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和菓子の後は…

学生会室に着いた中嶋はポケットから鍵を取り出して扉を開けた。
中嶋の後に中に入った和希は室内を見渡してクスッと笑った。
「何がおかしいんだ。」
「相変わらず王様はいないんだな、と思ったんです。」
「ああ。今日はいい天気だからな。こんな日はどこかで昼寝でもしているんだろう。」
「探しに行かなくてもいいんですか?」
「丹羽に捺印してもらわなくてはならない急ぎの書類は今はないからな。今日は見逃してやるさ。」
そう言った中嶋の顔を和希はちょっと面白くなさそうに見つめていた。
何も言わなくても、阿吽の呼吸でお互いの事を理解してしまう中嶋と丹羽。
それ程、2人の信頼関係は深い。
それは素晴らしい事なのだろうが、和希はその事に関して心の奥では嫉妬していた。
「何だ。そんなに丹羽に会いたかったのか。」
中嶋の言葉に和希は慌てる。
「そんな事あるわけないじゃないですか。」
「そうか?俺には丹羽がいなくて寂しいと言っているように聞こえたがな。」
「もう。何言ってるんですか。俺は王様がいなくてホッとしてるんですよ。英明と2人きりになれたんですから。」
ニヤッと笑った中嶋の顔を見て、和希は今言った言葉の意味に気が付いて顔が真っ赤になった。
そんな和希の頭を中嶋はポンッと叩くと、
「そこに座って食べていろ。今美味しいコーヒーを入れてきてやる。」
そう言ってミニキッチンに向かって行った。

和希はソファーに座ると、持ってきた上生菓子を机の上に置き、包装紙を再度開いた。
綺麗な箱の中に入っているさざんかの花、千代菊、もみじ、そしてくまの顔をした菓子。
どれも凄く美味しそうだった。
食べてもいいと言われたので、どれにしようかと悩んだ結果、和希が手にしたのはさざんかだった。
ピンク色の可愛い花の練切で半分に割ると中には黄色の餡が入っていた。
口に含んでみると、ほんのりと甘い上品な味わいだった。
「美味しい…」
美味しさに顔が綻んでしまう。
そんな和希の元に中嶋がコーヒーカップを2つ持って戻ってきた。
和希の隣に座るとコーヒーカップを手渡した。
「ありがとうございます。」
破顔で言った後、
「英明、この上生菓子、凄く美味しいです。」
「そうか。良かった。」
「英明はどれを食べる?」
「いや、俺はいい。」
「でも…これ、そんなに甘くないですよ。」
「何度か食べた事があるから知っている。」
「えっ?」
和希は驚いた顔をした後、納得したように言った。
「そういえば、ご両親の知り合いの職人さんが作られたものでしたね。」
「ああ。」
「こんなに綺麗で美味しい生上菓子を作られるなんて素晴らしい方ですね。」

和希はうっとりとした顔をして生上菓子を見つめていた。
その時、中嶋が和希の唇を舐めた。
和希は一瞬、何が起こっているのかが分からずにキョトンとした顔をしていたが、すぐに意味を理解して顔を真っ赤にした。
「もう…何するんですか。」
「唇に餡が付いていたので取ったまでだ。」
「あ…餡って…そんなの、教えてくれれば自分で取ったのに…」
「食べないかと聞いてきたのは和希だろう。ご希望にそって少しだが、食べただけだ。」
和希は唖然とした。
確かに食べる?とは聞いたが、意味が違うと思った。
「もう…そう言うのは屁理屈って言うんですよ。」
「俺は捻くれ者だから仕方ないだろう。」
「…」
ああ言えば、こう言う。
和希は呆れた顔をしながら、
「そういう人には一緒に食べましょうって誘いませんからね。これは俺1人で食べますから。」
そう言って今度はもみじを口に入れた。
「そんなに気に入ったのなら、和希1人で食べればいい。」
「えっ?本当にいいんですか?」
「ああ。俺は後からもっと甘い物を食べるからな。」
「もっと甘い物?」
和希は首を傾げる。
甘い物が嫌いな中嶋が食べたい甘い物って何だろう?
そんな和希を見て中嶋は面白そうに笑う。
「分からないのか?」
「はい。」
「そうか。」
「教えてくれないんですか?」
「それを食べ終わったら教えてやるさ。」
意味深に言う中嶋を怪訝そうに見つめながらも、目の前の美味しい生上菓子に心を奪われている和希だった。
中嶋の好きな甘い物…
それは中嶋の目の前にいて、美味しそうに生上菓子を食べている和希の事でした。
そして食べ終わった和希は、中嶋に美味しく食べられたのでした。

中嶋さんお誕生日月間最後の話は『ケーキの後は…』の続編でした。
ケーキは頬に付いたものを舐める…というのは定番ですが、和菓子、しかも上生菓子ですから頬には付かないだろうなぁと思いました。
でも、どうしても中嶋さんに舐めてもらいたい!!(笑)と思っていたので唇に付いている餡を舐めてもらう設定にしましたww
この話を書くにあたって、ネットで上生菓子を調べたのですが、凄く綺麗なものがたくさんあってビックリしました。
和菓子って芸術品なんだな…と改めて思いました。
                       2011年11月28日

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