SULK

「和希!大丈夫か?」
保健室のドアを勢いよく開けながら丹羽は中に入ってきた。
「お…王様?」
「丹羽君、ここは保健室だよ。もう少し静かに入ってくれないかな?」
ベットに座っている和希は驚いて丹羽を見つめ、松岡は呆れ顔で丹羽を見ていた。
「悪い、松岡先生。和希お前ケガは?具合はどうなんだ?」
「えっ?どうして俺のケガの事、王様が知っているんですか?」
「さっき、成瀬から聞いたんだ。」
先程、和希がクラスメートに支えられながら保健室に来た時入れ違いに出て行った成瀬。
でも学年も違うのにどうやって聞いたんだろう…そう思いながら、
「心配しないで下さいね、王様。捻挫ですから。」
「捻挫?ったく、心配かけさせるなよ。寿命が縮まったぞ。」
余程安心したのか、側のベットにドカッと座る丹羽。
そんな丹羽を見て、和希は嬉しくなってしまう。
「いったい、どんな風に聞いてきたんですか?」
「真っ青な顔してクラスメート2名に支えられて来たって聞いたぜ。」
「確かにそのとうりだけど…そんなに顔色悪かったかな?」
「いつもあんまり良くないな。」
「迅さん。」
ハーブティを入れたコップを丹羽に渡しながら松岡は言う。
「万年、寝不足、栄養不足。和希、ここは睡眠を取る所でも栄養剤を渡す所でもないんだけどね。」

「栄養剤?」
丹羽は怪訝そうな声を出す。
おやおや、と言う顔をして松岡は丹羽に言う。
「何だ、丹羽君は知らないのかい?和希は忙しくなると睡眠も食事も取らなくなるんだ。それで倒れる寸前に栄養剤の点滴を打ちにここに来るんだよ。」
「迅さん!!」
「何だい?和希。」
「その話、王様にはしないで下さいって頼んだじゃありませんか。」
「おや、そうだったっけ?」
シラッと答える松岡に和希は頬を膨らませて抗議する。
「頼みましたよ。王様が心配するから、内緒にして下さいって俺言いましたよ。」
「ああ、そんな話聞いた気もするな。」
「もう、迅さんってば。」
松岡は笑いながら、和希の髪の毛をクシャクシャにかき回しながら言う。
「悪かったよ、和希。」
「この手、退けて下さいね。いつまで経っても子供扱いするんだから。」
「おや?子供じゃないのかい?今の和希は16歳なんだろう。それとも本来の…」
「わー!!!」
和希は大声を出す。
「もういいです。まったく迅さんにはかなわないや。」
はにかむ様に松岡に笑う和希を見て、丹羽は少しイラついた。
和希にとって、松岡は子供の時から知っている大切な人。
だから、もの凄く気を許す。
それは解る、解っているつもりだ。
ただ…その気の許し方が問題だと丹羽は思う。
恋人である丹羽よりも気を許しているのは面白くなかった。
「王様?どうしたんですか?」
心配そうに、和希が声をかける。
ただ今はその一言さえも気にかかる。
アイツは“迅さん”、俺は“王様”。
和希はあの時言った。
「人前では“王様”って呼びます。」…と。
なのに、人前でもアイツは“迅さん”なのか?
“松岡先生”って呼べばいいじゃねえか。
何も答えない丹羽を見て和希は座っていたベットから降りて、丹羽の方へ行こうとしたが足に痛みが走りバランスを崩す。
「危ねえ。」
慌てて丹羽は和希を支える。
丹羽に抱き締めて貰って、頬を少しだけ赤く染めながら、
「あ…ありがとうございます、王様。」
「ったく、捻挫してるんだろう。無理に歩くなよ。」
「だって王様が何も言ってくれないから気になって。俺、何か王様の気に障る事しましたか?」
下から覗き込む様に不安そうな顔で聞いてくる和希。
和希のこんな顔は見たくない。
俺の前ではいつも笑っていて欲しいのに、気付くと時々もの凄く不安そうな顔をする。
そうさせているのは自分だと解ってる。
みっともない嫉妬心。
何も言わない丹羽を見て、和希の目に涙が溜まってくる。
和希は支えてくれている丹羽をそっと押す。
ハッと気付く丹羽。
「和希?」
和希はそのままベットに座ると俯き、丹羽を見ずに言う。
「王様、もう教室に戻った方がいいですよ。」
「和希?」
「授業始まってます。」
「お前はどうするんだ?」
「もう少しここで休んでから授業に出ます。」
「一人じゃ、教室に行くのは無理だろう?」
「平気です。」
「そんな訳ないだろう?さっきだって転びそうだったじゃねえか。」
「大丈夫です。」
「無理するな。俺が一緒に連れて行ってやる。」
「…です。」
「えっ?」
「いいです。一人で行きます。」
「何でそんな事言うんだよ。」
「だって王様、迷惑そうな顔してるじゃないですか!」
そう叫んで丹羽の方を見た和希の目からは涙がポロポロ溢れていた。
「さっき、俺に何にも言わなかったのに…無理してここにいなくてもいいんですよ。」
溢れる涙を拭おうともせずに和希は言う。
「迷惑なら迷惑って言って下さい。俺、そういうのよく解らないからはっきりと言って貰わないと解らないんです。」
「ちげーよ。迷惑だなんてこれっぽっちも思ってねえよ。」
「だって…」
丹羽は和希の側に寄ると和希の涙を拭う。
和希の頬に触れながら、
「悪い。やきもちやいた。」
「やきもち?」
「和希が松岡先生と楽しそうに話してるからよう。」
「迅さんと?俺は別に…」
「解ってる。お前は悪くない。」
「哲也…」
「コホン!!」
松岡は咳払いを一つする。
「はいはい。その続きは寮でしなさい。」
「迅さん。」
「松岡先生。」
「和希は捻挫と体調不良の為に早退、丹羽君は食べ過ぎで腹痛の為に早退、それぞれの担任には私からそう伝えておこう。」
そう言うと、松岡は和希の頭をポンと叩く。
「今日は丹羽君とゆっくり過ごしなさい。偶には心の休息も必要だよ。」
「迅さん…」
和希は真っ赤な顔になっていた。
松岡は丹羽の側まで来ると耳元で小声で言う。
「あんまり和希を不安にさせるんじゃないよ。和希は心から丹羽君の事を愛しているんだから。」
「ま…松岡先生。」
「それから和希を可愛がるのも程々にしなさいね。学生と理事長とのかけもちは見かけよりもハードなんだからね。君ほど和希は体力がないんだから。」
松岡は丹羽の肩をポンと叩く。
「和希。寮に帰るか?」
「えっ?王様は授業に出て下さいよ。」
「折角松岡先生が気を使ってくれたんだぜ。お言葉に甘えようぜ。」
そう言うと丹羽は和希を腕に抱き抱える。
「お…王様…やだ…恥ずかしい…降ろしてください。」
「駄目だ!お前ちゃんと歩けないだろう。」
「大丈夫です!」
そんな二人を見て、松岡はクスクスと笑いながら、
「和希、怪我人は大人しくした方がいいよ。」
「もう…迅さんまで。」
「じゃ、丹羽君和希を頼むよ。」
「はい。松岡先生、まかしといて下さい。」
和希を抱きかかえて保健室を出る丹羽を見ながら、松岡はため息を吐いた。
「まったく、少しは人の目を気にしてイチャついて欲しいものだな。」




王様の嫉妬の話でした。
もう王様ってば、こんなに和希に愛されているのに和希の愛を疑うなんて悪い子!!
王様が嫉妬する相手を誰にしようか結構悩んだんですが、アニメを見てやっぱり迅さんしかいないなぁと思い、この様になりました。
迅さんじゃありませんが、もう少し人の目を気にして下さいね、和希と王様。