夜桜デート

「哲也、まだ時間はありますか?」
「大丈夫だ。」
「良かった。」
嬉しそうな顔をする和希に丹羽は、
「どうしたんだ?何かあるのか?」
「はい。俺、哲也と一緒に行ってみたい場所があるんです。」
「俺とか?どこに行きたいんだ?」
「内緒です。」
和希は悪戯っ子の様に笑いながら、
「着いてからのお楽しみです。さあ、行きましょう。」
そう言って歩き出した和希の手を丹羽は掴むと、
「どこだか知らねえけど、いい所じゃなかったら怒るからな。」
「大丈夫です。きっと哲也も気に入りますから。」
そう言って和希は丹羽の手をギュッと握り替えしたのだった。

丹羽が卒業してから初めてのデート。
和希の仕事の都合で会ったのは夕方からだったけれども、ショッピングをしてから夕食を食べ、これからどうしようかと丹羽が思っていたら和希から行きたい所があると言われたのだった。
春だと言ってもまだ夜は冷え込む。
「寒いな。」
「そうですね。昼間は暖かいのに、夜はまだコートが必要ですよね。」
学園にいた頃と変わりない会話。
違うのはいつも側にいる相手が離れた所にいるという事だけだ。
手を伸ばせばいつでも触れられたのに、今はそれができないもどかしさ。
だから…
会える今の時間を大切にしたいと思っている。

「ここです。」
和希はそう言って横にいる丹羽を見た。
「凄いな…」
「はい。凄く綺麗でしょう。街中にもこんなに見事に咲く桜の木があるんですよ。」
「よく知っていたな。」
「実はこの間、啓太に教えてもらったんです。」
「啓太に?」
「はい。中嶋さんと出かけた時に教えてもらったそうですよ。啓太が見た時はまだ少ししか咲いていなかったそうです。だから今日あたりは満開かな…と思っていたんです。予想通りに満開で嬉しいです。」
和希は嬉しそうに言うと、桜の花を見つめていた。
しかし、丹羽は桜よりも和希の顔を見つめてしまっていた。
桜の花の美しさに感動してうっとりとしている和希の横顔は何とも言い難い位綺麗だった。
そう…
まるで桜の精がそこに立っているかのようだった。

「ねえ、哲也。綺麗でしょう。」
「ああ。綺麗だ。こんな綺麗な奴は見た事がない。」
「綺麗な奴?何を言って…」
和希の唇を丹羽が塞いだ。
舌を絡める濃厚なキス。
驚いて目を見開いた和希だったが、すぐに目を閉じ丹羽の背に手を回した。

クチュッと言う音を立てて丹羽が和希から離れると、和希は潤んだ瞳で丹羽を睨むと、
「もう…いきなり何をするんですか?せっかく桜を見ていたのに。」
「俺も見ていたぜ。桜を見ている和希をな。」
「なっ…」
顔を真っ赤にさせながら、
「何を見ているんですか?桜を見に来たのに。」
「桜も綺麗だけどよう。俺にとっては和希の方がもっと綺麗なんだから仕方ねえだろう。」
頭を掻きながら言う丹羽を見て和希は呆れていた。
けれどもすぐに、
「忘れてました。哲也は花より団子ですからね。」
「おお、そうだぜ。桜よりも和希だからな。」
お互いの顔を見て笑いあった。

「なあ、和希。今夜は寮に帰るのか?」
「いいえ。ちゃんと外泊届けを出して来ました。朝まで俺と一緒にいてくれますか?」
「もちろんだぜ。じゃあ、俺の部屋に帰ろうか。」
「はい。」
咲き乱れる桜を後にして2人は丹羽のマンションに向かって歩き出したのでした。






桜が咲く季節になりました。
桜の話は何本も書いたので、どうしようかと思ったのですが、やっぱり書きたかったので書いてしまいました。
私の地域はまだ桜は咲いていません。
早く、ピンク色の可憐な花を見てみたいです。
              2010年3月29日