THE SEA
12月は忙しいのでクリスマスは会えないと言った俺に、それなら早めにクリスマスデートをしようと貴方は言ってくれた。
いつも仕事優先の俺を責める事なく、そう言ってくれたのが凄く嬉しくてその時は涙が出てしまい、貴方を困らせてしまった。
そして今日何とか休みを貰えたので授業が終わった後、2人で街に出かけた。
「ここですか?」
オートバイで着いた所は有名な牛丼のチェーン店。
「おお。今フェアーで3杯牛丼食べると1杯無料になるんだぜ。凄えだろう!」
「はぁ…」
嬉しそうな丹羽に比べ、がっかりとする和希。
そんな和希の様子に気付かずに丹羽は早く入ろうぜ、と和希を店の中に誘った。
和希も何も牛丼屋が嫌なわけではなかった。
今までのデートでも時々は入った事がある。
でも…
今日は少し早いけれども一応クリスマスデートなんだ。
もう少し洒落た店にしてくれたっていいだろうと思ってしまった。
丹羽から夕食は俺がいい店を探して奢ってやるからな…と言われ浮かれていた自分が悲しくなってしまった。
「何だ?和希それしか食べないのか?」
「俺は1杯で十分ですよ。哲也はもっとたくさん食べて下さいね。」
「ああ。しかし相変わらず食が細いな。それしか食べなくて大丈夫なのか?」
「はい。俺はもう十分頂きましたから。」
和希は目の前で3杯目の牛丼を食べている丹羽を見つめていた。
質より量の丹羽だ。
幸せそうに食べている丹羽を見ていると和希まで嬉しくなってしまう。
ここでよかったのかもしれないと…。
お腹いっぱい食べた丹羽は和希と一緒に店を出ると、ヘルメットを和希に渡した。
「今日はゆっくりできるんだろう?」
「はい。明日は午後からでいいんでゆっくりと出来ますよ。」
「そうか、良かった。これから行きたい所があるんだ。少し時間が掛かるが、付き合ってくれるか?」
「いいですよ。どこに行くんですか?」
「着いてからのお楽しみだ。俺の好きな所に連れていってやるからな。」
「哲也の好きな所?」
和希は嬉しくなってしまった。
丹羽の好きな所に連れて行ってくれるだなんて、最高のクリスマスプレゼントだ。
「俺…初めてです。こんな夜の海なんて。」
丹羽が和希を連れて来たのは周りに何もない海だった。
周りに明かりがないので本当に真っ暗で波の音がドーンと響く感じだった。
「ここはあんまり人に知られてなくて、いつ来ても殆ど誰もいないんだ。月と星だけの光で海が照らされて結構綺麗だろう?」
「はい。本当に綺麗ですね。」
嬉しそうに微笑んで答える和希に丹羽は、
「ここに人を連れて来たのは初めてなんだ…」
「えっ…?」
「俺にとってここは秘密の隠れ家みたいな所なんだ。だから誰にも教える気はなかったんだ。」
「なら、どうして?」
丹羽は二カッと笑うと、
「和希には見せたいと思ったんだ。俺と和希の2人きりの秘密の場所にしたかったんだ。」
「…哲也…」
丹羽の顔が和希に近づき、もう少しで唇が触れそうになった時、
「クシュン…」
和希がくしゃみをした。
丹羽は慌てて、
「寒いのか?」
「いいえ、大丈夫です。」
「全く…素直じゃねえな。」
「なっ…」
「ほら、暖めてやるよ。」
丹羽はそう言うと和希をギュッと抱き締めた。
和希は慌てて暴れだし、
「やっ…人に見られるから…」
「こんな所に誰もいねえよ」
「…」
「偶には素直になって俺に甘えろよ。」
「…馬鹿…」
真っ赤な顔で答える和希を丹羽は嬉しそうに見つめていた。
「誰も来ないからここでシテもいいんだぜ。」
「えっ…?」
そう言って丹羽は和希の唇に触れた。
最初は軽く啄ばむように、そして舌を絡める深いキスに変わっていく。
最初は戸惑っていた和希もいつの間にか丹羽の背中に手をまわし、徐々に丹羽の舌に自分の舌を絡めさせていった。
そうしてどれくらいキスをしていたのだろうか?
和希の身体を触り始めた丹羽に、
「嫌だ…こんな所で…」
「…う〜ん…やっぱり駄目か?」
「こんな所に長くいたら風邪を引きますよ?」
「それもそうだな…それじゃ寮に帰るか…」
丹羽はそう言って和希の身体を離した。
名残惜しそうに頭をガシガシ掻きながら歩きだした丹羽に和希はため息を1つついてから、
「明日は午後から仕事があるんです。ちゃんと手加減してくれるんなら、どこかに泊まってもいいですよ?」
「本当か?」
嬉しそうに振り向いた丹羽に、
「はい。今日はクリスマスデートですからね。」
「ああ、約束する。」
「それなら早く行きましょう。」
ふわりと微笑んだ和希の手を丹羽はギュッと握り締めた。
少し早いですが、クリスマスの話を書いてみました。
王様とのクリスマスにはあんまりロマンチックはないかなぁと思い、こんな話になりました。
冬の夜の海辺での2人きりのデート。
和希と王様のキスを見守っていたのはお月様とたくさんの星だったと思います。
これから素敵な夜を過ごして下さいね。
2008年12月8日