう思った時、丹羽の耳に中嶋の低い声が聞こえた。
「何を考えてるんだ…」
「へっ?」
丹羽は慌てて中嶋を見るが、中嶋は丹羽など見ておらず、ある所を見ていた。
丹羽は中嶋の視線の先を追うと驚いて言った。
「何でこんな所で無防備に寝てるんだ?」
丹羽が見たのは木陰で昼寝をしている和希と啓太の姿だった。
お互いに寄り添って眠っている姿はとても可愛らしい。
だが、問題はそこではなかった。
啓太は和希の腕を枕にして寝ていたのである。
いわゆる腕枕である。
和希の腕枕なんて丹羽だってしてもらった事がない。
恋人の自分にすらしない事を和希は啓太にしていたのである。
和希の啓太好きは丹羽だって分かっていたが、これはどうしても許せなかった。
「どうして恋人の俺にしない腕枕を啓太になんかしているんだよ。啓太にするくらいなら俺にもしてくれよ。」
「まったく…こんな所で昼寝などして丹羽の癖が移ったのか?」
「信じられねぇよ。誰かに襲われでもしたらどうするんだよ。」
「これはお仕置きだな。」
「ああ…」
「丹羽、今日は1人で仕事をしろ。」
「へっ?いや…俺も用事が…」
「俺は急用ができたんだ。お前がいつも真面目に仕事をしてたらこんな事にはならなかったんだからな。」
「だからってよう…」
「分かったか、哲っちゃん。」
「…はい…」
中嶋の凄んだ目に丹羽は敵う事も出来ずに、渋々と学生会室に向かって行った。
啓太は中嶋に無理矢理起こされ、中嶋の部屋で翌朝までお仕置きされる事になった。
そして和希は何も知らずに夕方まで1人で昼寝をしていた。
〜知りたい事がいっぱい〜《啓太×和希》 (2009年6月に載せていた拍手ssです)
「ねえ、和希。和希って小さい頃…」
またか…
今日はいったい誰にその話を聞いたんだろう…
和希はそう思ってため息を付いた。
啓太と恋人になって数ヶ月。
幸せな日々を過ごしている和希だったが、1つだけ困った事があった。
それは…
啓太が意外と嫉妬深いって事。
最初はそれ程気になっていなかったが、和希の付き合いを気にする所があった。
それは別に構わなかった。
なぜなら、どういう関係かきちんと説明すれば納得してくれていたから。
しかし…
和希の昔の事を知っている人物に啓太は嫉妬を感じていた。
和希の昔の事を知っている人物はそう多くはない。
松岡と竜也くらいだ。
後は石塚が留学中の和希を少しだけ知っているみたいだ。
その3人に啓太は昔の和希の話を聞いてくる。
松岡は保険医なので仕方ないとして、どうして竜也と親しくなったんだろうと和希は思っていた。
王様と一緒にいる時に親しくなったそうだ。
竜也は啓太の『親友の和希の子供時代を知りたい』という疑問に容易く答えているようだった。
そんな訳で今日も啓太は誰からか聞いてきた和希の子供時代の話を楽しそうに和希に聞いてくる。
「啓太〜、俺の子供時代の話なんておもしろくもないだろう?」
「えっ?そんな事ないよ。今こんなに格好いい和希も意外と可愛らしい時代もあったんだなって分かって、俺楽しいよ。」
「可愛らしいって…」
嬉しそうに言う啓太に和希はボソッと言った。
「アノ時に散々可愛いって言う癖に…」
和希のその言葉を啓太は聞き逃さなかった。
「和希、やりたいの?だったらはっきりそう言っても構わないのに。ホントに和希ってば照れ屋さんなんだから。」
「なっ…照れ屋さんって何だよ。第一、俺はしたいだなんて一言も言ってないぞ。」
「そうだね。恥ずかしがり屋の和希ははっきりと言わないよね。でも今言ったでしょ。」
「言って無い!」
ムッとして答える和希に啓太はクスッと笑いながら、そっと触れるだけのキスをした。
真っ赤になる和希に、
「やっぱり、和希って可愛い。」
「俺は可愛くなんてない!!」
「ううん。絶対に可愛いよ…俺だけの和希なんだから…愛してるよ、和希…」
「啓太…俺も…」
「今からいっぱい和希の事愛してあげるからね。」
そう言って和希をその場に押し倒す啓太。
和希はそんな啓太を見上げながら、
「程々にしてくれよ?明日は授業に出たいから。」
「う〜ん…頑張ってみるけど無理だったらごめんね。」
嬉しそうに微笑む啓太の首に和希は手を絡めながら、
「お手柔らかに頼むよ。」
そう言ってキスをした。