七夕の夜に

「和希?こんな所で何をしてるんだ?」
学生会の仕事が終わって寮に戻る途中、丹羽はベンチに1人座っていた和希に気が付いた。
急に声を掛けられて一瞬驚いた顔をした和希だったが、声を掛けた相手が丹羽だと分かるとニコッと微笑みながら、
「哲也こそこんな時間にどうしているの?」
「今まで学生会の仕事をしてたんだよ。」
「1人で?」
「ああ。ヒデは用事があるから先に帰ったよ。」
「そう言えば、今日の宿題を中嶋さんにみてもらうんだって啓太が言っていたな。」
「珍しいな。大抵は和希と宿題をやってるだろう?」
「そうなんだけど…今日の宿題は古典なんだ。俺、古典は苦手だから。」
苦笑いをしながら和希は答えた。

「哲也こそこんな遅い時間まで学生会の仕事、ご苦労様。」
「ああ、ありがとな…じゃなくて、お前こんな所に座って何をしてるんだよ。襲われたりしたら大変だろう。」
「誰が誰を襲うんだよ。」
「和希の魅力に捕らわれた馬鹿が和希を襲うに決まってるだろう。」
その言葉を聞いて和希はクスッと笑いながら、
「何、それ?俺に魅力なんてあるわけないじゃないか。」
「…おい、それマジで言ってるのか?」
「うん。」
「…」
「第一俺を襲いたいだなんて思うのは哲也くらいだよ。」
「……」
相変わらず自分の容姿に対して鈍い和希を目の前にして丹羽は頭を抱えたくなった。
そんな丹羽の気持ちを知らない和希は更にとんでもない事を言い出した。
「そんな心配そうな顔をしなくても大丈夫だよ。そんな物好きなんてこの学園にはいないから安心していいよ。」
「…ったく…俺がどれだけ苦労して和希を守っているのかまったく分かってないんだからな。」
呟くようにこぼした言葉は和希には聞こえなかったようだ。

「それよりもここで何をしていたんだ?」
「星空を見てたんだ。」
「星空?」
「そう星空。朝から雨が降っていたから心配してたんだけど、夕方にはやんでホッとしたんだ。今日は七夕だから、雨が降ると織姫と彦星が会えなくなるだろう。1年に1度しか会う機会が与えられていないのに、その日に雨が降ったら会えないなんて悲しいじゃないか。」
「へぇ〜。和希ってロマンチストなんだな。」
「なっ…」
丹羽に言われて、顔を赤くさせる和希。
「だってよう、七夕の話を信じているんだろう。」
「信じちゃいけませんか。どうせ俺は子供っぽいですよ。」
拗ねた顔をして顔を反らす和希を丹羽は嬉しそうに見つめながら、
「子供っぽいなんて思ってないぜ。夢があっていいなとは思うけどな。だから、拗ねるな。そんな風に拗ねると子供っぽいぜ。」
そう丹羽に言われ、膨れていた頬を元に戻す和希。

「もしも…もしも、俺と哲也も織姫や彦星のように1年に1度しか会えないってなったらどうしますか?」
「嫌な質問だな。」
「すみません。でも…どうしても知りたくて…」
「そうだな…」
暫く考えた後、
「1年に1度しか会えないって事にはまずならないな。」
「えっ?」
「そんな事を言い出す奴は例えどんな奴でも俺は叩きのめす。」
「哲也…」
丹羽は和希をギュッと抱き締めると、その耳元でそっと囁いた。
「1年に1度しか和希に会えないなんて俺が堪えられるわけないだろう。」
驚いた顔をした和希だったが、すぐにふわりと笑うと、
「そうですね。俺も1年に1度しか哲也に会えないって事になったら堪えられそうにありません。」
「そうだろう。」
「はい。それじゃ、もしもそんな事をいう人が現れたなら2人で叩きのめしましょうね。」
「ああ。俺達の仲は誰にも離す事ができないからな。」
抱き締めていた手を少し緩めて和希の顎を掴むと、
「好きだぜ、和希。ずっと俺の傍にいてくれよ。」
「はい。哲也も俺の傍にずっといて下さいね。」
お互いの顔を見ながら微笑んだ後、丹羽はその柔らかな唇に自分のソレを重ねるのでした。



今頃ですが、七夕の話です。
「もしも、俺と哲也も織姫や彦星のように1年に1度しか会えないってなったらどうしますか?」の質問の答えを王様に言ってもらいたくて書いた話です。
王様の答えを和希はドキドキしながら待っていたのでしょうね。
そして、思った以上の素敵な答えをもらえてきっと嬉しかったと思います。   
                        2010年7月12日