Watermelon
和希は目の前で美味しそうに西瓜を食べている丹羽を嬉しそうに見つめていた。
重かったし、恥ずかしかったけれどもこんなに幸せいっぱいの顔で西瓜を食べている丹羽を見ていたら、そんな事はどうでもよくなってしまった。
事の起こりは数日前にさかのぼる。
その日、学生会室で和希は啓太と話をしていた。
「最近、出張が多いよね、和希。」
「そうだな。普段はあんまり行けないから仕方ないかな。そうだ。お土産買ってくるよ。啓太、何がいい?」
「えっ?いいよ、お土産なんて。」
「遠慮しなくてもいいから。」
「遠慮じゃなくて、本当にいいよ。それよりも元気に帰ってきてくれたらそれでいいから。」
「啓太…お前って優しいな。」
和希は嬉しそうに微笑んだ後、啓太をギュッと抱きしめた。
学生会会長に座って和希と啓太の会話を微笑ましいと思いながら聞いていた丹羽の手から持っていたボールペンがコロッと机の上に落ちたのと同時に冷たい声が頭上から降ってきた。
「丹羽、貴様どういう教育をしているんだ。」
「どういう教育って…」
冷たい雰囲気をただよわせた中嶋を丹羽は困った顔で見ながら、
「今さらだろう。和希の啓太好きは前からだったし、スキンシップも激しいからな。」
「だが、恋人であるお前に対してあそこまでのスキンシップをしないのは何故だ?」
「そんなの俺が聞きてえよ。」
ふて腐れて答える丹羽に中嶋はため息をつく。
和希が人前で丹羽にスキンシップを取らないのは恥ずかしいからだ。
啓太には出来て丹羽には出来ないのは単に意識の違いであって、丹羽には照れくさくてできないのだ。
中嶋にはそれが分かっているが丹羽は気付いてはいない。
だからこそ、中嶋はわざと丹羽に言う。
丹羽が拗ているのが分かっているからだ。
中嶋は和希が啓太にスキンシップを取ろうがあまり気にはしていない。
もちろん、恋人の啓太にベタベタ触られればあまりいい気はしないが、和希が啓太に対して恋愛感情がなく、家族愛と同じ思いを抱いてるのが分かるからだ。
「遠藤に余り啓太に構うなと言っておけ。それと抱きつく相手を間違えるな…とな、哲ちゃん。」
「…分かったよ…」
ニヤリッと笑う中嶋を見ずに、丹羽は渋々言った。
「和希、俺もお土産が欲しいんだけどな。」
「王様?」
既に啓太から離れて楽しそうに話をしている和希に丹羽は話かけた。
「和希、俺のお土産よりも王様へのお土産の方が大切だろう。」
「えっ…いや…啓太へのお土産も大切だよ。」
顔を赤くして答える和希を可愛いと思いながら、
「王様は何がいいんですか?」
「啓太は何を頼んだんだ?」
「俺はまだ決まってないんです。」
「そうか。俺は西瓜を頼もうと思ってるんだ。」
「西瓜ですか?」
黙って聞いていた和希が驚いて声をかけた。
「おう。和希の出張先って確か西瓜で有名な所だろう。」
「あ〜確かに。」
「だろう。だから俺は西瓜がいい。」
「西瓜って西瓜そのままがいいんですか?西瓜を使ったお菓子とかじゃなくて。」
「ああ。10個位欲しいな。」
「「10個?」」
和希と啓太は同時に言った。
そんな2人を不思議そうに見ながら、
「10個なんて楽勝だろう。産地から取れたての西瓜か。楽しみに待ってるぜ。」
「…」
嬉しそうに言う丹羽に何も言えずに、丹羽への出張土産は西瓜10個になってしまっていた。
車での移動だったので西瓜10個位大丈夫だと思ったが、念の為に石塚にはその旨を伝えておいた。
「西瓜を10個ですか?西瓜割りでもなさるんですか?」
そう聞いてきた石塚に和希は苦笑いしかできなかった。
スーパーにでも寄って行こうかと思っていたのだが、取引先の担当者に西瓜を買う予定がある事が分かるといい西瓜農家を知っているで案内しますと言われ、行った先の生産者は鈴菱の方が直接買いに来てくれたと喜ばれ、10個の料金しか払わなかたのにおまけに2個も西瓜をくれたのだった。
「やっぱ、美味いよな。」
「良かった。喜んでもらえて何よりです。」
嬉しそうに微笑む和希に、
「和希はもう食わないのか?」
「はい、もうたくさん食べたのでお腹がいっぱいです。」
「相変わらず食が細いな。だからあの時、体力が続かないんだぜ。」
「なっ…」
和希の顔が赤くなる。
「何馬鹿な事を言ってるんですか!関係なんてありません!」
「そうか?」
「そうです!」
頬を膨らませながら言う和希が可愛らしくて丹羽はつい微笑んでしまう。
「なら、試してみるか。西瓜でどのくらい体力がつくかどうか。」
嬉しそうに笑って差し出した手を拒む事ができずに、和希はゆっくりとその手に自分の手を重ねたのだった。
西瓜を見て思いついた話でした。
王様は夏生まれなので、何となく西瓜が大好きなんじゃないかな…と思いました。
しかし、10個も西瓜を食べきれるのでしょうか?
まあ、王様なら食べられるかな?
2009/8/10
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