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和希のお誕生日まで後1日

『デートのお誘いに来たんだけど?』(成瀬×和希)

1年の教室にやってきた成瀬は嬉しそうに和希に声を掛けた。
啓太と楽しく会話をしていた和希は、自分に声をかけてきた相手が成瀬だと知るとため息を付きながら、
「成瀬さん…何か御用ですか?」
「相変わらずつれない言葉しか掛けてくれないんだね、遠藤は。」
「そうですか。俺はこういう奴なんで嫌でしたら声を掛けるのをやめて下さって結構ですよ。」
そう言うと視線を啓太の方に戻すと、啓太は苦笑いをしていた。
「啓太?どうしたんだ?」
「和希、相手は先輩なんだからもう少し優しく話し掛けてあげたら?」
「優しくって…俺は十分優しく話しているつもりだけど。」
「もう、それのどこが優しいんだよ。いくら成瀬さんが苦手な相手だからってその態度はどうかと俺は思うよ。」
そう言った啓太に成瀬は抱き付いた。
「啓太〜!!君は本当に優しい子だね。」
「な…成瀬さん…」
「本当にいい子だよね。啓太ってまるで天使のような子だよ。」
「天使って…」
「本当に可愛い。」
そう言いながらギュッと啓太を抱き締めた。
いつもならここで『やめて下さい!啓太が嫌がってるじゃないですか!』と和希が言って啓太から成瀬を引き離そうとするのだが…
どういうわけか、いくら待ってもその気配がなかった。
おかしい…
成瀬がそう思って和希の方をチラッと見ると、そこには呆れた顔をした和希がいた。
「え…遠藤?」
「何ですか?成瀬さん。」
「今日はどうしたの?いつもみたいに僕と啓太を引き離さないの?」
「別に。成瀬さんが啓太に抱きつくのは啓太が好きだからでしょう。俺は別に止めませんよ。」
「遠藤?」
「和希?」

いつもと違う反応をした和希に啓太も成瀬も驚きを隠せなかった。
成瀬は啓太から離れると、和希の手を握り締め、
「どうしたの?遠藤。」
「な…何するんですか!」
いきなり手を握られた和希は慌ててその手を払った。
だが、それくらいでめげる成瀬ではない。
再び和希の手を握り締めると、
「ごめんね。僕が啓太を抱き締めたから寂しくなったんだよね。」
「はぁ?どうしてそうなるんですか?」
「いいんだ。遠藤は恥ずかしがりやさんだからね。僕はそんな遠藤が好きだよ。」
和希は頭を抱え込みたくなった。
いったいこの人の頭の中はどうなっているのだろうか?
真剣にそう思ってしまった和希だった。
そんな和希の気持ちなど知らない成瀬は、
「ねえ、遠藤。今からちょっと一緒に出かけない?」
「はい?」
「校舎の裏側なんだけど、アジサイが咲いている場所があるんだ。」
「アジサイですか?」
「うん。とっても綺麗なんだよ。今頃見ごろだと思うから一緒に見に行こうよ。」
「いいですよ。啓太も行くだろう?」
「えっ?俺?俺はいいよ。」
啓太は慌てて断った。
「俺、ちょっと用があるんだ。」
「そっか。なら仕方がないな。」
がっかりした顔の和希に啓太は、
「和希は行くんだろう?」
「俺?啓太が行かないなら行かないよ。」
「遠藤、行かないの?」

驚く成瀬に、
「だって、成瀬さんも啓太が一緒の方がいいでしょう?」
「ううん。僕は遠藤と2人きりがいい!」
「俺と?どうしてですか?」
「どうしてって…どうして僕がここに来たのか分かってる?デートのお誘いに来たんだけど?」
「…」
「遠藤?」
「デートって誰と誰がですか?」
「僕と遠藤に決まってるじゃないか。」
「……はい……?」
不思議そうな顔をして和希は成瀬を見つめる。
そんな和希の顔を見て成瀬は微笑み。
「もう、遠藤ってば可愛い!」
成瀬はそう言いながら、
「僕は遠藤とデートしたくて誘いに来たんだよ。僕の誘いを受けてくれるね。」
固まってしまった和希の背を啓太はソッと押すと、
「成瀬さん、和希の事よろしくお願いしますね。」
「うん。」
「和希の事、泣かせたら俺が許しませんからね。」
「分かってるよ。幸せにしてみせるから安心してね。」
「それじゃ、和希、楽しんで来てね。」
啓太の笑顔にハッとなった和希は慌てて、
「け…啓太?」
「アジサイが綺麗だったら明日俺を連れて行ってね、和希。」
啓太の一言に和希は嬉しそうに微笑むと、
「啓太がそう言うんだったら、行ってくるよ。明日、一緒にアジサイを見に行こうな。それじゃ、成瀬さん、連れてってくれますか?」
「もちろん!」
啓太は和希と成瀬が教室から出て行く姿を見送っていた。
先日、成瀬から和希に告白したと報告を受けた啓太だった。
もちろんいい返事などもらえなかった。
一言「あんた、自分が何を言っているか分かってるんですか?話にもなりませんので失礼します」
そう言ってあっさり振られたそうだ。
だが、それで諦める成瀬ではない。
あの手、この手を使って何とか和希と両想いになろうと頑張っているらしい。
その成果はこうしてちょっとづつではあるが効果を表している。
和希は気が付いていないだろう。
2人きりで出かけたと言う事に…
「成瀬さんに幸せにしてもらうんだぞ、和希。」
まだ、恋を自覚していない親友を思って啓太はそう囁いたのでした。

成瀬さん片思い設定の話でした。
和希に『好き』と伝えた成瀬ですが、まるで相手にされませんでした。
でも、そんな事ではめげない成瀬さん。
告白で一歩前進したと信じて頑張っています。
頑張れ!成瀬さん!
            2011年6月8日

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