Christmas Eve 1

クリスマスにはセーターを編んでプレゼントをしよう…そう決めたのは先月の20日の日。
啓太が編んだマフラーをしていた中嶋さんが羨ましくて、哲也が俺に「何か作って欲しい」と頼んできたからだ。
哲也からのおねだりなんて珍しいので(アレのお願いは勿論カウントしない)思わず「いいですよ」と引き受けてしまった。
引き受けた時、日数が少ないのにもかかわらず、クリスマスにセーターを贈りたいと思ってしまった。
で…頑張ってはみているんだけれども…
この時期は仕事が結構忙しい事をコロッと忘れていた俺は、睡眠時間をろくに取らずに頑張ってはみているものの、ちっとも進んでない状態だった。


「ファ〜」
隠れて欠伸をしたつもりだったけれども、啓太にはしっかりと見られていたらしい。
「和希、今欠伸した。」
「啓太?見ていたのか?」
「見えたんだよ。だってこの頃和希眠そうなんだもの。仕事忙しいの?」
「まあな…」
2人して小声で話し始める。
「もうそろそろ入学者を決定しなくちゃならないし、研究所の方も年末に備えて色々と忙しいんだ。」
「そっか、難しい事は解らないけどあまり無理はするなよ、和希。」
「ありがとう、啓太。」
笑って答えたけれども、やはり寝不足は応えていた。
「啓太は今日も学生会の手伝いか?」
「うん!本当はもう引き継ぎが済んでいるから、王様も中嶋さんも行く必要はないんだけれどもね。
溜まっている書類が片づかないと引き継ぎが終わらないって中嶋さんが言うんだよ。」
「確かにな。中嶋さんの言う通りだよ。あれだけ会長印が押してない書類って言うのも考えものだよな。」
「だから、中嶋さんが見張って王様にやらせてるんだ。」
「はは…その姿が目に浮かぶよ。さてと、俺はそろそろサーバー棟に行ってくるよ。」
「頑張れよ、和希。」
「ああ、啓太もな。」
笑いながら2人で教室を出ると、それぞれの方向に向かって歩いていった。


忙しい時に限って忙しい仕事が来る。
偶にある事なんだけれども、よりにもよってどうして今なんだろうと思ってしまう。
「出張?」
「はい。急で申し訳ないのですが、今から関西支社へ行って頂きます。飛行機のチのケットは手配済みですのでお急ぎ下さい。」
「ああ、解った。」
いつ急ぎの出張が来てもいいように、理事長室には2〜3泊用の出張の用意はしてある。
そのバックを持ち、その中に編みかけのセーターと毛糸を入れ、理事長室を出て車に乗る。
乗ったら直ぐに岡田と仕事の打ち合わせ。
ゆっくり一息を付く暇もなく、出張先のホテルに着いた時、時刻はとっくに翌日になっていた。
「わざわざ空港まで迎えに来なくてもいいのに…」
ため息をつきながら和希は呟いた。
関西空港で和希を待っていたのは、関西支社の社長と副社長。
“お疲れ様でした”と言う言葉と共に“軽く一杯”と誘われて断れる訳にもいかず、そのまま料亭に行かされた。
仕事の話はもちろんだが“そろそろご結婚はなさらないのですか?”の質問には、さすがに“男の恋人がいます”とは言えず、適当に誤魔化すが“いい方がいるんですよ”としつこく言われ、側で聞いていた岡田ですら苦笑いをしていた。
もうシャワーを浴びてさっさと寝てしまおうかとも思ったが、少しでも編んでおきたくて1時間だけと決めてセーターを編み始めた。
その日はプライベートの携帯を開く事すら忘れてしまっていた。


2泊3日の出張も無事に終わり、寮に戻ったのは日付が変わってすぐの頃。
真っ直ぐに自分の部屋に戻り、鍵を開けようとしたら既に鍵は開いていた。
「えっ?俺鍵を掛けるのを忘れてた?」
恐る恐るドアを開けると、
「よう、お帰り!遅かったな。」
その声に驚いてドアの前で唖然として立っている和希にベットの上で寝ころんでいた丹羽は笑って言った。
「どうしたんだよ、そんな所に立ちすくんで。」
「て…哲也こそ…そんな所で何をしているんですか?」
「何って、和希の帰りを待ってただけだぜ。」
そう言ってにこやかに笑う丹羽に和希は呆れて言う。
「待ってたって…俺メールはしたけれども何時に帰るかは言いませんでしたよね。」
「ああ、解ってるさ。和希は忙しいんだから仕方ないだろう。」
「ごめんなさい。」
少し俯いて申し訳なさそうに謝る和希の側に丹羽はベットから降りて近づき、優しく頬を撫でる。
「謝る必要なんてないだろう。」
「でも…俺はいつも哲也に我慢ばかりさせているから。」
「馬鹿だな、何くだらない事を気にしてるんだ?俺はそんな事気にした事なんてないぜ。」
そう言って丹羽は和希を抱き上げると、和希は真っ赤になって少し暴れる。
「や…やだ…下ろして、哲也。」
「別に良いだろう?ベットまで運んでやるよ。それよりお前ちゃんと食べてるのか?痩せたんじゃないか?いつのより軽いぞ。」
ビクッとする和希。
確かにこの数日仕事の忙しさと、編み物のせいで疲れてて、あまり食欲がなかったから食べてなかった。
その上、寝不足も重なって体調もあまりよくなかった。
でもクリスマスまで後1週間だから頑張らないと…そう思ってかなり無理はしていた。
「そうかな?哲也の気のせいだよ。」
「そうか?」
和希をベットに下ろしながら、丹羽は納得しない顔をする。
「それよりも哲也、今夜は脱がせてくれないの?」
「だってお前…疲れてるだろう?」
「少しは疲れてるけど、哲也に抱かれたいんだけどな。」
「まったく。明日学校を休むなんて言うなよ。」
「解った。約束するから。」
丹羽の耳元でそっと呟いてその耳にキスをする和希。
少し赤くなった顔でふわりと微笑むと、
「ただいま、哲也。3日間寂しかったんだから。」
「お前…さっきから可愛い事ばかり言いやがって。押さえが効かなくなっても俺のせいじゃないからな。」
そう言いながら食い入る様なキスをする丹羽だった。


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