Stroll

「お寒くはありませんか?和希様。」
和希の上着を持ちながら石塚は和希に尋ねる。
そんな石塚に和希は微笑みながら、
「うん、大丈夫。気持ち良いくらいだよ。」
「そうですか?なら良かった。」
そう言った石塚に和希は少し頬を膨らませながら、
「裕輔。2人きりの時は“様”は止めろっていつも言ってるだろう?」
「はい。和希。」
石塚に名前を呼ばれ、ほんの少しだけ和希の頬は赤く染まる。
今和希は仕事で京都に来ていた。
一応今日の仕事は終わり、この後取引先と食事があるのだが30程時間が空いてしまったので、すぐ側の川沿いを石塚と散歩をしていたのである。
今日は8月にしては少しだけ肌寒かったが、和希は気持ちが良いと言って上着を脱ぎ、シャツ1枚で歩いていた。
でも、夜なので石塚は和希の体調を心配したのだが和希は大丈夫だといい、気持ちよさそうに歩いていた。


「あれ?」 「どうかしましたか?和希?」
「うん…ねえ裕輔、あのかがり火って何?」
和希は指差す方向を石塚は見ると、確かに川に浮かぶ船にかがり火が灯っている。
「ああ、あれは鵜飼いですね。」
「鵜飼い?あの鳥が魚を食べるのを見るっていう?」
「そうですよ。和希は鵜飼いは見た事は無いのですか?」
「うん。話は聞いて知ってたけどね。」
「そうですか。見学者はああして船に乗って鵜飼いを見るのですよ。和希も興味があるのでしたら今度一緒に見に行きますか?」
「うん。鈴菱としてでは無いのだったら行きたいな。」
「大丈夫ですよ。プライベートでの外出ですからね。」
和希は嬉しそうに笑う。


忙しい和希にとってプライベートの時間を作るのは難しい。
けれども、この優秀な秘書に任せていればきっと時間を作ってくれるだろう。
だたし、その時間を作る為には結構きついスケジュールになるのだが。
でも、和希はそれでも構わなかった。
大好きな恋人との時間を作る為だったら、どんなきついスケジュールだろうともこなしてみせる自信があった。
今だって仕事の合間に30分も時間を作ってくれたのだから。
和希は川沿いに立って鵜飼いの様子を興味深そうに見ていた。
時々、船の中から歓声が上がる。
そんな様子を和希は楽しそうに見つめている。
「面白いですか?」 「うん。外から見るのも面白いなって思ってさ。だって今度は裕輔と船に乗ってみるんだろう。周りから見るのと船に乗って見るのとでは違うんだろうなって思って見てたんだ。」
「貴方って方は…」
石塚は嬉しそうに微笑む。
石塚を喜ばせる事を和希は無意識に言っている。
今回もそうだった。


石塚は時計を見ると、名残惜しそうに和希に言った。
「和希様、そろそろ会食のお時間です。」
「もう?」
和希は寂しそうに微笑むがその顔はもう仕事の顔に切り替わっていた。
和希は石塚から上着を受け取ると、
「それじゃ、行くぞ石塚。」
そう言うと止めた車の所まで歩き出しが、一瞬止まると石塚の方を向き触れるだけのキスをそっと唇に落とす。
「和希…」
驚く石塚に和希は赤くなった顔を隠すように前を向いて歩き出した。




一昨日京都で初めて鵜飼いを見ました。
凄く面白かっです。
その時、思いついた話がこれでした(笑)
和希と石塚さんの川沿いを歩くデート♪
きっと素敵だと思ってます。
            2008年8月27日