〜成長〜《石塚×和希》    (2010年1月に載せていた拍手ssです)

   珍しくパソコンの画面を眺めているだけの和希に石塚は声を掛けた。
「どうかなさいましたか?和希様。パソコンの調子が悪いのですか?」
「いや、違う。もうそろそろセンター試験だろう。生徒の進路希望が気になって見ていたんだ。」
「今年ももうそんな時期になってしまいましたね。今回の生徒の進路は今まで以上に気になるのではありませんか?」
「石塚?」
不思議そうな顔をする和希に石塚は微笑みながら、
「今までは理事長の目でしか生徒を見ていませんでしたが、今年は1年生の遠藤和希として3年生を見ていましたから、例年と違って思い入れが多いと思ったんです。」

石塚の言葉にハッとした和希は嬉しそうに答えた。
「さすがだな、石塚。実はどうしてこんなに気になるのか不思議だったんだ。そうだよな。今までと違って直接生徒に触れていた分、彼らへの思いが今までの生徒とは違っていたんだな。」
「特に今年の3年生は個性豊かな生徒が多かったみたいですね。」
「石塚の言う通り、今年の3年生は王様に中嶋さん、篠宮さんや岩井さん等、個性豊かな生徒達ばかりだったからな。ある意味大変な思いもさせられた。でも、彼らがいてくれたおかげでこの学園大きくは変わったと思っているんだ。だから、卒業が惜しい位だよ。」
寂しそうに、でも誇らしげに語る和希。
「自慢の生徒達ですね。」
「ああ。自慢の生徒で、頼もしい先輩達だった。彼らの未来に幸多い事を願っているよ。」

石塚は嬉しそうに和希を見つめていた。
その視線に気が付いた和希は、
「私は何か変な事を言ったのかな?」
「いいえ。この1年で理事長として更に成長したと思いました。」
「それは褒め言葉と思っていいのかな?」
「もちろんですよ、和希様。」
「石塚にそう言ってもらえると嬉しいな。」

そう言った和希の顔は理事長の顔から石塚の恋人である和希の顔に変わっていた。
「俺が成長できたとしたら、それは祐輔が支えてくれたからだ。ありがとう、祐輔。」
「和希様。」
「もう、仕事は終わりだ。和希でいい。」
「分かりました。」
「今日は外泊届けを出して来たんだ。俺のマンションに来てくれる?」
「いいですよ。新年で忙しくてなかなかゆっくりと過ごせませんでしたからね。今夜はじっくりと可愛がってあげますから覚悟して下さいね。」
「それは素直に喜んでもいいのかな?でも、明日も学校に行きたいからお手柔らかに頼むよ。」
「さあ、それは和希次第だと思います。」
「うっ…祐輔の意地悪…」

拗ねた顔を和希を見て石塚は、
「さあ、早く帰りましょうか?マンションに戻る前にスーパーで今夜の買い物をしましょうね。和希は何が食べたいですか?」
「ハンバーグがいい!祐輔のハンバーグは学食のハンバーグよりも美味しいから好きなんだ。」
「お褒め頂いて光栄です。では今夜はハンバーグにしましょうね。」
「うん。」
和希は石塚の腕に手を絡ませると嬉しそうに理事長室を後にした。






〜思い出と共に〜《西園寺×和希》   (2010年2月に載せていた拍手ssです)

  自分をジッと目詰める視線に気が付いた和希は持っていたティーカップを机に上に置きながら、
「俺の顔に何かついていますか?」
「いや、別に。」
「そうですか…なら、なんでそんなにジッと俺の事を見るんですか?」
「…」
暫くの沈黙の後に、
「私はそんなにもお前を見ていたのか?」
「はい。何かあったんですか?」
「そうか…」

いつもと違いはっきりとしない西園寺に、
「何かあったんですか?それとも具合が悪いとか?」
「そうじゃない。お前の制服姿を見ていたんだ。」
「俺の制服姿を?やっぱりおかしいですか?童顔なのでどうにか誤魔化せると思ったんだけど、やっぱり無理がありますか?」
「いや…あまりにしっくりとしているので悩んでいた所だ。」
「はい?それって褒めているんですか?けなしているんですか?」
「褒めているに決まっているだろう。」
「…ありがとうございます…」

和希は困惑した顔で言った。
急にどうしたんだろう?
西園寺さんって時々妙な事を言う人だからな。
こういう時は何て言えばいいのだろう。

和希が考え込んでいると、
「2年前、初めて会った時はこんな風に話せるようになるとは思わなかった。」
「俺もです。あまりいい出会い出ではありませんでしたからね。」
「そうだな。私もまだ若かったからとんでもない事をしたもんだ。」
「そうですね。俺もまさかあんな事を中学生がするとは思いませんでしたよ。でも…西園寺さん達がしてくれたから俺は貴方に会えたんです。あの行為も俺達が出会うのに必要な出来事だと今では思っています。」
懐かしそうに、そして嬉しそうに言う和希。

「フッ…そうだな。だが、お前の理屈で言うと学生として私の後輩になるのも必要な出来事になるな。」
「そうですよ。後輩としてこうして貴方の傍にいる事ができたから西園寺さんと恋人になれたんです…きっと定められた運命だったんですよ。」
「ロマンチストなんだな。」
「あれ?知りませんでしたか?」
「ああ。今知ったな。」
「そうですか。なら覚えといて下さいね。」
「分かった。」

西園寺は自分の紅茶を飲みながら、
「紅茶が冷めてしまったな。次の紅茶は寮の私の部屋で飲まないか?」
「はい。俺が美味しい紅茶を入れますので楽しみにしていて下さいね。」
和希は微笑んで答えた。






〜木漏れ日の中で〜《岩井×和希》   (2010年3月に載せていた拍手ssです)

   「こんな天気なのに、誘ってしまって悪かった。」
「大丈夫ですよ、岩井さん。」
申し訳なさそうに言う岩井に和希はにこやかに微笑んだ。

今日は前から2人で出掛ける予定だったのだが、朝起きてみると外には雪が降っていた。
雪は結構積もってはいたが、雪はぱらつく程度だったので予定通りに出掛けたのだった。
しかし、今日の目的の美術館は駅から歩いて30分程掛かる所にあった。
普段歩き慣れていない雪の中を歩くのは思った以上に時間と体力を取られたのだった。

「どこかで一休みでもしましょうか?」
和希は心配そうに岩井を見ながら言った。
体力が余りない岩井にとってはこの雪の中を歩くのはきついと思ったからだ。
「そうだな。構わないだろうか。」
「はい。それじゃ、そこのコーヒー店でいいですか?」
「ああ。」

1時間程経って店を出た時、雪は止んでいた。
「良かったです。お日様も出てきたのですぐに雪も溶けて歩きやすくなりますね。」
にこやかに微笑む和希を岩井は眩しそうに見ていた。
それに気が付いた和希は不思議そうな顔をしながら、
「どうかしたんですか?岩井さん。」
「いや…」

岩井は言葉を濁したが自分をじっと見つめる和希に観念したように言った。
「雪の輝きを受けて微笑む笑顔がとても綺麗だと思ったんだ。」
「岩井さん…」
頬をほんのり染めて俯く和希に、
「今日はもう帰ろう。」
「えっ?でも美術館は?」
「今、無性に和希を描きたいんだ。早く寮に帰ろう。」
そう言うと、岩井は和希の手を掴むみ駅へと向かって歩き出した。






〜思い出のお花見〜《竜也×和希》   (2010年4月に載せていた拍手ssです)

    ホテルのラウンジでコーヒーを飲みながらふと、窓の外を見た和希は嬉しそうに言った。
「竜也さん、桜が咲いていますよ。」
「ああ、本当だな。」
「綺麗ですね。桜って言うと竜也さんと一緒にお花見をした事を思い出します。」
「留学中の時の事か?」
「はい。俺、あの時初めてお花見をしたので印象に残っているんです。」

嬉しそうに言う和希に、
「坊っちゃんが花見をした事がないって言ってたからな。」
「はい。でも、竜也さんには驚きましたけどね。あの時は俺まだ未成年だったのにお酒を勧めるんですから。」
クスクスと笑いながら言う和希に、
「何言ってるんだ。花見と言えば酒がついて当たり前だろう。」
「それはそうかもしれませんけど、何も俺にまで飲ませる事なかったんじゃないんですか?俺、翌日酷い二日酔いで苦しかったのを今だに覚えているんですよ。」
「そうだったな。翌朝俺に『竜也さん、頭痛くて気持ち悪いんですけど』って泣きそうな顔で言ってたな。」

竜也は楽しそうに笑いながら言った。
そんな竜也を見て和希は頬を膨らませながら、
「もう、笑い事じゃありません。あれ以来俺お花見が怖くなったんですからね。啓太に花見を誘われた時も断った位トラウマになっていたんですよ。」
「でも、坊っちゃんの生徒達と花見をしたんだろう?」
「しましたよ。啓太に断った理由を聞かれたので、その訳を言ったら『何それ?』って言われて散々笑われましたけどね。」

「楽しかったからそれで良かったんじゃねえのか。」
「もう、竜也さんってば。俺、恥ずかしかったんですからね。」
「坊っちゃんは本当に素直過ぎるからな。何年も前の話を今だに信じているんだからな。」
「だって…竜也さんは間違った事を言わないから。わざわざ本当かどうかなんて人に聞かなかっただけです。」
拗ねた顔をした和希の頭をクシャッと撫でながら、
「悪かった。さあ、もう機嫌を直した方がいいぞ。これから仕事だろう。」

和希は腕時計を見ると、
「そうですね。竜也さん、今日の護衛よろしくお願いします。」
「ああ、俺が側についているから安心して仕事をしてこい。」
「はい。」
仕事の顔に戻った和希は静かに立ち上がって歩き出したのだった。







〜星空を見つめて〜《啓太+和希》  (2010年5月に載せていた拍手ssです)

「和希、おかえり!」
「啓太?」
和希は驚いた顔をして啓太を見つめた。
そんな和希の顔を見て啓太は苦笑いをする。
「そんなに驚かなくてもいいじゃないか。」
「ああ、悪い。けど、今何時だと思っているんだ?こんな時間に外にいたら篠宮さんに怒られるぞ。」
「それを言うなら和希もだろう?こんな深夜に寮に帰って来るんだから。」
「それは…ちょっと仕事が終わらなくて。気付いたらこの時間になっていたんだ。」
「遅くまでお仕事ご苦労様。」
「ありがとう、啓太。」
和希は嬉しそうに笑う。
啓太の笑顔と労いの言葉をもらったらどんなに疲れていても疲れなど吹き飛んでしまう。

「で…どうして啓太はこんな時間に外にいるんだ?」
「何か眠れなくてさ。気分転換に外に出てみたんだ。そうしたら気持ちいい風が吹いているし、お月様は綺麗だろう。思わず見とれていたんだ。そうしたら、和希がちょうど帰ってきたんだ。」
「そうだったんだ。」
和希はそう言うと空を見上げた。
今日は雲もなく、月も星も綺麗に輝いていた。
「本当だ。綺麗だな。」
「和希もそう思う?」
「ああ。学園島から見る夜空がこんなに綺麗だなんて思わなかったな。」
和希は改めて夜空を見つめた。
4年もここにいたが、じっくりと夜空を見上げた事などなかったからだ。
本当に美しい…和希はそう思っていた。
2人して黙ったまま暫く夜空を見つめていた。

「そろそろ寮に戻ろうか、啓太。春とはいえ、まだ夜は冷えるからな。」
「うん、そうだね。」
寮に向かって歩きながら、
「啓太、こんな時間まで起きていて明日の朝、ちゃんと起きられるのか?」
「大丈夫だよ。あっ…でも、ちょっと不安かな。和希、明日の朝はいつもより5分早く起こしに来てくれる?」
「ああ。でも、5分で大丈夫か?」
「う〜ん。やっぱり10分にしよう。」
「分かった。それじゃまた後でな。おやすみ、啓太。」
「おやすみ、和希。」
寮の部屋の前で就寝のあいさつをしてそれぞれの部屋に入っていた和希と啓太でした。






〜無茶はしないでね〜《松岡×和希》   (2010年6月に載せていた拍手ssです)


「ここは?」
目を覚ました和希がそう呟くと、側に座っていた松岡がホッとした顔をした。
「目が覚めたんだね、和希。」
「松岡先生?それじゃここは保健室ですか?」
「ああ、そうだよ。」
そう言った後、和希の顔を覗き込み、
「うん、顔色はここに運び込まれた時よりずっといい。もう気分は悪くないだろう?」
「はい。」
「和希、君はどうしてここにいるのか分かるかい?」
「えっと…」
和希は少し考え込んだ後、
「そういえば、体育の授業中に気分が悪くなって…」
「覚えているなら安心だ。和希は体育の授業中に貧血を起こして倒れたんだ。」
「…ご迷惑をお掛けして申し訳ありません…」

俯きながら言う和希の頬を松岡の手が優しく触れる。
「迷惑だなんて思った事はないよ。ただ、心配はしたけれどね。」
「ごめんなさい、松岡先生。」
「謝る位なら無理はしないで欲しいな。それにもう夜だから校舎には誰も残っていない。“松岡先生”でなくいつものように呼んで欲しい。」
「迅さん…」
顔をほんのり紅く染めながら、
「こんな遅くまで学園に残してしまって、すみません。」
「だから、謝らないで欲しいと言っただろう。どうして和希はそう他人行儀なんだろうね。」
ため息を付きながら言う松岡。
和希は困った顔をしながら、
「だって、俺あれ程迅さんに体調の管理をちゃんとしろって言われてたのに、つい忙しくて迅さんとの約束を破ってしまったから。」
「ふ〜ん、何を破ったか教えてくれるかい?」
意地悪く聞く松岡に、
「どんなに忙しくても、睡眠と食事は取るようにって言われてたのに…俺、忙しくて殆ど寝てなかったし、食事も時間が勿体ないって思って1日1食だけだったりしてたから。」
目を反らしながら申し訳なさそうに言う和希。

学生と理事長職をこなすのは簡単な事ではない。
それでも、大好きな啓太との時間を大切にしたいからと和希は学生を続けている。
その事に不満はない。
啓太と過ごす時間は和希に安らぎを与えているのを松岡は知っているからだ。
そして“鈴菱和希”ではけして味わえなかった普通の学生生活を送れる幸せも知っている。
だから学生を辞めろとは言うつもりはない。
けれども…
今回のような無茶な生活はしてもらいたくないと思っている。
「迅さん、怒ってる?」
黙り込んでしまった松岡を困った顔で見つめる和希。
「ああ。怒っている。」
「う゛…」
どうしようかと困った顔をしている和希の髪の毛を松岡はクシャとする。
「和希が忙しいのはよく分かっている。だが、調子が悪くなりそうな時は言って欲しい。医者が恋人なのに何かある度に倒れられたのでは落ち込んでしまうからな。」
「…迅さん…」
和希はギュッと松岡に抱きつくと、
「いつも迅さんに心配ばかりかけてごめんなさい。これからは無理のない生活を送るよう努力しますね。」
「そうしてくれ。そうでないと安心して和希を抱けないからな。」
「もう…迅さんてば…」
耳まで赤くしながら嬉しそうに微笑む和希。
「なら…迅さんも手加減してくれますか?」
上目遣いでお願い事をする和希を見て、松岡はニヤッと笑うと、
「それは無理な相談だな。」
和希の唇を自分のソレで塞ぎながら、和希をベットに沈める松岡だった。