Business 2

「なあヒデ。外はあんなにいい天気なのに部屋にこもってるって身体に悪いと思わないか?」
「そうだな。」
「なぁ、そう思うんならさ。今日はもう終わりようぜ。」
嬉しそうに言う丹羽を中嶋はジロッと睨む。
「誰かさんがサボらずに仕事をしてくれていたらこんな事にはならないんだがな。」
「うっ…解ったよ。やりゃいいんだろう。」
「そうだ。黙って仕事を片付ければいいんだ。」
「ったくよう。遠藤の奴、早く出張から帰って来ねえのかよ。ヒデの機嫌が悪くて嫌になるぜ。」
そんな丹羽の一人言を中嶋が聞き漏らすはずがない。
ニヤリと笑うと、
「丹羽。そんなに仕事を増やして欲しかったのか?気付かなくて悪かったな。」
そう言って丹羽の机の上にさらに書類を載せる。
「ヒデ〜これ以上できねえよ。勘弁してくれよ。」
「何を言ってるんだ。優秀で万能な丹羽哲也生徒会長ならこんな書類など楽勝だろう?」
「ううっ…」



丹羽は先程の台詞を後悔していた。
今日和希が海外出張から帰って来る事は啓太から聞いて丹羽は知っていた。
飛行機の時間も聞いていたのでもう大分前に帰って来ている筈なのに和希はまだここ学生会室に来ていない。
おそらくここよりも先に、啓太に会いに会計室にでも行っているんだろう。
恋人の中嶋よりも啓太を優先する和希に丹羽は困っていた。
口にこそ出さないが中嶋はそうとう苛立っているのが解る。
何しろ啓太の側には七条もいるからだ。
和希が七条に微笑むなどしたら中嶋の機嫌が超悪くなるのは目に見えている。
それなのに、その事に気付かず七条に笑いかける和希。
その度に丹羽はヒヤヒヤしていた。
何しろその機嫌の悪さは全て丹羽に返ってくるのだから。
丹羽はいつも思っていた。
ヒデもそんなに嫌ならはっきりと遠藤に言えばいいんだ。
遠藤は鈍いからおそらくヒデの機嫌の悪さなんかには気付いていないだろう。


その時学生会室のドアがノックされる。
「遠藤です。失礼します。」
やっと来てくれた…丹羽は安堵のため息をつく。
少なくともこれで俺はヒデからの八つ当たりもなくなるだろう。
和希は入って来た瞬間、
「あれ?珍しいですね、王様がいるだなんて。折角のお天気なのに雨がふるかもしれませんよ?」
「遠藤〜第一声がそれかよ…」
「失礼しました、王様。」
ニコッと笑うと和希は視線を中嶋に移す。
これ以上ない程の嬉しそうな顔で、
「中嶋さん、ただいま戻りました。」
「ご苦労だったな。疲れてないか?」
「はい。大丈夫です。それよりも…」
「何だ?」
和希は顔を赤らめながら、
「中嶋さんに会えなくて寂しかったです。」
俯きながら言う和希の頬を中嶋は優しく擦る。
顔を挙げ嬉しそうに微笑む和希。


二人の世界に丹羽はここからいなくなりたくなるが、今ここで逃げ出したらどんな恐ろしい事が待っているのか想像するだけでも恐ろしい。 しばらく見詰め合っていた二人だったが、
「和希、今日はもう仕事はないのか?」
「はい。飛行機と車の中でしてきましたから大丈夫です。」
「また無茶をしたのか?」
「平気です。もう、中嶋さんたら心配性なんだから。」
ヒデが心配性?
おい、遠藤。お前の目はちゃんと開いてるのか?…丹羽は驚いて和希を見た。
しかし、丹羽が見たのは幸せそうにしているカップルだった。
丹羽はため息を付きながら言った。
「ヒデ、遠藤の奴も疲れてるだろう?部屋に連れてってやれよ。俺はここでちゃんと仕事をするからさ。」
「ほう〜、珍しい事を言うんだな。」
「珍しくても何でもいいからよう。早く遠藤を休ませてやれよ。」
「…お前にしてはえらくこだわるな。まあいい。その代わりきちんと仕事をするんだぞ。」
「ああ。」
これ以上ここで中嶋と和希がいちゃつくのを見るよりはその方がずっといいと丹羽は思った。
「和希、部屋へ行くぞ。」
「えっ…?いいんですか?」
「ああ、珍しく丹羽が自分1人で頑張ると張り切ってるんだ。邪魔をしたら悪いだろう?」
「はぁ…なら…」
不安そうな顔をした和希の腕を掴み生徒会室から出て行く中嶋と和希。
1人残った丹羽は伸びをすると、
「さてと…静かになったから仕事をするか。」
そう言いながら、書類を手に取っていた。


中嶋の部屋に入るなり、中嶋は和希を抱き締め深い口付けをする。
口腔内を中嶋の舌が自由にまさぐる。
絡められて舌をくすぐられるようなキス。
そんな息もつけないくらいの激しいキスに和希は中嶋の服をギュッと握る。
クチュッと離された唇に和希の顔は火照り、目は潤んでいた。
「今日は疲れてるから止めるか?」
中嶋は和希の耳元で囁く。
和希は顔を中嶋の胸にうめながら、
「…いじわる…」
「何がだ?」
「解ってる癖にそう言う事をいうですか?中嶋さん。」
中嶋は嬉しそうに微笑みながら、
「和希、2人きりの時はなんて言うかもう忘れたのか?」
「うっ…」
「ん?」
和希は更に顔を赤くして、小さい声で言った。
「…英明…」
「何だ?」
「…して…」
「フッ…幾らでもしてやるさ…」
和希は中嶋に自らの唇を重ねながら、
「英明…好き…会えなくて…寂しかった…」
そんな和希を中嶋はそっと抱き上げてベットに優しく下ろす。
和希は中嶋の腕に触れながら、
「英明も…寂しいと…思って…くれた…?」
「ああ。」
和希の首筋に唇を這わせながら答える。
「10日分、愛してやるから覚悟しろよ。」
「…程ほどにして下さいね…」
和希はふわりと微笑んだだ後、甘い甘美な声を上げ始めた。




出張で10日も会えなかったので和希は寂しい思いをしてたんでしょうね。
でも、すぐには甘えられない所が可愛い所だと思ってます。。
今回も王様は和希と中嶋さんの熱々ぶりに当てられてしまいましたね。
毎回ご苦労様です。
もうそろそろなれた頃ではないのでしょうか?(笑)
七条さんの予想通り、その日の夕食に和希が食堂に現れる事はありませんでした。
多分、翌日も中嶋さんの部屋から出られない状態だと思ってます。
                     2008年8月11日



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