クリスマスまで後少し

「24日?」 「うん。王様がね、クリスマスパーティーをしたいんだって。」
「相変わらず騒ぐのが好きな人だなぁ、王様は。」
呆れた顔で言う和希に啓太は苦笑いをした。

丹羽がお祭り好きなのは有名である。
しかし、今の丹羽にとってイベントは単なるお祭り騒ぎだけではない。
和希の恋人になって数ヶ月経った丹羽は、和希が普通の事をあまり知らない事に気が付いた。
当たり前な事でも、和希には未知の世界の出来事がたくさんあった。
その1つがクリスマスパーティーだった。
丹羽がさり気なくクリスマスの事を聞いた時に、幼少期はいつも1人でクリスマスを迎えていた事、ある程度の年齢になるとクリスマスは仕事関係のクリスマスパーティーになっていた事を和希は丹羽に話していた。
和希にしてみればそれが当たり前の出来事であって友達や家族、恋人で過ごすクリスマスは自分とは関わりのないものだと思っていた。 だが、丹羽にとってみれば恋人と初めて迎えるクリスマス。
まして、愛しい恋人である和希は恋人同士のクリスマスを知らない。
絶対に甘い恋人同士のクリスマスを教えてやると張り切っていたのだが、和希からクリスマスは仕事ですと言われ、あえなく沈没したのであった。
だが、それで終わりにしない所が丹羽である。
2人きりのクリスマスは無理でも、学生会主催のクリスマスパーティーならきっと和希も参加するだろうと考えたのだった。
既に学生会は引き継ぎを終わっているので丹羽は学生会会長ではないのだが、丹羽の一声で学生会主催の行事はなりたってしまうのだった。

「24日は大丈夫?もしかしたら仕事がある?」
「一応ある事はあるけど、夜には時間が空くから大丈夫だよ。」
「やった!」
啓太は嬉しそうにそう呟いた。
「啓太?」
「何?」
「何がそんなに嬉しいんだ?」
「えっ?」
「だって、顔がにやけているぞ。」
和希に言われて啓太は思わず顔を触ってしまい、和希に笑われてしまった。
「ううん、和希と一緒にクリスマスを迎えられて嬉しいなぁと思ったんだ。」
「俺もだよ。それに友達と迎えるクリスマスって実は初めてなんだ。」
「えっ?そうなの?和希。」
「うん。クリスマスは仕事関係のパーティーしか知らないんだ。」
「そうか。大勢で騒ぐクリスマスってきっと楽しいと思うよ。」
「そうだな。楽しみだ。」
にこやかに笑う和希に啓太も笑って頷いていた。


「よっしゃ!!!」
丹羽の叫び声が会議室に響いていた。
学生会の引き継ぎは終わったが、丹羽が残した大量の書類を片付ける為に会議室の1室が宛がわれていた。
その会議室に丹羽と啓太がいた。
実は啓太は丹羽に頼まれて和希を24日のクリスマスパーティーに誘ったのだった。
本来なら丹羽が誘うべきなのだが、以前24日は仕事だと聞いていた為に誘えないでいたのであった。
それに和希は丹羽よりも啓太に甘いので、啓太に誘われれば数時間だけでも時間を調整してくれるだろうと思っていた。
丹羽は啓太の手をガシッと掴むと、
「ありがとな。やっぱり啓太に頼んで正解だったぜ。」
「いいえ。きっと王様が頼んでも行くって言ったと思いますよ。」
「う〜ん、そいつはどうかな。俺の場合だったら“もしも時間が取れたら参加しますので期待しないて下さいね”って言われるのがオチだぜ。」
「そんな…」
困った風に笑いながらも最近の和希の仕事の忙しさを知っているだけに和希が無理をしなければいいなぁと思った啓太だった。


数日後の真夜中、丹羽の部屋の扉が小さくノックされた。
久しぶりに会う和希だった。
部屋に入る和希を丹羽は後ろからそっと包み込んだ。
「暖かい…」
久しぶりの丹羽の体温に和希は丹羽の手にそっと触れながら嬉しそうに呟いた。
「和希が冷えているからだろう?気を付けねえと風邪を引くぜ。」
「大丈夫ですよ。哲也がこうして暖めてくれるから。」
「まったく…嬉しい事を言ってくれるよな…」
丹羽は和希にキスをする。
冷たい和希の唇は丹羽の唇によって徐々に暖かくなっていく。
「…ふぁ…」
和希から色めいた声が漏れた。

最近触れ合っていないせいか、丹羽はすぐにでも和希が欲しかったが和希が何か言いたそうな顔をしているのに気が付いたので、
「何かあったのか?」
「特にってわけではないのですが…」
言葉を濁した和希の次の言葉を丹羽はじっと待つ。
「この間、啓太からクリスマスパーティーの話を聞いたんです。」
「おう。和希も参加するんだろう。」
「はい。仕事があるんで最初からは無理ですが。で…どうしてその誘いを哲也ではなく啓太がしたんですか?」
「えっ?どうしてって…」
丹羽は困ってしまった。
自分が言ったのなら断られる可能性が高いので啓太に頼んだなんて知れば和希は怒るに決まっている。
最悪の場合はクリスマスパーティーに参加しないとも言いかねない。
丹羽が言葉を探しているとため息と共に、
「どうせ、啓太が誘った方が俺が行くって言うと思ったんでしょ?」
「なっ…どうして分かったんだ?」
「…やっぱり…」
その一言で、和希に誘導されていた事に気が付いた丹羽だが、既に遅かった。

和希は丹羽をジッと見つめると、
「そんなに俺の事を信用できないんですか?」
「えっ?」
「確かに啓太はとても大切な人です。だから啓太が望む事は出来る限り叶えてあげたいと思ってます。でもだからと言って、哲也を蔑ろにしているつもりはありませんけど?」
「そんな事は分かっている。」
「なら、どうして?」
「俺は…」
丹羽は一端言葉を切った後、
「俺はどうしても和希にクリスマスパーティーに参加してもらいたかったんだ。和希に友達と迎えるクリスマスパーティーの楽しさを教えてやりたかった。」
「なら、直接そう言ってくれればいいじゃありませんか。わざわざ啓太を通して言わなくたっていいでしょう。」
「以前、クリスマスは仕事だと聞いていたから誘いづらかったんだ。“仕事だと言ったのにどうして誘うんですか?”ってお前から言われたくなかったんだ。だからずるいとは思ったが啓太に頼んだんだ。」
「…」

丹羽の言葉を聞いた和希は何も言えなかった。
丹羽の優しさに何と言って言葉を返したらいいのか分からなかったからだ。
俯いてしまった和希に丹羽は申し訳なさそうに言った。
「悪い。やっぱり怒っているか?」
心配そうに和希の顔を覗き込む丹羽に和希は、
「余計な気をまわさなくたっていいんです。」
プイッと顔を反らしながら言った。
その顔は真っ赤になっていた。
素直になれない和希を見て丹羽は声をたてて笑った。
いつまでも笑い終わらない丹羽に、
「もういつまでも笑っていると、俺部屋に帰りますからね。」
「分かった。もう笑わないから帰るなんて言うなよな。久しぶりなんだ。和希に触れてもいいよな?」
「俺はそのつもりでここに来たんですが、哲也は違うんですか?」
「もちろん、俺もそのつもりだ…愛してる、和希。」
「俺もです…」
寄り添う2人を見つめているのは夜空に輝くお月様ときらめく無数の星だけ…




少し早いですが、クリスマスの話を書きました。
と言ってもクリスマス数日前の話ですが…
クリスマス当日は無理ですが、王様と和希は2人きりのクリスマスを過ごすと思います。
どんなクリスマスになるのか、楽しく想像しています。
皆さまもどうぞ、素敵なクリスマスをお過ごし下さい。
                   2009/12/21