Another Addition 12

出口はすぐに見つかった
柔らかなその光は王様を思い出させる
俺は微笑んだ
あの光を抜けたらきっと外に出られる
もう自分を見失わない
遠藤和希は今日で最後だけれども
明日からは鈴菱和希として1人でも頑張って生きていこう
この思い出がある限り俺は1人でも生きていけるから


『影からそっと遠藤の事を守らせてくれ…これが…俺の遠藤への愛し方だ…』
そう決心した丹羽はすっきりとした顔で和希を見た。
その安らかな寝顔に丹羽は見惚れていた。
「遠藤…今度こそ幸せを掴むんだぞ。お前には笑顔が1番似合うんだからな。」
そう言って、その頬に触れようとした手を慌てて引っ込めた。
もう、俺には遠藤に触る資格はないんだ。
だけど…
丹羽はじっと和希を見てそっと呟いた。
「最後に1度だけキスしていいか?遠藤との思い出が欲しいんだ。」
目を覚まさない和希に丹羽はそう言うと、そっと和希の唇に自分の唇を触れさせるとすぐに離れた。
「ありがとな、遠藤。愛してる…」
そう言って丹羽は側の椅子に座って、窓の外を見てた。
「遠藤、いい天気だぜ。早く目を覚ましてまた笑顔を見せてくれよ。」
そう呟いた丹羽の耳に、聞きなれた声が聞こえた。


「王…様…?」
丹羽は驚いて和希の方を見た。
そこには、目を開いた和希が驚いた顔をして丹羽を見ていた。
「遠藤?目が覚めたのか?」
「えっ?目が覚めたって…俺…ここ…保健室…?」
不思議そうな顔をする和希に、
「遠藤は2日前に教室で倒れたんだぜ。思い出せねえか?」
「え〜と…そういえば確か教室で啓太と話てたような気がするなぁ…って、2日前?」
驚く和希が可愛くて丹羽は思わず微笑んでしまう。
「何だ?覚えて無いのか?」
「あっ…はい。すみません。」
「いや、俺に謝られてもな。とにかく良かったぜ。啓太なんてもの凄く心配してたんだぜ。今、携帯で呼んでやるからな。」


携帯を握った丹羽に和希は慌てて声をかけた。
「その前に俺、王様に話があるんです。聞いてもらえますか?」
和希の真剣な眼差しに、丹羽は携帯を胸のポケットにしまいながら、
「何だ?」
そう一言だけそう言った。
和希はジッと丹羽を見詰めた。
これが最後なのだからと…大好きな王様との最後の会話だから、悔いの残らないように話さなくては…そう和希は思った。
「王様…俺…今日で学生を辞めます。」
「えっ…?」
「今日中に退学届けを出して、明日からは鈴菱和希に戻ります。今までありがとうございました。」
頭を下げる和希に丹羽は慌てた。
「なんでだ?俺がこの間あんな事をしたからか?だから辞めるのか?」
「ち…違います。俺もう疲れちゃったんですよ、学生と理事長の二足ワラジをはいてる生活に。それに、情報漏洩問題も解決した事ですし、そろそろ本業に戻りたいんです。」
和希は微笑みながら答えた。
その微笑みが酷く寂しそうだと丹羽は気付いていた。


けれども、本当はあの事が尾を引いていると丹羽には解っていた。
「なあ、遠藤。俺はもうお前を追いかけたりしないから。付きまとわないから、考え直さないか?お前がいなくなったら、啓太が悲しむぜ。」
「けど…」
「俺は遠藤にここに、ベルリバティスクールに残ってもらいたい。」
「王様…だって…俺がいたら…迷惑でしょ…?」
切なそうな顔で聞いてくる和希を丹羽は抱き締めたかったが、手をギュッと握って我慢した。
「そんな事あるわけないだろう?俺は…」
黙りこくった丹羽をジッと和希は見詰める。
その続きは何?…和希は恐る恐る聞いた。
「俺は…何ですか?」
「遠藤…その続きを俺はお前に言っていいのか?」
丹羽は食い入るように和希を見詰めながら言った。
和希は胸の鼓動を感じながら、
「言って下さい、王様。俺は…その続きが知りたい…」
「俺はお前が好きだ。あんな事をしてしまったが、俺はお前を愛してる。」
「う…嘘…だ…」
「嘘?俺は真剣だぞ!」
「だって、王様は俺を抱いた翌日から俺の前に姿を現さなかったじゃないですか!」
「あ…あれは…」
「王様は俺の身体だけが目当てだったんでしょ!だから1度抱いたから満足したんじゃないんですか!それとも…まだ俺の事抱き足りないんですか!」
和希は丹羽に向って怒鳴っていた。


“バシッ!!”
保健室に丹羽が和希を叩いた音が響き渡った。
唖然とする和希に丹羽は、
「誰が、遠藤の身体だけが目当てなんて言ったんだ!俺はそんな風にお前に対して思ってなんていない!」
「嘘だ!だったら何であの日から俺の前に姿を現さないんだ!口では何とでも言えるだろう!」
「俺は…俺はお前の顔を見れなかったんだ!」
「…俺の顔を見れなかった?何ですか?それ?」
「俺に抱かれそうになった時、お前はヒデに助けを求めたろう?なのに、俺はそれを無視してお前を無理矢理抱いたんだ。そんな男の顔なんて、遠藤は2度と見たくないだろう?」
「王様…」
和希は驚いて丹羽の話を聞いていた。
確かにあの時和希は言った。
『助けて、中嶋さん』と…
でもあれは怖かったからであって丹羽とするのが本当に嫌だかどうかは、未だによく解らない事だった。
あの時、もしも王様が和希の事が好きでどうしても抱きたいと頼まれたら…俺はどうしていただろうか?


「だから俺は決めたんだ。2度と遠藤の前に姿を現さないと。遠藤の事を影からそっと見守っていこうと決めたんだ。」
切なそうに言う丹羽を和希は見詰めた。
もしかしたら、王様も俺の事が好き…?
身体が目当てじゃなく、俺の事が好きなのか…
和希の目から涙がこぼれ落ちる。
丹羽は驚いて、慌てる。
「どうしたんだ、遠藤?」
和希は涙をこぼしながら、丹羽に尋ねた。
「王様…王様も俺の事好きなんですか?」
「ああ、好きだ。…んっ?…王様もって…」
「俺は王様の事が好きです。でも…中嶋さんの事もまだ好きなんです。俺はずるい大人です。こんな俺でも王様は好きだと言ってくれるんですか?」
丹羽は震える手で和希の涙を拭った。
ほんの少し和希は震えたが丹羽のしたい様にさせていた。
「俺は遠藤をずるい大人だとは思ってない。遠藤がヒデを好きなのを承知で遠藤に惚れたんだ。だから、遠藤はそのままヒデを好きなままでいろ。」
「いいんですか?」
「ああ。いつかきっと、ヒデより俺の方がいいと言わせてみせる。」
和希は微笑んだ。
「随分と自信たっぷりに言うんですね。」
「ああ。俺は遠藤が本当に好きだからな。それよりも…」
丹羽は躊躇しながら言った。
「俺はまた遠藤に触れてもいいのか?」
「…はい…でも…いきなり抱くのはもう嫌ですよ?」
丹羽は頭をガシガシ掻きながら、
「解ってるよ。もう、無理矢理は絶対にしねえ。ゆっくりと遠藤と恋をしたいんだ。まずは恋人繋ぎから始めるか?」
和希はキョトンとした後、笑いだした。
「王様、それって中学生みたいですよ?」
クスクスと笑う和希を丹羽は嬉しそうに見詰めていた。
和希のこんな無邪気な笑顔が見れる日が来るとは思わなかったからだ。
「遠藤、お前笑いすぎだ。」
「だ…だって…」
「いい加減にしないとキスするぞ。」
「解りました。キスはまだ困りますから、恋人繋ぎから始めましょうね。そしてゆっくりと俺の恋人になって下さいね、王様。」
和希はふわりと微笑んだ。
その微笑に答えるように、丹羽は和希の柔らかい髪の毛をそっと撫でた。


本当の恋人同士になるには、まだまだ時間のかかりそうな2人だったが、お互いを思いやる気持ちからスタートしたこの恋はもうすぐ綺麗に花開く事になる。
保健室に和希の柔らかな声が響いていた。
「王様、大好きです。もう、俺の事を離さないで下さいね。」






やっと終わりました。
思ったよりも長くなってしまいましたが『Another Addition』いかがでしたでしょうか?
中嶋さんが好きな和希が失恋を経験し、いつしか和希に想いをよせていた王様に恋心を抱くようになる話です。
けれども、その道のりはけして優しいものでは無く、自分の気持ちとの葛藤でもありました。
2人が結びついた直接の原因は王様が和希を無理矢理に抱いた事だったのですが、その事がお互いの気持ちを気付かせてくれる事になったんです。
最後に…この話を書く機会を与えてくれたN様、どうもありがとうございました。
N様の一言がなければ、この小説は誕生しませんでした。
楽しいひと時を与えてくれたN様にお礼を言わせて下さい。
本当にありがとうございました。

連載開始 2007/12/3 連載終了2008/3/3


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