Well

春は苺の季節。
思い出すのは懐かしいあの頃。
「カズ兄!」
そう俺を呼んで俺の後をついてきたあの子はもう大きくなって、恋をする歳になってしまった。
それは嬉しいようで寂しい思い…

苺が大好きで喜んで食べていた。
「啓太、俺の分もあげるよ。」
「いいの?カズ兄。ありがとう。」
嬉しそうに笑う啓太の笑顔が見たくて何度も苺を啓太に食べさせた思い出。
そんな俺に気付いた家政婦達はおやつに必ず苺をつけてくれた。
その時、俺は初めて気付いたんだ。
周りの人はいつも俺を思ってくれているって事に。
1人じゃなかったんだって事に。
俺が壁を作って周りを見なかったんだなって気が付いたんだ。
そんな風に啓太の存在は俺に今まで気が付かなかった色々な優しさを気付かせてくれた。


「和希?何ボゥ〜としてるの?」
啓太に声を掛けられて、和希はハッとする。
ここは食堂で、今和希は啓太と一緒に夕食を取っていた。
今日はメニューにイチゴのデザートがあって啓太が喜んでトレーに載せていたので、もちろん和希もイチゴをトレーに載せていた。
そして食事を終え、デザートのイチゴを食べようとした和希はふと昔を思い出してしまいボゥ〜としてしまっていた。
「いや、別に…」
和希はそう言うと、イチゴにフォークをさし食べようとした。
だが、すぐにフォークをさしたイチゴを啓太の前に差し出した。

啓太はキョトンとして、
「何?和希?」
「うん?啓太イチゴ好きだろう。はい、あーんして。」
「はい?」
啓太は慌てて言った。
「馬鹿和希。何考えているんだよ。」
「えっ?何って…昔こうやって食べたろう?」
「昔って…いったいいつの頃の話だよ。」
「俺と啓太が出会った頃だよ。」
平然として言う和希に啓太は顔を真っ赤にして言った。
「そんな子供の頃の話をするなよ!」
「何でそんなに怒るんだよ。懐かしかったから、やってみたかったのに…」

ブツブツと言いながら自分でイチゴを食べ始めた和希に啓太は困った顔で笑っていた。
まったく、時々昔の俺を思い出してくれるのは嬉しいんだけど俺はもう16歳なんだよ。
和希ってはそれ分かってるのかな?
本当に和希っていつまでたっても子供だよね。
王様の苦労が何か俺理解できちゃうよ。
イチゴを美味しそうに食べている和希を見ながら啓太もイチゴを食べ始めた。
甘いイチゴは啓太にも遠いあの夏の日々を思い出させてくれた。
今度部屋で食べる事があったら、その時は昔みたいに食べさせてもらってもいいかも…
今度和希に内緒でイチゴを買って驚かせよう…
啓太はそう思いながら微笑んでいた。




1日早いですが、伊藤啓太くん、お誕生日おめでとうございます!!
啓太のお誕生日小説を書いたのですが、お祝い話にはなりませんでした。
王和+中啓の話です。
和希って時々昔の啓太を思い出して懐かしく思っているのではないのかな…と思って書いてみました。
              2009/5/4