偶には違ったお祝いも

恋人と一緒に2人きりの誕生日祝いも素敵だけれども、BL学園の卒業生なのだからここで後輩にお祝いされるのもきっと素敵なんじゃないかと思ったんだ。
だから、その事を岩井さんと啓太に相談してみたら、2人ともやる気になってくれて今度美術室に来る日にお祝いしようという事になった。
誕生日は鈴菱主催の誕生日しか知らなかった。
そんな俺がここで知りあった大勢の仲間に祝ってもらい、祝う楽しさを教えてもらった。
それは単にお祭り騒ぎが大好きな王様が率先してやった事だけれども、啓太や王様、七条さんのお誕生日祝い、そして自分の誕生日祝いなど、凄く楽しいものだった。
だから、その楽しさを河本さんにも味わってもらいたいと和希は思っていた。

寮の厨房で和希、啓太、岩井、篠宮の姿があった。
「さすが、篠宮さんは上手ですね。」
関心した啓太がそう言った。
「いや、俺もケーキ作りは初めてなんだ。」
「えっ?そうなんですか?それにしては手際がいいですね。」
「そんな事はない。卓人から頼まれて慌てて成瀬から本を借りてきたんだ。」
「それでもすごいですよ。なあ、和希もそう思うだろう?」
「ああ。篠宮さんは本当に料理の才能があるんですね。」
「遠藤。俺を褒めても何も出ないぞ。それよりも、もう少し無断外泊、無断外出をやめたらどうだ。」
篠宮に注意され、和希は困った顔で答えた。
「すみません。なるべく早く帰ってこようかとは思っているのですが…」
「遠藤が、努力しているのは分かるが、もう少し結果を出さなければな。だいたい…」
「篠宮…これはどうするんだ?」
「ああ、これは…」
岩井は和希に向かってニコリと微笑んだ。
岩井自信もいつも食生活の事で篠宮に注意されているので和希が気の毒になって助けてくれたのだ。
それに気付いた和希はペコリと頭を下げた。

出来上がったケーキは明日食べるので、そのまま冷蔵庫にしまった。
本当はスポンジに生クリームのケーキが良かったのだが、当日は作れないので前日作っても平気なチーズケーキにしたのだった。

そして河本が来る当日…
美術室ではケーキとお菓子と紅茶を用意していた。
ドアがノックされ河本が入ってくると、一斉にクラッカーを鳴らした。
驚く河本に啓太は花束を差し出しながら、
「河本さん、お誕生日おめでとうございます。これは俺達後輩からのプレゼントです。」
河本は驚いた顔をして和希と啓太、岩井の顔を見た。
「河本さん、お祝いに俺達でケーキも焼いたんです。一緒に食べてくれますか?」
和希はそう言って河本を席まで案内した。
河本は椅子に座ると、岩井がケーキの上の蝋燭に火を灯し、3人でHappy Birthdayの歌を歌った。
「河本さん、火を消して下さい。」
岩井に言われ、河本はフッと火を消すと、3人は拍手をした。
河本は嬉しそうに笑いながら、
「ありがとう。まさかこの歳になって誕生日を祝ってもらえるとは思わなかった。しかも母校の後輩にだ。こんなに嬉しい誕生日は初めてだ。本当にありがとう。」
満足そうに微笑みながらそう言った。

ケーキやお菓子を食べながら、話をして楽しく過ごしているとアッという間に時間は経ってしまった。
本来の用件を河本は岩井に告げて帰ろうとしたので、和希が駐車場まで送っていく事になった。
陽が落ちた道を歩きながら、河本は言った。
「今日はとても楽しかった。」
「そうですか。良かったです。後で、その言葉を岩井さんと啓太に伝えておきますね。」
「ああ、そうしてくれ。しかし、こんなに楽しい誕生日祝いは本当に久しぶりだった。」
「喜んでもらえて俺も嬉しいです。」
「しかし…」
河本は足を止めた。
そんな河本をどうしたのだろうかと不思議そうに見つめた和希に、
「もしかしてとは思うが、和希からの誕生日祝いはないのかい?」
「えっ?」
「私は和希からも祝われたいのだが、その予定はないのか聞きたいんだ。」
真剣な眼差しで言う河本に和希はクスッと笑うと、
「俺からの誕生日プレゼントも欲しいんですか?」
「当たり前だろう?恋人から誕生日を祝ってもらえない程、悲しい事はないからね。」
「河本さん…」
和希は潤んだ瞳で河本を見つめた。
自然に触れ合う唇。
それは触れるだけでなく、深く和希を求めていた。
暫くして離された唇。
頬をバラ色に染めた和希は、
「今度の日曜日に仕事を休みにしてあります。2人きりでお祝いさせて下さいね。」
「ああ。その日を楽しみに待っているよ。」
「はい。」
皆で祝うお誕生日も恋人と2人で祝う誕生日も幸せな時を刻む時間だと和希は思っていた。