サーバー棟専用駐車場で丹羽は和希が出て来るのを1人待っていた。
来週は和希の誕生日なので、何か欲しい物を聞く為だった。
それならば、わざわざこんな所で待ち伏せのように待たなくてもいいのだけれども、今回は仕方がなった。
なぜならば、丹羽が和希の誕生日を知ったのは今日だったからだ。
学生会室に向かう途中に啓太に会った丹羽は一緒に学生会室に行く事になった。
「そういえば、もうすぐ和希の誕生日ですね。王様は何をプレゼントするんですか?」
「えっ?」
啓太のこの一言に丹羽は唖然としてしまった。
そんな様子の丹羽に気が付いた啓太は、
「もしかして、王様知らなかったんですか?」
「ああ。」
ショックを受けている丹羽を啓太は慌ててフォローした。
「和希って自分から誕生日を言うタイプじゃないですから、知らなくても仕方ないですよ。」
「なら、どうして啓太は知っているんだ?」
「以前クラスメートと話をしている時に誕生日の話になって、その時に聞いたんです。」
「そうか…そうだな。クラスメートとならそういう話をするからな。」
納得した丹羽を見て、啓太はホッとする。
「で、来週のいつなんだ?」
「9日です。」
「1週間後じゃねえか。」
「そうですよ。だから俺、王様はもう何か買ったのかなと思って聞いたんです。俺は今度の週末に街に行って買おうと思っています。」
「啓太は何を買うのか、もう決めたのか?」
「まだはっきりとは決めていませんけど、和希はくまが好きだからくま関係の物を探そうかなと思っています。」
「くまか…確かに和希はくまが好きだからな。」
「あっ!そう言えば、今日の夕方から出張だって知っていますか?」
「聞いてねえぞ、そんな話。」
あ〜あ、和希ってばまた王様に言うのを忘れてるよ。
仕方がないな。
啓太は心の中でそう呟いた。
和希は仕事で授業を休む時は必ず啓太に連絡をする。
啓太とは同じ学年で同じレギュラークラスで、選択科目が多少違っているくらいで殆ど同じ授業を受けているからだ。
だが、忙しいせいか啓太には連絡しても恋人の丹羽には連絡をしない事がしばしばあるのだった。
「え〜と…和希忙しくて、また王様に言うのを忘れちゃったんですね。」
「まったく…あれ程言ったのによう。まあ、いい。今からサーバー棟に行ってくる。」
「はい?」
「じゃあな、啓太。」
走り去る丹羽を唖然と見送っていた啓太はふと我に返ると、
「王様!学生会の仕事どうするんですか!」
聞こえないとは分かっていても、啓太は叫んでいた。
丹羽が和希の携帯に掛けると今から出かけるから、話があるならサーバー棟の駐車場に来て欲しいとの事だった。
暫くすると和希が走って来て、丹羽を見ると嬉しそうに微笑んだ。
「王様、電話ありがとうございました。」
「ああ。これから出張なんだってな。」
「あっ、はい。啓太に聞いたんですね。」
「ああ。偶には和希の口から聞きたかったぜ。」
「ごめんなさい。忙しくてつい…」
申し訳なさそうに言う和希の頭を丹羽はポンッと叩く。
「まあ、今に始まった事じゃないけどな。これでも俺は一応お前の恋人なんだからさ。親友の啓太よりも優遇して欲しいんだよ。」
「王様…」
「啓太に言うなとは言わないけどよう。啓太とは同じ学年なんだし、授業の関係だってあるって分かってる。だけどよう、なんかこうすっきりしないんだよ。啓太が知ってて、俺が知らないって事がよう。」
頭をガシガシ掻きながら、
「まあ、これは俺の我侭だから気にしないでくれ。」
そう言った丹羽の手を和希はギュッと握った。
「和希?」
「王様に辛い思いをさせてごめんなさい。」
「そんな顔するなって。俺は気にしてないって言ったろう?」
「でも…」
「本当に気にするな。」
「違うんです。俺、王様に言うのが嫌だったんです。」
「嫌?」
「だって、暫く王様に会えなくなってしまうんですよ。」
「和希。」
「ただでさえ一緒にいる時間が少ないのに出張に行ったら数日は確実に会えなくなってしまうんです。そんな悲しい事を言うなんて俺には辛くて言いづらかったんです。」
「和希、お前ってなんて可愛いんだ!」
そう言うと丹羽はギュッと和希を力任せに抱き締めた。
「…痛っ…」
和希の声に丹羽は気付くが、抱き締めている手を緩める事はなかった。
「悪い。でも、可愛い事を言う和希も悪いんだぜ。」
耳元でそう囁かれて、和希は仕方がないと言う顔をした。
暫くすると丹羽はボソッと言った。
「何か、お前といると落ち着かねェなぁ」
「えっ?」
和希は驚いた顔をして丹羽を見上げた。
「それって…どういう意味ですか?」
「ああ、悪い。他意はないんだ。」
「でも…」
不安げに瞳を揺らす和希に、
「スーツ姿のお前だと何か変な感じがするんだ。それに理事長の時はいつもコロンをつけてるだろう。そのせいかいつもの和希と違う気がしてな。」
「でも、どんな姿をしていても俺は俺ですよ。」
「ああ、分かってる。」
「本当に?」
「お前もしつこいな。」
呆れ顔の丹羽に和希は頬を膨らませて言う。
「恋人から落ち着かない、なんて言われたら誰だって傷つきますよ。」
和希の『恋人』発言に丹羽の頬は緩む。
再び和希をギュッと抱き締めると、
「このまま、どこかにさらって行きたくなるような事言うなよ。」
「えっ?」
驚いた声を出した和希に丹羽は参ったという顔をした。
「まったく…本当に無自覚で人を夢中にさせるんだから性質が悪いぜ。まぁ、惚れた弱みだから仕方がないか。」