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七夕のお天気

「あ〜あ、毎日雨で嫌になるぜ。」
学生会室の会長席に座っていた丹羽は頭を机の上に付きながら言った。
そんな丹羽を見て、和希はクスッと笑うと、
「偶には真面目に仕事をしろって事じゃないんですか?」
「おいおい、その言い方だとサボってばかりに聞こえるじゃねえか。俺だってやる時はやってるぜ。けどよう、こう何日も学生会室に閉じ込められたらせっかくのやる気も失せるってものだろう?」
「やる気ねえ…」
和希は苦笑いをする。
梅雨に入り、この数日は雨が降り続いていた。
その為、丹羽は中嶋に毎日学生会室に連れてこられて仕事をさせられていた。
仕事はかなりたまっていたのでそろそろ片付けなくてはならない時期だった。
それが分かっていたから丹羽も文句を言いながらでもこの数日は真面目に仕事をしていた。
だが、それも3日が限界だったようだ。
4日目の今日は我慢の限界というように、先程学生会室に来てから仕事がちっとも進んでいなかった。
しかし、よく3日も持ったと和希は思っていた。
椅子から立ち上がった和希は、窓辺に行くと窓を開けた。
少し湿った空気が部屋の中に入り込む。
「ずいぶんと小降りになりましたね。この分だともうすく止みそうですね。」
「そうか。別に雨が嫌いってわけじゃねえんだけどな。こう何日も続くとうっとうしくてたまらないぜ。」
「そうですね。哲也の場合は特に身体も鈍るんじゃないんですか?」
「ああ。だけど、そっちは和希が協力してくれれば何とかなるだろう?」
「俺が?」
何の事を言われているのかよく分からなかった和希だった。
不思議そうな顔をする和希に丹羽はニヤッと笑う。
「分からねえのか?」
「はい。」
困った顔をした和希を見て丹羽はほくそえむ。
相変わらず、この手の話には疎い和希。
だが、そんな和希が愛しくてたまらない。
仕事に関しては鋭いのに、恋愛事になると鈍くなる。
そのギャップが丹羽を夢中にさせているのに和希は気づいていない。
このまま思っている事を和希に言ってもいいのだけれども、言えばご機嫌を損ねる事は分かっているので丹羽はその事には触れずに話題を変えた。

「そういえば、今夜は七夕だな。」
「はい。雨が止めばいいですね。」
そう言うと和希は空を見上げる。
その横顔はとても綺麗で儚げで、このままだとどこかに飛んでいってしまいそうな感じがした。
丹羽は席を立ち上がり和希の側に来ると、そっとその細い肩に手を添えた。
「う〜ん、この分だと夜には止みそうだな。」
「よかったです。今晩は年に1度しか会えない織姫と彦星のデートの日ですからね。」
「雨が降ったって会えるだろう?」
「えっ?」
「かささぎの群が飛んできて、天の川で翼と翼を広げて橋となって2人を引き合わせてくれるんだろう。」
「驚いた。哲也、七夕伝説を知ってるんだ。」
目を見開いて驚いている和希を見て、丹羽は頭を掻く。
「あのなぁ…俺を誰だと思っているんだ?これでも学年トップの成績を保ってるんだぜ。」
「そうでしたね。普段の貴方からは想像できないけど。」
クスクス笑いながら、和希は言う。
その笑顔が余りに可愛らしくて丹羽は和希の唇を自分の唇でそっと塞いだ。
途端に真っ赤になる和希。
丹羽を軽く押しながら、
「もう…こんな場所で何するんですか?」
「誰もいないんだぜ。ちょっと位ならいいだろう?」
「駄目です。誰が来るか分からない所では困ります。」
そう言った後、
「そう言えば、ベトナムではかささぎの代りにカラスがその役目を務めるそうですよ。確か、ベトナムでは7月はカラスが飛び立つ月と言われていて、飛び立ったカラスはそのまま銀河まで行き、 2人の為に橋になると言われているそうです。」
「面白いな、それは。」
「ええ。国によって七夕の伝説も色々と違うんですね。」
「そうだな。とりあえず、今晩は月の舟人が2人を引き合わせてくれるから安心だな。」
「はい。素敵な時間を過ごせるといいですね。」
和希はソッと丹羽の手を握ると、小さい声で囁いた。
「俺と哲也のようにね。」

七夕を過ぎてしまいましたが、七夕の話を書いてみました。
ちなみに学生会室には和希と王様しかいない設定になっていますww
今年の七夕は私の地域では曇り空で星は1つも見えませんでした。
でも、この雲のむこうでは幸せそうに微笑んでいる彦星と織姫がいるんだろうな…と想像していました。
王様もしっかり仕事をしないと彦星のように織姫(和希)と引き離されてしまうかもしれませんよ。
えっ?引き離す天帝は誰かですか?
もちろん、天帝は中嶋さんです(帝王ですからねww)
                        2010年7月11日

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