Christmas Eve2

翌朝やはり和希は起きられなかった。
午後には授業に出るからと丹羽と約束をして、1人部屋に残った和希はセーターを編み始める。
後1週間でクリスマスイブ。
この時期は仕事が忙しいし、今回の様に急な出張も入る事もあるので、多少疲れていても時間がある時に少しでも編んでおかないと間に合わないくなると思っていた。
夕べは久しぶりだったせいか、朝方までかなり激しく求められてしまったので正直言って寝不足の身体にはきつかったが、自分も求めてしまったので、お互い様かなと思いながら和希はセーターを編み始める。
どのくらい時間が経ったのだろうか?
携帯に丹羽からのメールが入ってきた。
『和希、そろそろ起きた方がいいぞ。昼飯だがヒデと啓太と一緒に食堂で食べるから、お前も食べに来いよな。待ってるぜ。』
メールを見て微笑んだ和希は返事を打つと、伸びをしてから制服に着替えると部屋を出て学園の食堂に向かった。


昼食を終えた後、丹羽達と別れ啓太と教室に向かっていた和希は啓太に話し掛けられる。
「なあ和希、さっきあんまり食べてなかったけど大丈夫?」
心配そうな顔でのぞき込まれて、和希は苦笑いをする。
「ああ、出張先で結構飲み食べしすぎて今食欲がないんだ。」
「それって…」
「そう啓太の想像通りだよ。胃もたれってやつだ。」
顔を見合わせて笑う2人。
「ならいいけど。顔色もあんまり良くないし、本当に大丈夫?」
「大丈夫だって。啓太は心配性だなぁ。」
「だって和希はほっとくとすぐに無理するんだから、心配なんだよ。」
「ありがとう、啓太。でも、本当に…」
「和希?」
会話が途切れた和希が気になって、啓太が和希の方を振り向くとそこには真っ青な顔をした和希がいた。
「和希!お前顔色悪いぞ!」
「だ…だいじょ…」
そこまで言った和希は意識を飛ばし、その場に倒れた。


和希が目を覚ますと、白いベット、白いカーテン、白い天井、そして薬品の匂い。
一目でここが保健室だと解る。
ふと気付くと手には点滴をしている。
「俺…また倒れちゃったのか…」
和希がため息をつきながら言うと、カーテンが開き松岡が入って来た。
「和希君、目が覚めたようだね。気分はどうかな?」
「はい、大丈夫です。迅さん、俺また迷惑を掛けてしまったみたいですね。」
「みたいじゃなくて、掛けたんだよ。」
「ごめんなさい。俺また睡眠不足ですか?」
「ああ。今回も睡眠不足と軽い栄養不足だ。この時期は仕事が忙しいと解ってるんだろう。それに昨日まで出張だったんだろう。ほどほどにしないと疲れが取れないよ。」
「?」
何を言われてるのかよく解らない顔をした和希を見て、松岡はため息を1つつくと、自分の首筋を指差した。
「ここ、気付いてないのかい?楽にしてあげようとネクタイを外して、シャツの第一ボタンを外したら幾つもついているから呆れたよ。」
和希は真っ赤になりながら、慌ててシャツの襟元を掴み隠した。
そんな和希を見て松岡は微笑みながら、
「もう遅いと思うよ、和希君。盛んなのは構わないが、もう少し自分の身体を労らないとね。何事も無理しない程度にね。」
「はい…今度からは気を付けます。」
「解れば宜しい。」
松岡の笑顔につられて、和希も笑った。


「和希、具合はどう?」
授業が終わったので、啓太が和希の鞄を持って様子を見に来た。
「啓太。ありがとう。それにごめんな。心配掛けて、もう大丈夫だから。」
「本当に?」
啓太は顔を近づけて和希の顔色を確認する。
「うん!大丈夫だね。でも今日はもう帰って寝た方がいいよ。」
「うっ…啓太…俺少しだけサーバー棟で仕事をしたいんだ。」
「何言ってるんだよ、和希。今さっき倒れたばかりなんだぞ。」
「解ってるけど…ほんの少しだからいいだろう?直ぐ戻ってくるから。そうだ!夕食までには絶対帰ってくるから。」
「もう。仕方ないなあ。その代わり夕食は一緒に食べるからな。7時に食堂の前で待ってるから。」
「解った。ありがとう啓太。それからお願いなんだけど、俺が倒れた事王様には黙ってて貰えないか?」
「えっ?」
「頼むよ、啓太。王様にあんまり心配掛けたくないんだよ。」
「でも…」
「黙っててあげたらどうだい?伊藤君。」
「松岡先生。」
啓太の後ろにはいつの間にか松岡が立っていた。
「和希君が望んでいるんだからね。」
困った顔をしながらも啓太は頷いた。
「今回だけだからな、和希。」
「ありがとう。助かるよ。」
「和希君、これは薬だ。毎食後に1袋飲むんだよ。それから暫くは毎日ここに顔を見せに来る様に。」
「はい、解りました。」
薬を受け取りながら、和希はそう答えた。


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