Together

『和希、やっぱり来れない?』
「う…ん。多分無理だと思うよ啓太。」
『俺は別に構わないけどさ。王様や篠宮さんガッカリするんじゃないかな?』
「はぁ〜、そうだよな。篠宮さんには散々迷惑掛けたからそのお詫びもかねて行きたかったんだけどな。啓太悪いけど皆に行けないって言っといてくれるか?」
『解った。任せとけよ。それよりも仕事頑張れよ、和希。』
「ああ、ありがとう啓太。」
ピッと携帯を切ると、直ぐにメールを打つ。
“哲也、ごめんなさい。仕事が終わりそうにないので、今夜の篠宮さんのお誕生日会には行けそうにありません。”
それだけ打つと送信をし、携帯をマナーモードにししてから机の引き出しの中に携帯をしまい、和希は机の上の書類に再び目を通し始めた。


明日から学校が始まるので今夜寮に戻って来る生徒もいる。
と言ってもここはベルリバティスクール…部活なので殆どの生徒が3日には寮に帰って来ていた。
ベルリバティスクールの3年生の弓道部元部長で元寮長の篠宮紘司の誕生日は1月1日なので、その誕生日会を今夜しようとお祭り好きな丹羽が計画を立てたのである。
もちろんメンバーはいつもの顔ぶれなのだが、始業式の前日なら和希も仕事が少ないと思ってわざわざこの日にしたのに、結局仕事が終わらず和希は参加できそうになかった。
予定では参加できるはずだったのだが、3日に会った時、久しぶりだったのと和希が竜也と仲良くしてたのが面白くなくてやきもちをやいた丹羽によって散々求められた和希は、4日は1日中起き上がれない状態だった為、1日分の仕事を後日に回す羽目になり、和希はこの数日寮にも帰って来れない生活を送っていた。


「和希様お召し上がりになられなかったのですか?」
石塚の声に和希は顔を上げる。
「折角用意して貰ったのに悪いな。まだお腹が空いてないんだ。もう少ししたら食べるから。」
昼も食べずに仕事をする和希を心配した石塚が2時頃何か食べて下さいと言うので手軽に食べれるサンドイッチを頼んだのだが、仕事に夢中な和希はそれを食べずにいたのであった。
「空いて無くてもお食べになって下さい。今何時だか解っていらっしゃるんですか?」
「えっ…もうこんな時間なのか?」
「こんな時間ではありません。手軽に食べられる物がいいと仰るからサンドイッチをご用意させて頂いたのに。まだ一口も手に付けていらっしゃらないなんて。」
ため息混じりに答える石塚に、和希はバツが悪そうな顔をして立ち上がると、サンドイッチを手に取り食べ始める。
「うん!美味しい!石塚も食べるか?」
「私は結構です。それよりも今日はもう仕事は終わりです。」
「えっ?でもまだ残っているが?」
和希はサンドイッチを食べながら答える。
「偶には寮にお戻りになられてはいかがですか?ゆっくりと休む事も大切な仕事の1つですよ。今日は私達ももう上がらせて頂きます。」
「そうか?石塚がそう言うなら構わないが…。新年に入ってから残業ばかりだからな。偶には早く帰るのもいいな。」
「はい。それではお先に失礼します、和希様。」
「ああ、お疲れ様。」
和希はそう言うともう一切れサンドイッチに手を伸ばし食べ始めた。
意識はしていなかったがそうとうお腹は減っていたらしい。
お皿の上のサンドイッチを全て食べきると、和希は時計を見る。
この時間ならまだ篠宮さんの誕生日会には間に合うだろう。
寮に帰るのも今年初めてだ。
久しぶりに啓太にも会えると思うと、嬉しくなってきた。
そうと決まったら直ぐに寮に帰ろうと、和希は制服に着替え始めた。


“コンコン”
制服に着替え始めた和希の耳にドアをノックする音が聞こえた。
「はい、どうぞ。」
和希はドアを振り返らずに答えると、
「石塚か?何か言い忘れでもあったか?」
「和希。」
「えっ…?」
聞き覚えのあるその愛しい声は紛れもなく、逢いたいといつも想っている恋人の物で間違いなく、
「て…哲也?どうしてここに?」
驚く和希の側に丹羽は来ると、
「さっき、石塚さんに今夜は和希を寮に帰して欲しいって頼んだんだ。」
「石塚に?」
「お前、篠宮の誕生日会楽しみにしていただろう?だからさ、駄目でもいいから取りあえず頼んでみたんだ。そうしたら今回は特別ですって言って許可してくれたんだ。あっさりO.K.貰えたんで何か気が抜けちまったぜ。」
「そうだったんだ…」
だからさっき石塚は今日の仕事は終わりだと言ってくれたんだ。
あいからわず気が利く秘書に和希は心の中で感謝する。
「もう帰れるんだろう?」
遠慮気味に聞く丹羽に、和希は微笑んで答える。
「うん!もう制服に着替えたしね。お誕生日会まだ始まったばかりだよね。」
「ああ、乾杯だけしてきて抜けて来たからな。」
「わざわざ抜けてきてくれたの?ごめんね哲也。」
「何で和希が謝るんだよ。俺が好きで迎えに来たんだからな。」
「うん、解ってる。それでも、哲也が迎えに来てくれた事が嬉しいんだ。」
「和希…」
「ありがとう、哲也。」
丹羽の腕に抱きつきながら、甘えた感じに言う和希に丹羽は嬉しそうに笑い返すと、
「さあ、俺の部屋に行くか。篠宮達が待ってるぜ。」
「うん!」
丹羽の腕に手を絡ませながら理事長室を出て行く二人だった。




遅くなりましたが、篠宮さんお誕生日おめでとうございます。
あいかわらずお誕生日に、本人を出さない話を書いてしまいました。
きっと篠宮さんは「明日から学校が始まるのに、こんな事をして…」といつもの通りにお説教をしている事でしょう。
そして遅れてきた和希に「遠藤はあいからわず寮に戻って来るのが遅い。大体遠藤はいくら言っても人の話を聞かないんだから…」と寮長モードにスイッチが入ってしまうんでしょうね。
そんな篠宮さんに王様が「まあまあ、今日ぐらい多めに見てやれよ。」と言うと、「大体、丹羽。お前も日頃からだらしがないから…」とまたまたお説教が始まるんです。
本人がそれをお説教と思ってない所が篠宮さんの良い所なんですけれどもね。
篠宮さん、素敵な1年になりますように願ってます!!
               2008/1/7