Another Addition 11

いつまでもこのままでいい訳がない
けれども…
気付いてしまったこの想いに
どうしたらいいのだろうか?
会いたい 触れたい 
その声でまた呼ばれたい
『遠藤』と呼んでもらいたい


「さてと。実はこれから職員会議があるんだ。誰か和希君についててくれるかい?」
松岡の頼みに啓太がすぐに答えた。
「あっ、なら俺が…」
「いや、啓太は学生会の仕事を手伝え。遠藤は丹羽に任せる。」
啓太の言葉をさえぎった中嶋の言葉に、丹羽は驚いて言った。
「へっ?俺が?」
「そうだ、頼んだぞ。」
そう言って啓太を連れて出て行こうとする中嶋。
「待ってくれ、ヒデ。俺じゃ、駄目だ。」
「何故だ?」
丹羽は戸惑いながら答える。
「万が一、遠藤が目覚めた時、目の前に俺がいたんじゃこいつが困るんだ。」
「どうしてそう思う?」
「そ…それは…」
中嶋はニヤッと笑う。
「それでは話にならんな。根拠のない話に納得する訳がないだろう、哲っちゃん。」
「それは…そうだけどよう…」
「ならこの話はここまでだ。後は任せるぞ。行くぞ、啓太。」
「はい、中嶋さん。王様和希の事よろしくお願いします。」
「丹羽君、頼んだよ。職員会議は遅くても2時間は掛からないと思うからね。」
「は…はい…」


3人が保健室から出て行くと、1人残った丹羽は困った様に和希を見た。
穏やかな寝顔を見て思った。
俺はやっぱり遠藤が好きだ。
遠藤を傷つけたけれども、無理矢理抱いてしまったけれども…それでもこいつが好きだ。
けど…きっと遠藤はもう俺なんか見たくもないんだろうな。
このまま遠藤が目覚めなかったら、俺はどうすればいい?
1週間前、俺があんな事さえしなければ、今も遠藤は笑っていたんだ。
ヒデへの気持ちは消えなくても、最近は穏やかな顔でヒデと啓太を見ていたんだ。
少しづつではあるけれども、ヒデへの想いは薄れてきていた筈だ。
なのに…
そんな風に自分の想いと真剣に戦っている遠藤に俺は何をした?
本当に好きなら、恋人になれなくても遠藤の幸せを願えた筈だ。
現に遠藤はそうしていたんだから…
なのに…俺はできなかった…
俺はガキだ…欲しいと思ったものが手に入らなかったのでムシャクシャしていただけだ。
こんな俺は…もう遠藤の側にいる資格なんてない。
でも…陰から見る分には構わないよな。
絶対に遠藤に気付かれないように見てるから。
遠藤がヒデでない誰か別の奴を好きになって、幸せになれるまででいいから。
陰からそっと遠藤の事を守らせてくれ…
これが…俺の遠藤への愛し方だ…


暗闇の中でどれくらい時間が経ったのだろうか?
あの時思いっきり叫んだせいで、少しは心が軽くなった。
中嶋さんの事ははまだ好きだけれども、今では啓太と幸せになってもらいたいと思っている。
啓太といる時に見せるあの中嶋さんの笑顔が俺は大好きだ。
大好きな中嶋さんには幸せになってもらいたい。
幸せになれるのが啓太と一緒にいる事なら、俺はそれが1番いいと思ってる。
俺は、俺で別に幸せを探そう…そう思っていた。


けれども…そのせいで気付いてしまった自分の想い。
俺は…もしかして王様が好きなのか?
いくら邪険に扱っても『好きだ』と言って俺の側にいた王様。
でも…本当は心地良かったんだ。
他の誰でもない、俺だけを見て『好きだ』と言ってくれた王様が。
でも、あんな事になって…
それでも俺はあの行為に対してあまり嫌悪感はなかった。
ただ…あの時はもの凄く怖かった。
まさか王様があんな事をしてくるなんて、思ってもなかったから。
ただ怖くて、思わず中嶋さんに助けを求めてしまったんだ。
その時、王様があんな事を言うから思考が止まってしまったんだ。
終わった後はもう何が何だか解らなかった。
王様に謝られたって、どう反応すればいいか解らなかった。
ただ…同じ抱いてくれるなら嘘でもいいから抱きながら何度も『好き』と言ってもらいたかった。
『好きだ』の一言さえあったなら、王様をもっと別の意味で受け入れられたかも知れない。


そこまで考えた時、思わず笑いがこみ上げてきた。
「馬鹿だな、俺も…王様は俺の事が好きなんかじゃないのに…」
笑いと共に涙が出てきた。
「どうして…俺が好きになる人は俺を好きになってくれないんだ…」
零れ落ちる涙は止まる事を知らない。
「俺が好きだと言ってたら、1度抱いただけで見限らないでくれただろうか…」
未練たらしいとは思ったが、もう自分の気持ちに嘘はつきたくなかった。
「王様…貴方が好きだから…俺はもう遠藤和希は辞めます…」
そう決心する。
この暗闇は和希に本当の気持ちを教えてくれた。
だから…これ以上王様の目の触れる場所にはいたくなかった。
それはきっと王様も同じだと思うから。
俺の身体が目当てで近づいて来たんなら、もう用が済めば俺は邪魔なだけな存在だ。
俺は啓太と仲がいいから、どうしても学生会の手伝いに啓太と一緒に行く事になる。
俺を見るのは王様はもう嫌だろうから。
だから…王様…
貴方の前から俺は姿を消します。
王様、楽しい学生生活をこれからも送って下さいね。
俺は理事長として、ずっと王様の幸せを願ってます。


その想いに気付いたから心はもの凄く軽くなった
さあ出口を探そう
これからも生きていく為に
届かなかった想いは辛くて悲しいけれども
でも…今回は思い出があるから大丈夫
『好きだ』と言ってもらった言葉は真実として残るから
その言葉を胸に抱いて1人でも生きていける




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