バレンタイン翌日
「遠藤先輩!1日が遅くなったんですが、これを受け取って下さい!!」
真っ赤な顔をして綺麗に包装したチョコを差し出す後輩に和希はため息をついた。
今日はこの後輩で何度目だろうか?
既に両手では数え切れない程断っている。
「ごめんね。それは受け取れないんだ。」
「どうしても駄目ですか?俺の気持ちも一緒にもらってくれとは言いませんので、せめてこのチョコだけでももらってくれませんか?遠藤先輩を想って買ったんです。」
「君の気持ちもそのチョコも受け取る事はできないんだ。でも、俺の事を好きになってくれてありがとう。」
申し訳なさそうに言う和希にその後輩はガッカリとしながら分かりましたと言ってその場を離れて言った。
その後輩を見送った和希はもう1度ため息を付いた後、学生会室のドアを閉めた。
「今日は忙しそうだね。」
「…啓太…」
学生室の会長席に座る啓太がクスクスと笑いながら声を掛けた。
2年生の啓太は今学生会会長をしている。
そして和希は学生会副会長をしているのだった。
忙しい和希が副会長をするのは難しかったが、1年生の時から休む事や遅刻が多かったのは身体が弱い為という理由があったので滅多に学生会に来れなくても問題がなかった。
それどころか、無理して学生会の仕事をして体調を崩さないようにと周りが和希を気遣う事が何度もあった。
和希は首を傾げながら、
「でも、どうして俺にチョコを持ってくるかよくわからないんだ。」
「和希が人気だからじゃないの?」
「俺が?そんな事ないだろう。人気があるというならそれは啓太の方じゃないか。」
「そうかな?」
「そうだよ。啓太は本当にのんびりとしているんだからな。七条さんがやきもきしているんじゃないのか。」
心配そうに言う和希に啓太は心の中で思った。
のんびりしてるってそれ和希の方だよ。
1年の時から自分が人気があるって事を理解していないんだから。
去年は中嶋さんがいて和希のことを守っていてくれたから誰も和希に気安く声をかけたり、チョコを渡さなかったけど、今年の1年生は中嶋さんを知らないからな。
和希に恋人がいるって事は分かってはいるんだけど、その相手が誰だか知らないから平気で和希に声をかける。
和希も和希で後輩が可愛いと言って優しくするからな。
そんなに簡単に笑顔を振りまくなって俺ですら言いたくなってしまうんだから、中嶋さんはさぞ心配しているんだろうなと啓太は思っていた。
そんな啓太の気持ちに気付かない和希は、
「昨日中嶋さんがバレンタインのチョコを受け取るなって言った時、何の冗談かと思っていたんだ。俺にチョコをくれる人なんていないと思ってたんだ。去年だってもらわなかったし。でも、まさか本当に持ってくる後輩がこんなにもいるだなんて驚いたよ。」
「和希。少しは自分の事を理解しろよ。」
「理解?何の事だよ。」
「だから!和希は人気があるってさっきも言ったろう?」
「それは聞いたけど…」
納得がいかない顔の和希を見て啓太はため息を付きたくなった。
和希がこれでは中嶋さんは本当に大変だな…と。
啓太は昨日の電話を思い出していた。
『伊藤。お前に頼みがある。』
「えっ?俺にですか?」
『ああ。伊藤にしか頼めない。』
「俺で役に立つ事でしたら引き受けますけど、和希の事ですか?」
『ああ。多分明日、和希にチョコを持ってくる奴らがいるから、奴らから和希を守って欲しい。』
「分かりました。和希は明朝寮に戻ってくると言っていたので明日はできるだけ和希の側にいますね。」
『悪いな、伊藤。』
「いいえ。和希は自分がもてるって分かっていないですからね。中嶋さんも大変ですね。」
『一応、チョコは受け取るなとは言っておいたが、“自分にチョコをくれる人なんていませんよ”と笑って言っていたからな。まったく、あいつは自分の事がよく分かってない。』
携帯越しからでもわかる中嶋の深いため息に啓太は苦笑いをしてしまった。
綺麗な親友は自分の容姿がいかに人目を引いているか理解していない。
自分は平凡だと思っているからだ。
「中嶋さん、安心して下さいね。明日は俺が和希を守ってみせますから。」
『頼む。』
和希は既に副会長の席に座って学生会業務をしていた。
そんな和希を見ながら啓太は思った。
今日はゆっくりと寮に戻ってその後は消灯まで俺の部屋にいさせよう。
でも、俺も中嶋さんの気持ちがよく分かるよ。
無防備な和希を側で見守れないのって凄く不安だからね。
あの中嶋さんが俺を頼ってくれたんだから、俺は頑張って和希を守ってみせる。
啓太は新たにそう誓うのであった。
え〜と…
中和なのに和希と中嶋さんとの会話がまったくないです。
設定としては和希と啓太が2年生の話です。
啓太は和希を親友としてとても大切にしています。
ちなみに和希はバレンタイン当日は中嶋さんと過ごしていた為に寮には1日いませんでした。
2010年2月15日