Wedding Night
王様と付き合って初めて迎える王様の誕生日。
恋人として和希はたくさん祝ってあげたかった。
けれども、現実は甘くなく夏休みに入ってからの和希の生活は仕事一色。
朝早くから夜遅くまでの仕事に加え、出張が多い。
学生をしているのだから、普段は秘書に任せている出張も、この夏休みは和希が進んで行かなくてはならない。
そして本社への顔出しも大切な仕事の1つ。
外に出ればやたらと誘われる食事とお酒。
それも仕事の1つだから嫌だなんて言えない。
でも、これだけ頑張っているのだからせめて1日くらいは休みを貰っても罰は当たらないかな…と思って8月15日の休暇をもらおうと思って時にそれはやってきた。
「出張?」
「はい、和希様。8月13日から16日までの4日間関西支社へ行ってもらいます。」
「…」
「和希様?」
「ああ…それって変更不可能か?」
「はい?」
ボソッと呟いた和希の言葉に石塚は不思議そうな顔をする。
「あの…和希様。何かその4日間の間に大切な御用でもあるのですか?」
「えっ…?」
今度は和希が困った顔をした。
確かに用事はある。
とても大切な用事だ。
だが…それを優先させる為に仕事を変更する事など許されるものではない。
和希は顔を横に振り、
「いや、私の勘違いだった。出張の件は解った。」
「はい。」
石塚の返事を聞きながら、和希は心の中でため息をついていた。
その晩、和希は丹羽の部屋に行き出張の件を伝えた。
わざと誕生日の事は触れずに話をした和希に丹羽は、
「そうか。解った。最近は出張が多いから気をつけるんだぞ。」
そう言っただけだった。
自分の誕生日に恋人は仕事でいないのに、そんな事に苦情すら言わない丹羽に和希は泣きそうになる。
そんな和希の頭を丹羽は優しく撫でる。
「どうした?最近忙しいから疲れているのか?」
和希は頭を横に振った。
大好きな恋人の誕生日も一緒にいられない事が辛かった。
でも…
鈴菱として生きている以上それは当たり前の事だった。
和希は丹羽の胸に頭をコツンとつけると、
「王様…ごめんなさい…」
「うん?何謝ってるんだ?変な奴だな。」
そう言って丹羽は和希の額にそっとキスをした。
そして迎えた丹羽の誕生日。
寮の丹羽の部屋ではいつものメンバーで丹羽の誕生日を祝っていた。
その騒ぎの中、何故か丹羽はいつも程はしゃげなかった。
気が付くといつも側にいて微笑んでくれている和希がいなかったからだ。
和希がこういった集まりには参加はしていが最初から最後までいる事はめったになかった。
けれども、どんなに忙しくても顔は出していた。
鈴菱の後継者として特殊な環境で育った和希にとって、丹羽達が当たり前にしてきた事すべてが珍しかった。
だから、学生会の行事など嬉しそうにしていた。
丹羽が『楽しいか?』と聞くと、とびっきりの笑顔で『はい!』と和希は答えていた。
いつの間にか楽しい時には丹羽の隣にいるのが当たり前になった和希。
でも、今回の出張で丹羽は改めて和希の立場を深く感じていた。
1年生の遠藤和希として側にいてくれていても、本当はここの理事長で鈴菱グループの後継者の鈴菱和希なのだ。
いつまでこの関係が続ける事ができるのだろうか?
自分とあまりにもかけ離れた存在の和希。
丹羽はふと不安になるが、その考えを慌てて打ち消した。
和希は丹羽を『愛してる』と言っているのだ。
その和希を信じてやらなくては…
そんな事を考えていた丹羽に啓太が声をかけた。
「王様?どうしたんですか?元気ないですよ?」
「そうか?」
「はい。どうかしたんですか?」
「啓太。丹羽は遠藤がいなくて拗ねているだけだ。放っておけ。」
「中嶋さん…」
丹羽は中嶋をジロッと睨む。
「おい、ヒデ。余計な事を啓太に言うんじゃねえよ。」
「本当の事だろう?遠藤から出張の話を聞かされた時、えらく落ち込んでたじゃないか。違うとでも言うのか?」
「うっ…」
黙りこくってしまった丹羽を見て啓太は、
「もう、中嶋さんたらそんなに王様をいじめないで下さいよ。ねえ、王様。和希は明日帰ってくるんでしょ?1日遅れたけど、和希は王様のお誕生日のお祝いをしたいって言ってたんですよ。だから楽しみに待っててあげて下さいね。」
「えっ?和希がそんな事を?」
丹羽の顔がパァ〜と明るくなる。
啓太は微笑みながら、
「はい。和希の奴、えらく張り切ってましたからね。明日が楽しみですね、王様。」
「おう!」
元気を取り戻した丹羽を啓太はホッとして、そして中嶋は単純な奴だと呆れた顔をして見ていた。
寮の側に1台の車が止まり、中からスーツを着た和希が降りた。
「石塚、今回は無理を言ってすまなかったな。」
「いいえ、和希様。全ては和希様が頑張ってくれたおかげです。」
「いや。石塚が今日の為にスケジュールをつめてくれなかったら、こうして帰って来れなかったんだ。ありがとう。」
和希の言葉に石塚は微笑む。
「それでは、和希様。明日は午後からの出勤ですので、ごゆっくりとお休み下さいね。」
「ああ。石塚もしっかり休めよ。」
そう言うと和希は車のドアを締め、寮に向って走り出した。
そんな和希を石塚は微笑んで見守っていた。
あの日…
出張の話をした時、和希の様子がおかしかったので何かあるのだろうかと調べた石塚は8月15日が丹羽哲也び誕生日だと知ると、4日の出張のスケジュールを無理やり詰めて、3日にまとめてしまった。
そしてぎりぎりだが、なんとか8月15日に学園島に帰宅させたのであった。
和希は合鍵を使ってソッと丹羽の部屋に入った。
丹羽の部屋は皆でお祝いした後のままであちらこちらにお菓子の袋やペットボトル、お酒の瓶など転がっていた。
そして丹羽は制服のまま、布団を掛けもしないて寝ている。
和希は時計を見ると23時57分だった。
和希はまだ15日だとホッとすると、ソッと丹羽に近づき丹羽の唇に自分の唇を重ねる。
触れただけの優しいキス。
和希は唇を離すと、
「王様、お誕生日おめでとうございます。」
目を覚まさない丹羽をジッと見つめながら、
「王様。大好きです。貴方に出会えて俺凄く幸せです。これからも俺の傍にいて下さいね。愛してます。」
そう言って立ち上がろうとした和希は腕を捕まれ、丹羽の胸に顔を埋める格好になる。
「…王様?…」
驚く和希の目に、ニヤッと笑う丹羽の顔が映る。
「お…起きていたんですか?」
「ああ、さっきな。」
「もう…いつからですか?」
「和希がキスした所からだ。」
かあ〜と和希の顔が赤くなる。
丹羽は嬉しそうに、
「滅多に聞けない和希の『愛してる』が聞けて嬉しいぜ。」
和希は恥かしそうに顔を背けながら、
「…知りません…」
そんな和希の頭を丹羽は撫でながら、
「俺の誕生日の間に帰ってきてくれて、素敵なプレゼントをくれてありがとな。俺も愛してるぜ。」
和希は嬉しそうに微笑んだ後もう1度丹羽に触れるだけのキスをすると、
「王様、もうお誕生日が過ぎてしまったけれども、俺からのプレゼントをもらってくれませんか?」
「プレゼント?ああ。何なんだ?」
「俺です。王様、俺の事抱いてくれますか?」
丹羽はゴクンと唾を飲み込む。
和希と付き合ってキスまではしたが、その先つまりまだ抱いた事はない。
夢の中で何度も抱いたその体を俺は本当に抱いてもいいんだろうか?
「いいのか?途中で嫌がっても止めねえぞ?」
和希はクスッと笑うと、
「大丈夫です。王様、大好きです。」
そう言って和希は丹羽に抱きつく。
柔らかなその身体を丹羽はギュッと抱き締めると、息もつけないくらい激しいキスをする。
「…んっ…」
和希の口から漏れる甘い声。
「和希愛してる…」
「俺も…王様を…愛してます…」
「名前で呼んでくれよ。」
「はい…哲也…」
「もう1度呼んでくれるか?」
「何度でも…哲也…」
「もう1度。」
「哲也。」
嬉しそうに微笑む丹羽は和希の身体を持ち上げるとベットに下ろし囁く。
「和希、ずっと俺の傍にいていつまでも笑っていてくれよ。」
和希は頷きながら丹羽にキスをした。
1日早いですが、王様お誕生日おめでとうございます。
お誕生日プレゼントが和希だなんて、和希も可愛いですよね。
1日遅れてしまいましたがきっと幸せなお誕生日を過ごしたのでしょうね。
素敵な初夜が過ごせたと思ってます。
2008年8月14日