「なんで…」
それがここに来た時の和希が呟いた言葉だった。
今日は11月19日。
中嶋英明の誕生日だ。
付き合って2度目の誕生日。
去年は学園で王様主催の誕生日会の後、中嶋の部屋で2人きりで誕生日お祝いをした。
恋人になって初めての誕生日。
散々悩んで選んだ誕生日プレゼントは喜んで受け取ってくれた。
その後はいつもと同じ甘い時間を過ごしたのだった。
いや、いつもより濃い時間だったような気がしたのは和希の気のせいかもしれないが。
春に中嶋が卒業をして、思ったよりも時間が合わなくて思うように会えない日々が続いていた。
そんな中、1ヶ月前に中嶋からメールが来たのだった。
内容は至ってシンプルなものだった。
『11月19日は1日開けておけ。朝、7時に学園まで迎えに行く。』
メールを読んだ和希は首を傾げた。
本来なら和希からお願いする事だ。
だって、その日は中嶋の誕生日なのだから。
けれども、そんな事よりも中嶋と1日一緒に過ごせる事が嬉しくて和希は休みを取るために仕事に励んだのだった。
11月19日当日、車で迎えに来た中嶋に連れられてきたのはクリスマスイベント真っ最中のテーマパーク。
駐車場に車を止めた瞬間に和希が言った言葉が「なんで…」だったのだ。
茫然とする和希に中嶋は言った。
「どうした。」
「だ…だって…英明、ここがどこだか知っているんですか?」
「当たり前だ。俺が間違った場所に行くと思うのか。」
「それはそうですけど…」
「けど、なんだ。」
和希は困惑した顔で中嶋を見つめた。
「英明、こういう所は嫌いでしょう?なのにどうして?」
「まあ、あまり好きではないな。だが、和希が一緒なら来るのも悪くない。」
「え?」
驚いた顔をした和希を見て、中嶋はククッと面白そうに笑う。
「本当に飽きない奴だな。だが、そんなお前がいい。」
その言葉を聞いた和希の顔が真っ赤になる。
「お…俺の事、からかっているんですか?」
「そんな事をして、俺になんの利益がある。」
「…ないですね…」
今度は困った顔をする和希を中嶋は嬉しそうに見つめていた。
その優しい視線に気が付いた和希は、
「でも、今日は英明の誕生日なのに…英明の行きたい所に行っていいんですよ。」
「和希はこういう場所が好きだろう。」
「はい。」
「なら、ここがいい。」
「いいんですか?本当に。折角の誕生日なのに。」
「だから、ここがいいんだ。和希の喜ぶ姿を俺に見せろ。それが俺への誕生日プレゼントだ。」
「…英明…」
「さあ、行くぞ。時間が勿体ないだろう。」
「あっ…はい。」
そう言った後、和希は中嶋に触れるだけの可愛いキスを送る。
「お誕生日、おめでとうございます。」
「ああ、ありがとう。」
和希は破顔する。
その笑顔を見た中嶋は心底満足していた。
誕生日に最高の笑顔を見せてくれるのが、1番いい。
中嶋はそう思っていた。
嬉しそうにしている和希は気が付いてはいなかった。
中嶋が和希の笑顔を見るだけで満足するわけがない事を。
たっぷりと遊んだ後はホテルで誕生日祝いだからと言って声が枯れるまで啼かされる事になるとはその時の和希は夢にも思っていなかった。