Typhoon
「雨、やみそうもないね。」
「ああ…」
寮の丹羽の部屋の窓から外を見ていた和希はベットに座っている丹羽に声を掛けた。
窓の外は台風が近づいているせいか大雨だった。
「仕方ねえな。今日はこのまま寮にいるか?」
「うん、この天気だからね。下手に出かけて帰れなくなったら困るし。」
「悪いな、和希。折角休みを取ってもらったのによう。」
頭をガシガシ掻きながら言う丹羽に、
「哲也が悪いんじゃないから謝らないでよ。でも、まさか本当に雨が降るとは思わなかったけどね。それよりも久しぶりに2人きりになれたんだもの。ゆっくりと過ごそうよ。」
和希はニッコリと微笑んだ。
話は数日前に遡る。
「哲也、俺もしかしたらこの日に休みが取れるかもしれないんだ。」
夏休みも終わりに近づいたある日、和希はカレンダーを指差しながら嬉しそうに丹羽にそう言った。
「えっ?本当か?」
「うん。今まで頑張って仕事を片付けたから1日くらいなら大丈夫だって石塚が言ってくれたんだ。夏休みに入ってから丸1日休みの日はなかっただろう。だから2人でどこかに出かけたいと思ってるんだけれども、哲也の都合はどう?」
「俺はいつでも大丈夫だぜ。」
「でも、学生会の仕事は?」
「うっ…」
丹羽は言葉を濁す。
やっぱりという顔をした和希はため息をつきながら、
「一緒に出かける日に学生会の仕事が終わらないから行けなくなりました…なんて俺嫌だからね。」
「俺だって嫌だぜ。」
「なら、ちゃんと仕事をやってくれる?哲也がデスクワークが苦手な事は知っているけど、哲也が学生会会長なんだからね。」
ジッと丹羽を見つめる和希の目は真剣そのもの。
丹羽はゴクンと唾を飲み込んだ。
和希は本気だ。
もしも、本当に丹羽が当日行けなくなったらどうなるか分からない。
和希を本気で怒らしたらとんでもない事になるのを丹羽は知っているからだ。
「分かった。俺も男だ。仕事をキチンと片付けてその日は1日フリーにするから安心しろ。」
「本当?」
「ああ。」
丹羽の言葉に嬉しそうに微笑む和希だった。
だから丹羽は今までになく必死に苦手なデスクワークをこなした。
その勢いの前に啓太や和希だけでなく、中嶋までもが『雨でも降るんじゃ無いのか?』と言っていた。
そして、和希と丹羽が出かける日…
外は本当に雨が降っていた。
しかも台風の影響だからその降りも半端ではなかった。
さすがにこれでは出かけられない。
「ねえ、哲也。」
和希はベットの上にふて腐れて座っている丹羽の隣に座ると、
「この頃お互いに忙しくてこうしてゆっくりと過ごす時間なんてなかったよね。この夏、学生会はたくさんの催しを計画していたけど、俺は忙しくて参加できなかった。花火大会や西瓜割り、海水浴、他にもいっぱい。その様子を俺に教えてくれる?」
「和希?」
「哲也が体験した事を色々と教えて。俺が一緒に体験したと思うくらいたくさん話して欲しいんだ。俺…この夏の思い出が仕事だけっていうのは寂しいから…」
一瞬だけ悲しそうな顔を見せた和希だったが、すぐにいつもの笑顔に戻る。
それが寂しさを紛らわす和希の癖だと言う事を丹羽は最近になって気が付いていた。
どんなに辛くても寂しくても滅多に本音を言わない和希。
でも、注意していると時々その辛さや寂しさが顔を出している時があるのだった。
丹羽は和希をそっと抱き締めると、
「いくらでも話してやるぜ。今日は時間が山ほどあるからな。」
そんな丹羽に和希は嬉しそうに微笑みながら頷いていた。
夏休みの話を何か1つ書きたいと思って思いついた話がこれでした。
ちょうど、天気予報を見ていたら台風が近づいていますと言っていたのでそれにピントを得て書きました。
王様と和希、晴れていたらどこにデートに行く予定だったのでしょうか?
私はつりかな?と思ってます。
2009/8/31