Afterwards 1

「和希、本当に一人で大丈夫か?」
心配そうに和希の顔を覗き込む丹羽。
そんな丹羽に和希は少し困った風に笑い、
「大丈夫ですよ。」
「でもよう、和希歩けないんだろう?心配だぜ。」
「ここまで王様にして貰ったから平気ですよ。」
丹羽に風呂に入れて貰い、さっぱりとしている和希。
ベットの側にはサイドテーブルが置かれ、ペットボトル3本と朝食用のサンドイッチが置かれている。
昨夜から今朝まで寝ずに和希を抱き続けた丹羽。
実はまだ物足りないのだが、これ以上は和希が持たないだろうし、学生会の仕事をサボる訳にもいかず、丹羽は渋々諦めたのである。
ついさっきまで丹羽の下で乱れ、甘い声を上げていた和希は、もういつもの和希に戻っていた。
「本当に大丈夫ですから。安心して仕事をしてきて下さいね。」
和希の声に丹羽はハッとする。
「あ…ああ…でも何かあったらすぐに連絡入れろよ。」
「はい。ホント心配症なんですね、王様って。」
クスクスと和希は笑う。
そして、丹羽の腕を掴むと自分の方へ引き寄せて、触れるキスをする。
驚く丹羽にはにかむ様に笑うと、
「いってらっしゃい、王様。」
まさかこんな朝が来るなんて夢にも思ってなかった。
3ヶ月前、思いきって告白した丹羽に良い返事をしなかった和希。
少しずつ、本当に少しずつ和希の頑なな心を解していった。
気付くと、丹羽だけに見せる笑顔がそこにはあった。
そして…ついに昨夜思いが叶って結ばれた。
でも、欲を言えば…
“王様”ではなく“哲也”と名前で呼ばれたい。
“好き”“愛してる”とも言って貰いたい。
何もかも一変に求める事など無理なのだろうから、今はこれ以上望んではいけない。
丹羽はそう思い、今はここまでの我慢だと自分に言い聞かせる。
微笑む和希に丹羽は、これ以上ない笑顔で答える。
「じゃあ、行ってくるな和希。」
そう言うと部屋を出て行った。
一人残った和希は、朝食には手を付けずそのままベットに横たわった。
「こんなにきついとは思わなかった…」
そう言いながら、丹羽の枕に顔を埋めた。
「…王様の匂いがする…」
昨夜王様の誕生日プレゼントとしてここで王様に抱かれた俺。
大好きな王様に求められたのは嬉しかった。
嬉しかったのだが…朝まで寝ずに抱かれるというのは、どうかと思ってしまう。
お陰でだるいし、腰を中心にして身体中が痛い。
だるくて、痛いだけならまだ何とかなる。
問題は足に力が入らず、歩くことはおろか、立つ事すらできない。
お陰で仕事は休む羽目になる。
連絡を入れた時の石塚のあの言葉も気になる。
「解りました。本日はゆっくりとお休みになられて、身体を回復なさって下さい。それから、おめでとうございます。」
何がおめでたいんだか、その意味が解って言ってるだろう石塚の勘の良さには平伏してしまう。
さりげなくサラッと言って欲しくない台詞だった。
その上、一晩寝ていないのにも関わらず、生き生きとして学生会室に出かけて行った丹羽。
「意外とタフなんだな王様って。」
欠伸をしながら和希は呟く。
「少し寝よう…」
寝たら少しは身体も楽になるかもしれない。
そう思いながら和希は夢の世界へと入っていく。
何も知らないまま…幸せのまま…
そう…
今学生会室では幸せの絶頂の丹羽が、中嶋に嬉しそうに昨夜の事を話している事を…
そして後日中嶋から、丹羽から聞いた火が出る程恥ずかしい話を聞かされる羽目になる事を…
和希は知らずに、幸せを抱き締めながら眠りに付いたのであった。




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